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85. 異端の翼はおとりになる

 敵の数はあまりに多い。

 それに爆発を引き起こしたうえで伏兵の配置。


 まるで俺たちを誘い出したかのようにも思えるが、目的がまったく見えてこない。


「奴らの狙いは一体なんだ?」


 俺はそうつぶやきながら《"高次探知ハイ・ソナー"》を詠唱。


 だが――。


「……アリシャ、探知魔法を」

「了解しましたわ」


 念のため彼女にも頼んでみたのだが…………あの表情を見るに、おそらく俺と同じか。


「レイシス様――」


 目を合わせてうなづき合う。

 やはり間違いない。


 探知魔法が作り出した地図は、ほとんど白一色を示している。

 ここ最近だと三回目になるな。


「まぁそんなところだろうと思っていたが……」


 さっきまで空気中の魔力はこんなに濃くなかった。

 この速度を見るに、例の装置を使われた可能性が高い。


 ――『ダアトの葉』。


 しかしこの前とは訳が違う。

 街中であんな物を使われれば、大惨事はまぬがれないだろう。


「なあアリシャ、大型魔導具の方は任せていいか」

「……? それは構いませんが……」

「キールさんもお願いできますか? シトリスのためにも、今すぐ止めなきゃいけない装置があるんです」

「町の脅威になるのであれば断る理由がないけど、それは一体どんな物なんだ?」

「今は時間が惜しいですから、移動しつつ彼女に聞いてもらえると助かります」

「なるほど、それほどまでに危険なものがここに……。分かった、引き受けよう」

「ありがとうございます」


 敵が『ダアトの葉』を持ち込んでいると分かった今、あちらの目的も大体予想がつく。


「レイシス様……? 一体どうされるおつもりなんでしょうか……?」

「なに、単純な話だ」


 今俺たちを取り囲んでいるのは『エリオラ機関』の人間。

 正確に言えば、()取り囲んでいるのは、か。


 だったら彼らの目的はひとつしかない。

 俺が持つ魔法、そのすべてだ。


「ここは俺が引き受ける」


 次の瞬間、俺は両手を振りぬきながら《"タービュランス"》で加速。


 突風のごとく敵の脇を通り過ぎた。


「か――は――――っ!」


 まずは一人。



 続けて今まさに崩れ落ちていくを蹴り飛ばし、左から飛んできた魔法を防ぐ壁代わりにする。


「怯むな! 目標ターゲットへの波状攻撃を始めろ!」


 やはり狙いは俺か。


「レイシス様! ここはわたくしもっ――!」

「さっさと行け!」


 彼女にそう返しながら、絶え間なく飛んでくる魔法をいなしていく。

 とにかく今は、アリシャたちから距離を取るべきだ。


 そう考えていたのに、彼女は悲壮ひそう面持おももちで一歩、また一歩と足を踏み出し始めた。


「どうして貴方あなたはいつもいつも! 自分ひとりだけで何でも抱えようとしてっ!」

「おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るな――!」


 答えながら二刀を一閃。

 同時に二人の首を跳ね飛ばした。


「今回は役割分担をする必要がある! それだけのことだ!」


 少しずつ彼女との距離は遠ざかっているが、それでもまだ追ってくる気らしい。

 俺は彼女を氷で作った箱に閉じ込め、これ以上近寄って来れないようにする。

 もちろんそこまで分厚くはしていない。


 今のアリシャの様に、立ち止まらせることだけが目的だ。


「わたくしはイヤですわ! これでは()()()とまったく同じではありませんか!」


 彼女は壁を叩きながら声を張り上げる。



 アリシャの言う『あの日』がいつを指しているかなんて、いくら俺でもすぐ分かる。


 が、今日は断じて『あの日』と同じなんかじゃない。


「だから勘違いするなって、さっきからそう言ってるだろ?」


 突如俺に殺到して来た二十八の魔法。

 敵による波状攻撃だ。


 俺はその全てをかわし、弾き、切り捨てながらそらを舞う。


 なるほど。たしかに『剣舞』の呼び名がしっくり来る。


「――――《"フロスト・スピア"》」


 着地する間際に唱えたのはせせらぎの書、第三章の第一節。


 生み出された氷槍の数は同じく二十八。

 そのうちの七割が敵を射止めるが、残りは避けられ地面に突き刺さった。



 もちろんこれだけで終わるつもりはない。


「《"弾丸拡散バレット・ディフューズ"》」


 氷が爆ぜる。


 敵を貫いていた氷は肉片を散らせながら。

 地面に残されていた氷は地面を削りながら。


 飛散した氷の刃は、敵の命を刈り取って行く。


「あがぁあああ!」

「おごッ!」


 対抗戦でミーリヤがやったように、拡散の対象を《"フロスト・スピア"》に置き換えてみたが、想像以上の破壊力だ。


 アリシャたちから離れたのは、この方法を試してみるためでもあった。



 軽く見回すと、死体のない場所から血が湧きだしている箇所があった。

 つい先ほど見た不可視の敵、その一人で間違いないだろう。


「"アリシャ、今日は『あの日』とは違う。だから心配は要らない"」


 俺は遠くの彼女に背を向けると、《"魔導通信マギ・テレパス"》で小さく語り掛けた。




 彼女が口にした『あの日』。

 それは俺が犠牲となることを選び、みんなと別れることになってしまったあの日だ。



 だが今日は違う。

 軍に裏切られ、国を追われる身となったあの日とは、決して違う点が一つある。


 それは――。


「"――今の俺に、死ぬ予定はない"」

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