↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロールバック・ライフ ~ブラックSE(30)、10年前の専門学生に戻ったので未来知識で全部やり直す~  作者: 深夜三時
第1章 再起動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/35

第01話 午前3時14分

 2027年4月7日、午前3時01分。


 サーバールームの空調は、春だというのに真冬みたいに冷たかった。


「相沢! まだ戻らないのか!」


 スマホのスピーカーから、三上部長の怒鳴り声が割れて響く。


「今、ロールバックを試してます。でも差分が多すぎて……」


「言い訳はいい! 朝の勘定系オープンまでに戻せなかったら、ウチは終わりだぞ!」


 通話が切れた。


 俺――相沢湊、30歳。三次請けSIerのシステムエンジニア。


 肩書きだけは立派だが、実態は元請けの下請けの、さらに下で働く「障害対応要員」だ。


 モニターには、赤いエラーログが滝のように流れ続けている。


 原因はわかっていた。


 元請けが鳴り物入りで導入した、AIエージェントによる基幹システムの自動改修。人間のレビューを「効率化」した結果、深夜の自動デプロイが連鎖的に依存サービスを書き換え、今やどこが壊れているのか誰にもわからない。


「……こんなの、人間一人で直せるわけないだろ」


 誰もいないサーバールームで、俺は乾いた笑いを漏らした。


 去年からAIに仕事を奪われ、Javaの保守案件は半分に減った。残ったのは、AIが壊したものを夜中に直す仕事だけ。


 缶コーヒーはとっくに空だ。最後に家で寝たのは、いつだっただろう。


◇


 キーボードを叩きながら、ふと、どうでもいいことを思い出す。


 ――10年前。専門学校2年の春。


 あの頃の俺は、まだ未来に期待していた。


 卒業して、ちゃんとした会社に入って、ちゃんとしたエンジニアになるんだと。


 現実は違った。


 専門卒で入れたのは、名前も聞いたことのない下請けの会社。月100時間の残業。気づけば20代は、全部モニターの前で溶けていた。


 後悔なら、数えきれないほどある。


 ひとつめ。母さん。


 2023年、進行がんが見つかったときには、もう手遅れだった。健康診断なんて何年も受けていなかったらしい。「忙しいだろうから」と、母さんは入院するまで俺に連絡しなかった。


 俺はその年、一度も実家に帰らなかった。


 ふたつめ。結衣。


 同じ専門学校に通っていた幼馴染。2020年の春、緊急事態宣言で会えなくなって、電話のたびに喧嘩をして――俺は彼女の話を、ちゃんと聞かなかった。


 風の噂で、結婚したと聞いた。相手は俺じゃない。


 みっつめ。颯太。


 専門学校で一番の天才だった親友は、仮想通貨に人生を狂わされた。


 2017年の12月、あいつは笑いながら俺にスマホの画面を見せてきた。


『見ろよ湊、ビットコイン233万! 俺、億り人になれるかもしんねえ!』


 翌月、あいつが使っていた取引所は不正アクセスを受けて出金が止まり、身動きが取れないまま、ビットコインは見る影もなく暴落した。そこから颯太は、取り返そうとして怪しい投資話にのめり込み――やがて連絡がつかなくなった。


 233万円。


 あの数字だけは、なぜか今でも覚えている。


「……あの時、俺も買ってりゃなあ」


 そうしたら、何か変わっていただろうか。


 母さんを、ちゃんとした病院に連れて行けただろうか。


 結衣の話を、聞く余裕があっただろうか。


 颯太を、止められただろうか。


◇


 午前3時10分。


 視界の端が、じわりと暗くなった。


 まずい、と思ったときには、指先の感覚がなかった。心臓が、変なリズムで跳ねている。


 それでも、目だけはモニターから離せなかった。


 ログの最後に、見覚えのないコミットが表示されていたからだ。


 commit 7a3f…

 Author: unknown

 Date: 2027-04-07 03:14


  revert: 2017-04-07


「……なんだ、これ」


 誰が書いた? どのリポジトリだ?


 2017年4月7日――ちょうど10年前の、今日。


 意味を考えるより先に、椅子から体が滑り落ちた。


 冷たい床。耳鳴り。遠くで鳴り続ける、サーバーのファンの音。


 ああ、そうか。俺、ここで終わるのか。


 30年。何も成し遂げられなかった人生だった。


 ――もし、もう一度やり直せるなら。


 今度は、間違えない。


 午前3時14分。


 モニターの光が、真っ白に弾けた。

お読みいただき、ありがとうございます!

深夜三時です。初めての連載になります。


次回、湊が目を覚ますと――。

本日中にもう何話か投稿します。


「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークと、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると

とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。