59. 問題児は計画を立てる
クラス対抗戦で使える魔法には制限がある。
相手を死に至らしめたり、後遺症を残すような強力な魔法は使うことができない。
試合中は複数の教員が監視しているため、もし参加者が使おうとしても阻止される、とのことだ。
あとは強いて挙げるなら異端書も当然禁止だ。
というか対抗戦のルール以前に、一般常識に引っかかる。
「今回フレイヤに習得して欲しい物は二つある」
「……たったそれだけでいいんですか?」
「対抗戦とは言いつつも、所詮はただの競技だからな。それに本番まであまり期間がない事も考えると、練習内容は絞ったほうがいい」
「珍しくレイシスが真面目に話してる……」
ルカがぼそっと茶化してきたため、一度睨んでおき本題に戻す。
ここで言い返せば、また話が逸れるのは目に見えている。
「まず一つ目だが、フレイヤには無詠唱を使えるようになって欲しいんだ」
「無詠唱、ですか……」
魔術士にとって無詠唱の習得は壁の一つ、なんて言われているが無理難題というほどでもない。
簡単な魔法であれば、練習さえすれば誰でも扱えるようになる技術だ。
「なに、そこまで気負う必要はない。フレイヤが得意な豊穣の書のうち、第三章の第一節だけでいい」
「それって《"天恵の石片"》でしょ? あれ小さな岩を飛ばすだけだけど、そんな魔法でいいの?」
「別に決め手として使うわけじゃない。というか無詠唱じゃそもそも無理だ」
無詠唱の命中率なんてアテにならんからな。
「ということは、けん制用ってこと?」
俺がルカに頷いていると、今度はフレイヤが首をかしげていた。
「その理由だと、白の書の方が適していませんか?」
「そういうわけでもない」
彼女が白の書も使えることは聞いていた。
が、わざわざ練習するなら汎用性が高い方がいい。
「《"天恵の石片"》は初歩的な魔法だが、だからといって威力がないわけじゃないだろ? 対して白の書は対抗戦だと火力不足だ」
「たしかに対抗戦のルールでは相手のペンダントの破壊、もしくは気絶が勝利条件ですが、当てれる自信はないです……」
「こういった魔法を当てるのに自信なんて要らないぞ。必要なのは数だ」
「あーなるほど。相変わらず雑だなぁ……」
ルカはもう気付いたのか。
やはり頭の回転が早いな。
「つまり適当にばら撒いておけばどれかは当たる」
「力押しってことだったんですね……。あはは……」
「まぁこれが二つ目の『やって欲しい事』だ。無詠唱の連射は出来るようにしておきたい」
こっちに関してはそこまで難しくない。
無詠唱さえ出来るようになれば、あとはすぐに覚えられるだろう。
「今後の計画を一言でまとめると、フレイヤに練習して欲しいのは魔法の無詠唱とその連射だ」
「はい、頑張ってみます――!」
とりあえずこんなところだろうか。
いまフレイヤに説明した特訓プランは、竜翼魔術士団でまず初めに教わるものだ。
初歩的な戦闘技術ではあるが、相手が魔術士見習いであることを考えれば十分だ。
残る気掛かりはその『相手』だが。
「なぁルカ。この学院の生徒って、無詠唱が使える奴はどのぐらいいるんだ?」
「んー……。 良くてクラスに数人くらい、って感じかなぁ」
「意外と少ないな。風紀委員なんかは全員使えてなかったか?」
「そりゃあそこは優秀な人間が集まってるもん。場合によっては実力行使が求められるわけだし、入るのにも厳しい審査だってあるからね」
ということは、あのレベルの相手は珍しい部類ってことか。
ならやっぱり余裕だな。
彼女はこれでも最高学年の先輩だ。
疑う理由はどこにもない。
むしろ先輩という点の方が怪しいくらいだ。
まあ兎にも角にも、教える内容はこのままで良いだろう。
「フレイヤさえ良ければだが、早速今日から練習を始めるか?」
「すみません、今日は少し用事があるので……」
「そうか。なら練習はまた今度にしよう」
「本当にすみません……」
彼女の表情からは心底申し訳ない、といった気持ちが伝わってくる。
とはいえ最初に無理を言ったのは俺の方だ。
逆にこっちが申し訳なくなってくる。
「もともと打ち合わせだけするって話だったからな。俺はいつも空いてるから、そんなに気にしないでくれ」
「そう言ってもらえて助かります」
さて、今日はこれからどうしたものか。
今は特にやれることもないし、久しぶりに外食なんていいかもしれない。




