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89. 異端の翼は葬り去る

「あークソ! ほんっとお前メンドクセエなぁ!」


 叫ぶ男、飛び散る火花。


 もう何度打ち付け合ったか分からない。

 攻撃の直前であれば余裕で気付ける。


 だがそれ以外が分からない。

 いま俺の手元にある情報は二つ。


 まず敵の攻撃にはタイムラグが存在すること。


 姿が見なくなってから再出現するまで、体感3秒から5秒ほどだろうか。

 手の内を隠している線も無くはないが、今のところ「瞬間移動」と呼べるような速さの攻撃は受けていない。



 そして移動距離に制限が存在する可能性。


 これは間違いないと見ていい。

 もし自由に移動できるのであれば、そもそも距離を詰められる前に逃げているはずだ。

 少なくとも俺ならそうする。


「先に確認しておくか」


 敵が消えている間は見えないだけなのか、それとも本当に消えているのか。

 とりあえずこの点だけはしっかりさせておきたい。


せせらぎの書――」

「させるかよ!」


 敵が詠唱を阻害するように飛び込んできた。


 俺は構うことなく続ける。


「第五章――」


 ――ここだな。


「第二節より引用……!」


 姿勢を落とし、斬撃をかわしながら前方へ。

 さらに足を引っ掛け敵の体勢を崩し、男の腹部に右腕を。


 そのまま力を籠め、一気に地面に押し付ける。


「ぐっ――――!」


 俺は続きを唱える…………。



 ……()()をして口を開く刹那、敵の姿がスッと消えた。

 同時に右手の先が宙を切る。


 指先にこすれる感触はなかった。風の流れも感じ取れない。

 これで光学迷彩の要領で透明化し、走って移動している、という線はなくなった。




 さて、3秒経ったな。

 そもそも詠唱していたのはこのためだ。


「――《"フロスト・ルート"》!」


 炎剣を手放し、水平に回転しながら右手を振るう。

 俺を中心とした全方位、その全ての地面が凍結した。


「あぶねえなぁ!」


 驚きのあまり声を上げる敵。

 だがその足は地面に縫い付けられていない。


 最後の瞬間まで意識を研ぎ澄ませていたが、やはり視認できるようになるまで実体はない、ということだろうか。




 カラクリが読めてきた。


 俺はゆっくり立ち上がると、まるで今朝食べた朝食の話しでもするかのように、適当な口調で語り掛けた。


「お前、ちょっと体を()()()()なんじゃないか?」


 にしても久しぶりに見たな。


 あそこまで人間を辞めてるとなると、もう長くはないんじゃないだろうか。

 まぁいつ施術されたかまでは知らんが。


「だからよ、初見で見抜くなって……」


 この戦いが始まって以来、ずっと閉じられていた彼の右眼。


「さっきからそう言ってんだろうがこのクソガキがぁ――!」


 その眼がカッと見開かれ、中から赤黒い眼球が姿を現した。


 合わせて俺も少しばかり魔力を解放する。

 この程度なら問題ないだろう。


「だからよ、体を弄り過ぎだって」


 意趣返しのノリでそう返した俺は身構える。

 しかしアレ、もうほとんど魔物一歩手前だ。


「さっさと死ねや!」


 瞬間移動もどきの奇襲。

 今までの攻撃とくらべ、何倍も速く、何十倍も正確だ。


 とはいえ――。


「まずは背後」


 体を逸らしてかわす。


「次に左、んで上空から振りかぶってまた背後」


 もう炎剣で攻撃を防ぐ必要は無い。


「それもダメなら右側から」


 すべてかわす。

 あえて敵の行動を声に出しながら、いくらでもかわす。


 こうして煽っていれば、誰しもいつかはミスる。

 敵がイラつき始めてることくらい、俺には手に取るように分かった。




 そう、たとえば今のように。


「クソ! なんで当たらねえ! どうしてバレてる!」

「そりゃお前――」


 振り返りながら《"フロストスピア"》を二つ生成。

 次の出現に合わせて放つ。



 瞬間、俺の魔法が敵の両足を貫いた。


「――()()()()のは俺も一緒だからな」


 再出現する間際に発生する、極めて膨大な魔力の塊。

 俺はそれを参考に対処してるに過ぎない。



 これは俺の特技みたいなものだ。

 魔力を直接見れる人間なんて普通はいない。


 人間は魔力を感じ取れる生き物だが、あくまでそれは感覚に限った話だ。

 亜人であろうと、人族であろうと。


 いやまぁ、ごく一部のエルフは視えちゃうらしいが。


「あ、悪いが俺は人間辞めてないぞ。お前と一緒にされても困る」

「『視えてる』……だと?」


 男は膝をついたまま、訝し気に俺を見始める。


 だが突然、乾いた笑い声を上げ出した。


「はは……! こりゃ驚いた……!」


 男の笑いは止まらない。


「そう言いつつアンタも同族なんだろ? 人間ごっこは楽しいか?」

「いやお前、人の話を聞いてなかったのか?」


 奴が掻き消える前に首を掴んで持ち上げる。


「かはっ!?」

「どうも耳が悪いらしい。そっちも弄っといた方がいいんじゃないか?」


 続けて魔法書を介さず、そのまま魔力を一気に放出。


 周囲一帯を俺の魔力で満たしておいた。

 これで奴は逃げれない。


「それとも頭の方か? なら仕方ない。頭はどう弄っても治せないし」

「――テメェ゛!」


 威勢はいいが、一向に反撃してくる気配がない。



 いや、反撃できないと言うべきか。

 そろそろ気付いてもいい頃合いだ。


「どうなって……やがる! なんで――飛べ、ねえ!」


 彼が瞬間移動を行うのに必要な条件。

 それは自身の魔力を空気中に配置する事。


 だがここら一帯は今、()()()で埋め尽くされている。

 そう、俺の魔力だ。


 彼は自身の魔力を用いることで、肉体を丸ごと複製、転写して瞬間移動もどきを実現していた。

 もはや人間の所業じゃない。


「烈火の書、第三章、第十四節より引用――――」


 ここまで敵の魔力が強いと、流石にそれなりの魔法を撃ち込む必要がある。


 この男がそこら辺の雑兵ぞうひょうと一緒とは思えない。

 第八中隊の副隊長、エイドロスの一件を考えれば、回帰の書の術刻印が施されていても不思議じゃない。


 ではあの時のように、破戒はかいの書を用いるべきか?


 それはない。

 ここは学院の敷地内だ。破戒はかいの書は使うべきじゃない。

 防衛装置に記録でもされたら最悪なのだから。




 よって俺が取るべき行動は一つ。


「――《"ヴォルカニック・ホーリーレイ"》!」


 全身を消し飛ばしてしまえば大丈夫かもしれない、そう考えた結果がこれだ。


「あぁぁぁあアアアアアッッッ!」


 超高温度をともなった光の奔流。

 それは空を漂う雲を巻き添えに、断末魔を上げる男ごとほうむり去った。


今日は本日中、おそらく昼頃にもう一話更新予定です。

3章がどう終わるのか、是非お楽しみください!

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