99. 異端の翼は共有する 2
Aクラス魔術士といえば、たしかに優秀な部類に入る。
が、魔術士のクラスなんて実戦においては参考程度にしかならない。
そういった点で見れば、テルラが戦闘に向いているとは到底思えなかった。
「わたしが行っていたのはエーリュスフィア騎士団が回収したとされる異端書、その数ページの奪取です」
「本体じゃないのか、意外だな」
彼女の口ぶりからするに、狙っていたのはスクロール化する前の本の状態。その一部分、といったところか。
エリオラ機関が多数の異端書を持っているのは明白だし、その程度で危険を犯すのは正直意外だった。
「ちなみにどの異端書だ?」
「中身は確認していませんが、情報どおりであれば破戒の書です」
たしかにそれなら、無理して手に入れようとしても不思議じゃない。
となると残る懸念事項は、テルラが奪った物はどの破戒の書なのか、だが……。
「なにか少しでも内容は見れたか?」
「いえ、密閉された金属性のケースに入った状態でしたので」
『密閉』ね。
「レイシス様、当たりの可能性が濃厚かと」
「みたいだな」
「……?」
うなずき合う俺とアリシャに対し、不思議そうに首をかしげるテルラ。
さて、どう説明したものか。
「詳しく話すことは出来ないんだが、テルラが手に入れた破戒の書は少し面倒な代物かもしれない」
「それはつまり、誰かが作成した第六章に当たる部分だった、という事でしょうか?」
「いや違う」
「……? すみません、よく分かりません」
「悪いが話すことはできない。とにかく面倒な奴、とだけしかな」
一般には知られていない話だが、破戒の書はいくつか種類が存在する。
さきの戦争で使用され、みんなが俗に言う『破戒の書』が第三部。
これは劣化した複製品に過ぎない偽物だ。
では真の破戒の書、原本と呼ぶべき物はどれか?
それは残りの二冊、つまり第一部と第二部であり、異端書と呼ばれるに相応しい力を持つのもこっちだ。
これらはかなり古い時代に作られたため、現存する物がほとんどなく、保存状態にも気を配る必要がある。
わざわざ手間のかかる方法で運搬されていた事を考えれば、エリオラ機関の手に渡った破戒の書は原本だと見ていい。
「ほんと、面倒な代物だよ」
そして外套の女、シトリは第二部を持っている。
よって導き出される結論、それは第一部の断片を入手したという事実。
第一部はドラグシアで確認されている限り、俺だけが扱える破戒の書だ。
これ以上使用者が増える可能性を増やすのは、陛下としても看過できないだろう。
「テルラが破戒の書を入手して、組織に渡したのは大体いつ頃か教えて欲しい」
「ご主人さまが貴族と揉めた日より少し前になります」
「ふむ……」
分析に掛かる時間を考えれば、第一部の読み取りが終わったかは五分五分だな。
少しマズイかもしれない。
まあ今さら慌てたところでどうしようもない。
この状況で出来る事なんてたかが知れている。
せいぜい例の魔法書ごと無効化される技術に、第一部が組み込まれるのを想定しておく事ぐらいだろう。
「ってちょっと待て。あの辺りはたしか――」
テルラの歩き方が妙だったり、コケまくっていた時期のはずだ。
「まさか騎士団とやり合ったうえ、致命傷を負ったりしてないよな」
「どうして分かったのですか? 『雷速』に胴体を真っ二つにされましたが……」
「真っ二つ、ですか……」
致命傷なんてレベルじゃなかった。
回帰の書を使って逃げ延びたんだろうが、騎士団のトップ2と戦ってよく生きてたな。
「セルジ・ディンバスとまともに戦ったのか。凄いな」
「正直死ぬと思っていました。騎士団長もいましたので」
「騎士団長までも……。テルラさんって見かけによらず、かなり無茶苦茶するんですのね……」
前言撤回。
テルラはとても戦闘に長けていた。
あのペアと戦うとかアホの極みだ。
「で、体は大丈夫なのか? 違和感はないか?」
「今はもう大丈夫です」
彼女はそう答えると、その場で歩いたり飛んだりしてみせた。
たしかにパッと見た感じ大事なさそうだ。
胴体真っ二つなんて相当な激痛があったはず。
後遺症が残っても不思議じゃないし、運が良かったとしか言いようがない。
「いいかテルラ、回帰の書を過信するのは絶対に辞めろよ。アレは傷を戻すだけで、痛覚に関してはどうする事も出来ないからな」
「はい、痛いほど分かりました。それはもう文字通りに」
そりゃそうだろうな。
一過性の機能障害だけで済んだのは奇跡だ。
「少しでも問題があったらすぐに言うんだぞ」
「分かりました」
リハビリするにしても、早いに越したことはないからな。
「さて、話が逸れたな。それで次の話なんだが――」
その後も俺たちは情報を共有し合ったため、会合は夜が更けるまでに及ぶこととなった。




