67. 問題児は尋問される
反省室。
そう呼んでいるのは多分俺ぐらいだろう。
なんせただの空き教室だ。
が、呼び出されるときは大抵ここなのだから、俺にとっては反省室で間違いない。
「まったくお前という奴は……。ケンカを買ったら面倒な事になることくらい、わかっていたんだろう?」
「んなわけないっすよ。いやー参りましたね」
ヘラヘラ笑いながら適当に返すが、ベレールが表情を変える気配はない。
「レイシス、今回はいつもと訳が違うからハッキリ言うぞ。お前はなんでそんなふざけたフリを続けているんだ?」
「ふざけたフリ? なんで俺がそんなこと、わざわざしなくちゃ行けないんですか……」
「これ以上シラけても無駄だ」
あの目は何か確信がありそうだな。
このままでは誤魔化しきれない、か。
「お前の殺気はただの生徒が持っているような物じゃない。その証拠にカールが失禁していただろうが」
いえ、それに関しては十中八九あなたのせいだと思います。
俺はちゃんとセーブしたぞ。
まぁそれはさておきだ。
やはりベレールの洞察力は『騎士団の教官』で片づけるには鋭すぎる。
これ以上、全てを隠したままでいるのは厳しいと見るべきだ。
「……フレイヤとミーリヤのためですよ」
「なぜここで彼女たちの名前が出て来る」
「救われた恩返しです。どうやら何者かに狙われている様ですから」
そう口にした瞬間だった。
「おい、その話をどこで聞いた」
突然変わった場の空気。
「フレイヤ様が組織に狙われている事は機密情報だ。どこで知ったか吐け」
組織? 組織って一体なんだ。
それに何故フレイヤの事だけを問い詰めて来たんだ?
やはり鍵になるのは、外套の女が口にしていた『理想触媒』か。
あの女もフレイヤを特別視していた。
ベレールが何かを知っていそうなのは確実だが、今は余計な行動は控えるしかない。
探りを入れるのは、アリシャからの報告を待ってからでも遅くないはずだ。
「別にそんな大層な理由は無いですよ。彼女たちと初めて出会ったとき、粗暴な連中に襲われている最中でしたから」
「本当にそれだけか?」
「ええ。まぁ強いて挙げるとするな、誘拐騒ぎの一件もありますが」
「ふむ、たしかに筋は通っているか……。だがお前がふざける理由と、フレイヤ様の話がどう繋がるんだ?」
「彼女を守るためには、極力一緒にいる必要があると判断しました。敵には俺が取るに足らない存在だと認識させておけば、その条件も見たしやすいと思いまして」
ターゲットの周辺に何か脅威があった場合、先に排除するか引き離すのが定石だからな。
「ほう、意外と頭が回るらしい」
「なんか今日はやたら持ち上げてきますね。いい事でもあったんすか?」
「さあどうだろうな。こうてしてお前のお守をさせられている時点で、クソみたいな厄日なのは間違いないと思うが」
一言多いわ。
というかこんな話をするために、俺はここまで連れて来られたのだろうか。
「で、結局本題はなんです? 俺の素性を暴きたかったってわけでもないですよね」
話の流れで中身がこじれたからな。
最初からこうなる予定は向こうも無かったはずだ。
「おっと、大事な事を忘れる所だった。お前がケンカを売ったカール・フォン・ビーテルロについてだ」
「いや、先にちょっかい掛けて来たのは向こうだけどな……」
「うるさい。いいから黙って私の話を聞け」
なぜ俺はいつも、問題の元凶みたいに扱われるのだろうか。
「理由はどうであれ、平民であるお前が貴族に歯向かったのは事実だ」
「まあそうっすね」
「ビーテルロ家は王都の方でも、それなりに名の知れている伯爵貴族だ。お前、これから面倒なことになるぞ」
「はぁ……」
あの野郎、よりによって王都の貴族だったのか。
隅々まで面倒な男だな。
「幸い現場を見ていた人間も貴族の子息子女たちだ。ビーテルロ家は敵も多いから、事件を大々的に捏造されるようなことは無いだろう」
「ん? なら放置で良くないすか?」
ビーテルロ家とやらに恨まれはするだろうが、そんな物は割とどうでもいい。
仮にまた絡まれたとしても、その時は同じように対処すればいいだけの話だ。
もちろん衆人環視の中で。
「アホか。暗殺者ぐらい余裕で雇える家だぞ。闇討ちでもされたらどうする気だ」
「……逃げる?」
「お前、この私を馬鹿にしているのか?」
滅茶苦茶キレてるな、あの顔は。
まぁふと思いついた事を、そのまま口にした俺も悪いっちゃ悪いが。
「とにかくお前は、カールの顔を立ててやる必要がある」
「えー……。うわー……」
ベレールの言っている事は正しいと思うが、それだけはやりたくない。
なんかあいつムカつくからな。
「安心しろ。ちゃんとあの男が恥をかく形で、という点は保証しよう」
「よし、詳しく聞こう」
「いい返事だ」
やがて俺は、彼女から計画の全貌を教えられた。
なるほど、たしかに完璧な作戦だ。
この方法を使えばあいつは恥をかくことになる。
が、俺に負けたことに対する言い訳は用意できるだろう。
ベレール、意外と頭いいんだな。
「ところで先生、なぜその方法を思いついたんですか?」
「決まっているだろう、あの尊大な態度がムカつくからだ」
もしかすると、彼女とは仲良くなれるかもしれない。




