95. 問題児は悩み出す
安住の地を失った者が流れ着く先。
屋上なり校庭の隅なり、いつもならまぁ色々ある。
だが残念なことに、しばらくの間は立ち入り禁止となっている。騎士団が事件の調査中とのことだ。
痕跡を残した覚えはないが、何も起こらない事を祈っておくとしよう。
さて、話を戻す。
図書室すらも追われた俺がたどり着いた場所。
「レイシス。今日も大層なご身分だな」
「……おはようございまーす」
本当にただの気まぐれだった。
やることも無いし、授業にでも出るか。そんな程度のレベルだ。
「ほらさっさと座れ無能」
そんなタイミングで何故、わざわざベレールの授業とかち合ってしまったのだろうか。
不運としか言いようがない。
「まったく、なぜこんな馬鹿を退学させれんのやら……」
酷い言われようだな。
十割俺に非があるから反論のしようもないが。
「ってちょっと待て」
聞き捨てならない重要な情報があった。
詳細が気になり、ベレールから聞き出そうと思ったのだが。
「あぁん?」
驚くほど不機嫌だった。
「誠に恐縮ではございますが、お待ち頂けると幸いです」
「さっさと用件を言え」
なにも無益な争いを行う必要はない。
相手よりも先に、一歩身を引くのが男の甲斐性というものだろう。
冗談はさておき、さっきの話だな。
「俺の退学の件、もしかして無くなったんですか?」
ベレールがあそこまで悔しそうに『退学させれない』と言っていた辺り、どうも確定事項のような気がする。
てっきり保留扱いだと思っていた。
対抗戦の優勝が退学回避の条件だったのに、予選だけで終わってしまったからな。
「何だその事か。あれは嘘だ」
「……は?」
思わず素の声が出てしまった。
殺意マシマシで睨まれたが気にする余裕もない。
「いや、まさかな。……はぁ?」
「レイシス、お前は殺されたいのか」
「すんません」
迅速な謝罪は長生きの秘訣である。
「なんであんな面倒な嘘をついたんですか……」
「お前があまりにもやる気を出さないからな。少し発破を掛けた」
そんな理由で追い込まれた身にもなって欲しい。
しかしあれか。
俺の努力はまったく意味を成していなかったわけだ。
「うわ、だる」
「いい覚悟だ」
まばたきした次の瞬間には、ベレールの手元に巨大な火の玉が浮いていた。
てか青い炎ってなんだ。しれっと高等技術を使わないで欲しい。
周りから悲鳴も聞こえてきてるし。
「もう余計な事言わないんで勘弁してください」
「なんだその程度か。詰まらんな」
落胆した表情で肩を落とし、炎を消すベレール。
はたして彼女は一体何のために教師になったんだろうか。
いや、そういや元は騎士団の教官だったな。
「まぁいい、そろそろ授業を始めるぞ。他に質問はあるか?」
「大丈夫です。ありません」
俺はそう答えて着席すると、頬杖をついて目を瞑った。
「レイってほんと怖いもの知らずよね」
「で、ですね……」
横からなんか聞こえたが無視だ。
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遺憾ながら授業を済ませた帰り道。
いつもより早めに出たせいで、今日は俺だけでの下校だ。
時間的にテルラも目を覚ましている頃だろう。
昨日の精神状態を考えれば、出来るだけ一人にさせたくない。
「少しは落ち着いてると良いが」
ケガは全て治した。奴隷刻印の方もすでに手を打ってある。
予想通り、テルラに施されていた物は一番厄介なタイプだった。
そのせいで徹夜作業になったわけだが、何とかなって本当に良かった。
残る問題は彼女自身。
外傷であれば魔法でどうとでもなる。でも中身は無理だ。
壊れた心が治るまでには、途方もない時間がかかる。
俺に出来るのはその期間が少しでも短くなるよう、手助けしてやることくらい。
「……俺が? 本当に出来るのか?」
正しい方法なんて分からない。経験に頼るしかない。
だからと言って、適当だとか手探りだとか、そんなふざけたやり方は許されない。
先の事を考えれば考えるほど、今すぐ逃げ出したくなってくるな。




