84. 異端の翼は囲まれる
「ちょっと待て! キミたちは一体なにをする気なんだ!」
俺とアリシャが外に視線を向けていたからだろう。
騎士団の彼は強い口調で呼び止めてきた。
「すみません、どうしても行きたい理由が出来てしまいまして」
「どんな理由であろうと、いま外に出るのは危険すぎる!」
彼の主張は当然だ。
そもそも俺たちはただの学生なのだから、いままさに魔法が飛び交っている場所に行くだけでも問題がある。
だがここで引き下がるわけにはいかない。
「大丈夫です」
やっと見つけた手がかかりなんだ。
絶対に逃したくない。
「戦い方さえ工夫すれば、狙撃もなんとかなると思いますから」
「事はそう単純じゃない! 楽観視しすぎだ!」
「レイシス様、そろそろ……」
アリシャのいう通り、これ以上言い合っていても仕方ないだろう。
もとより説得しようなんて考えてなかったし、彼の立場を考えれば出来るはずがない。
そう思っていた。
「レイシス……? まさかキミがあの、レイシス・ロズウィリア君なのか?」
「……? そうですが」
「話には聞いていたが、まさかここまで若かったとは……」
そういえば騎士団内で俺のうわさが広まっている、なんて話があったな。
「確かにあの話が本当であれば……。いやでも……」
彼が顔を伏せ、何かを考える素振りを見せた瞬間。
突然外で大きな爆発が起こった。
「な、なんだ!?」
ここからでも光が見えたほどだ。
規模は相当に大きいはず。
「まずい! あの方角には本隊が!」
「急いで向かいましょう」
「だが……」
彼はまたも顔を伏せる。
「……身の危険を感じたら、すぐに逃げると約束して欲しい」
「もちろんですよ」
「あぁそれと、僕の名前はキールだ。よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。俺たちは――」
俺とアリシャも軽く自己紹介を済ませる。
やがて俺たちは校舎を飛び出すと、爆発が起きた現場に向かって走りだした。
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火の手が上がっているのは屋台が立ち並ぶ地点か。
建物にも被害が及んでるところから見て、騎士団がやったとは考えづらい。
そもそも周囲には――。
「クソ! なんてことだ!」
かなりの数の負傷者だ。
しかもその全てが騎士団の服装。
奇襲でも受けたのだろうか。
「すぐに治療しなければ!」
キールはそうつぶやくと、一番近くに倒れている仲間の元へ駆け寄っていく。
だが俺は見逃さなかった。
人の形をした陽炎。
それが今、物陰にスッと消えた。
「レイシス様……!」
「あぁ、分かっている」
小声で耳打ちしてきたアリシャにそう返す。
目だけを動かして軽く見まわしたが、誰ひとり姿は見えない。
だが確実に囲まれている。それだけはたしかだ。
まさか、な。
「キールさん、彼の容態はどうですか?」
俺とアリシャは敵に気付いてないフリをしながら、歩いて彼に近づいていく。
包囲されている以上、散らばっているのはマズい。
「大丈夫、幸い意識を失っているだけみたいだ。早く他の人も診て行かないと」
彼がそう言って立ち上がった瞬間だった。
うつ伏せに倒れていた騎士団員が飛び起き、右手に握っていた剣を振りかぶる。
俺は素早く踏み込むと、炎の剣を生成しその攻撃を受け止めた。
「これは流石に読めなかったな――!」
さらにアリシャが疾風の書を使用。
今度はちゃんと加減してくれたようで、敵が吹き飛ばされるだけに留まった。
が、当然そのせいで受け身を取られ、すぐに体勢を整えられる。
意識を失っていたのはやっぱり演技だったか。
俺が左手にも《"フレア・ブレード"》を作り出していると、突然キールが強く叫んだ。
「そこのお前! 一体どういうつもりだ!」
もちろん返答はない。
それもそのはず。
「キールさん、彼の顔に見覚えは?」
「……そういえば、誰だかサッパリ――まさか!」
すると倒れていたはずの者たちが、次々と立ち上がっていく。
どうやらコイツらは、騎士団の人間を装った敵だったらしい。
見えるだけでも大勢いるというのに、不可視の相手まで考えなくちゃならないとなると眩暈がしてくるな。




