98. 異端の翼は共有する 1
卒倒してしまったテルラが目覚めた後、俺たちの話をしてからはもうメチャクチャだった。
エーリュスフィアに来た経緯を話したときは。
「つ、追放ですか!? しかも国から命を狙われるほどの!? ご主人さまは一体どんな悪行を働いたのですか!?」
なんて身をのり出してきたり。
もちろん悪行を働いた覚えはない。
軍がどう思ってるかは知らないが、全ては陛下の御心のままだ。
続けてフレイヤの誘拐事件の際、実は助けたのは俺だったと明かした時もまぁ酷かった。
「エイドロス? それってあの男ですよね……。あれと真正面からやり合って、一方的に消し飛ばしてしまったと……!」
どうやら面識があったようだった。
なんでも突然来た傭兵のような扱いだったらしい。
とはいえ彼自身、細かい経緯は語らなかったそうで。
結局新たに得られた情報はなかった。
ちなみにこの時、テルラはなにも知らされていなかったそうだ。
この学校に送り込まれた理由がフレイヤの回収だったため、当時はかなり焦ったとか。
予測の域を出ないが、彼女は保険的な役割だったのだろう。
「大地を作り変えるほどの第六章……? あ……う……」
これは臨海学校の時、シトリと争ったことを話した時の最後の言葉だ。
また気絶しかけたもんだから大変だった。
シトリは悪魔の女なんて呼ばれているそうだが、彼女とやり合ったことに驚いたうえに、《"イミテーション・フロードノア"》の話が重なったせいだろう。
あの様子だと「実は潺の翼の魔法だ」なんて口を滑らせていたら、確実に意識を飛ばしていたに違いない。いや本当に。
とまあそんなこんなで話は俺の退学騒ぎもとい、ベレールの策略へと移るわけだが。
「ふぅ……少し喉が乾いたな」
ここまでずっと喋りっぱなしだったせいか、もう喉はカラカラだ。
「わたくしがお淹れ致しますわ。キッチンをお借りしても?」
「待って下さい、ここはわたしが――」
「いや、テルラは病み上がりだからいい」
急いで立ち上がろうとした彼女を止め、アリシャに視線を戻す。
「アリシャ、いつも悪いな。頼めるか?」
「どうかお気になさらず。では……」
そう言って頭をさげたアリシャは、席を立つと奥に消えて行った。
「いつも思うのですが、アリシャさまって本当に良くできた方ですよね。所作も美しいですし、もしやドラグシアの名家の御方なのでしょうか?」
「……まぁ大体そんな感じだ」
というか一応、隣国とはいえ王家の娘だな。
話したら絶対ややこしくなるだろうから、口に出す気は毛頭ないが。
なんて事を肝に銘じていると、遠くからアリシャが話しかけてきた。
「テルラさんは何をお飲みになられますか?」
「わたしの分も……ですか?」
「ええ、当然ですわ」
「その御心は大変嬉しいのですが、わたしは――」
言葉を切るテルラ。
原因は俺がジト目で見ていたからだろうな。
「……紅茶でお願い、いたします」
「了解しましたわ。少々お待ちを」
そうやって一連のやり取りを終えると、テルラは俺の顔色をうかがってきた。
「無理にしろとまでは言わないが、その奴隷癖はさっさと治すんだぞ」
「いえ、それ以前にわたしは使用人の身といいますか……」
「テールーラー」
「……はい」
ぶっちゃけ彼女の言い分は間違っていないと思うが、今は無理にでも矯正していく時期だ。
わがままなくらいが丁度いい。
「お待たせ致しました。……テルラさんはこちらを。レイシス様もどうぞ」
「ありが……とう、ございます」
「手間を掛けさせた」
今度は最初からテルラを睨んでたおかげか、開口一番謝罪にならずに済んだ。
カップを手に取り一口含む。
やはりアリシャが淹れてくれるコーヒーはとても優しい。
何も入っていないのにこの味なのだから、流石の腕前というべきか。
まぁ学生寮とは名ばかりの、スイートルームに定期補充される高級品というのもあるだろうが。
「美味しい……」
「お気に召して頂けたようで何よりですわ」
「アリシャさんって本当になんでも出来てしまうんですね」
最初の頃は泥水(精いっぱいのオブラートな表現)を作っていたアリシャもずいぶん成長したものだ。
まぁそんな状態でも頑張ろうとしていたあの姿を見て、当時はとても嬉しかったわけだが。
色々あったが今となっては、彼女が淹れてくれた物でないと安心出来なくなってしまった。
「さて、一息ついたところで話に戻ろうか」
俺とアリシャはなにも、自分たちの話をしていただけじゃない。
「ご主人さまたちが臨海学校に参加していた際、わたしは異端書の回収作業を行っておりました」
テルラと俺が出会ってから起きた様々な出来事。お互いの視点での情報共有。
それが今日やっておきたい事だった。
「違法マーケットに流れた物や放置されている物、という事か?」
「いえ、そちらは別の方が担当している様でした。わたしは魔法に長けておりましたので、戦闘がともなう案件を命じられていました」
たしか彼女はAクラス魔術士だったか。
しかし『魔法に長けている』からといって、『戦闘に長けている』かといわれれば、それはまた別の話だ。




