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58. 問題児は問い詰められる

「えーゴホン」


 授業が終わり、図書室に集まっていた俺たち。

 理由はもちろんクラス対抗戦に備えた自主学習……というよりはフレイヤの特訓か。


 対抗戦では彼女がどれだけ活躍してくれるかが鍵となる。

 先日にあ(・)の(・)魔法を使いすぎた以上、できる事なら押さえておきたい。


「これよりクラス対抗戦に向けた対策会議を始める!」

「はい!」

「おー!」


 もう一度言うが、今日の予定はフ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)の特訓である。


「なんでお前まで混じってるんだ」

「いやだってここ、わたしのテリトリーだし」

「公共の場だアホ」

「でもいつも人来ないじゃん」

「それはそうだが……」


 ルカの言う通り、この図書室はいつも人がいない。


 たしかにこの学校の評価方法は、魔術士としての強さの比重が大きい。

 簡単な話、たとえ座学が0点だったとしても、実技で100点を取ってしまえば余裕で成績上位者だ。


 別にそれがおかしいとは思っていない。

 今は魔法書という便利なものがあるのだし、上達速度だけ見れば使って覚える方が早いのは重々承知している。


「まぁ一緒にいるのは構わんが、お前からしたら復習にしかならんと思うぞ」


 まだルカと出会ったばかりの頃だ。

 さんざん話に付き合わされたわけだが、魔法に対する知識量がとにかく凄い。


 というか生徒の中だと、魔法の仕組みをちゃんと理解しているのは彼女ぐらいじゃないだろうか。

 普段から使い慣れてる技術なんて、人間そこまで気にしないからな。


「うーん、多分そんなことにはならないと思うよ?」

「そもそもお前は上級生で、しかも学年成績トップだろうが……」

「レイシスだって真面目に試験を受けたら同じでしょ?」

「あ、それわたしも最近思ってました」

「あのな、俺は魔力量も出力限界もヘボなんだよ」

「でもこの前の魔法を見たら、とてもそうだとは思えないんです。どう考えても測定自体に問題があったとしか……」


 なんか面倒なことになって来たぞ。


「ちょっと待って、この前の魔法ってなに?」

「それはもう凄かったんですよ! 地面が割れて大きな海が出て来たんです! こう『ドバー!』って感じで!」


 身振り手振りをし、必死に説明をするフレイヤは少し興奮気味だ。


「いやいや、海はさすがに誇張してない?」

「本当なんですって! ――――ですよねレイシスさん?」


 フレイヤと目が合う。


「まぁ……」


 ルカにまで知られると面倒なことが起こりそうだが、否定できそうな空気でもない。


「ちなみになんて魔法なの? そこまで大規模な魔法は聞いたことないんだけど」

「えーっとたしか…………いみてーしょん? なんとかって詠唱でした」

「んん……?」


 今度はルカが視線を向けて来た。

 フレイヤもここにいる以上、誤魔化すのはさすがに無理か。


「『イミテーション・フロードノア』だ」

「なにそれ? そんな魔法、軍用魔法にすら無かったような……」


 いや、こいつは軍用魔法まで把握しているのか?

 この図書室にそんな資料は無かったハズなんだが。


「……待って、もしかしてレイシスって六章が使えるの?」

「無理」

「あ、そういえば詠唱するとき『潺の書、第六章』って言ってました」


 全員の視線が俺に集中する。


「……使えるな」

「えぇ!?」


 やっぱりこの三人で始めたのは失敗だったかもしれない。


「そこまで驚くことなんですか?」

「いやだって六章だよ!?」

「でもわたしも持ってますよ?」


 フレイヤのは、おそらく騎士団長のアレだな。

 この年でもう継承しているのか。


 自覚がなさそうなあたり、何も説明されずに渡された、と言ったところだろうか。


「フレイヤちゃんはまだ分かるけどさ、レイシスがとても凄い家柄の人間とは思えないじゃん?」


 六章とは、端的に言えば自由記載欄だ。

 魔法書が作られなくなってから何百年も経っている訳だが、その理由こそがこの第六章にある。


「むかし人から貰ったんだよ。もちろん家族じゃないぞ」


 厳密に言えば『貰った物もある』だが、わざわざ口にする必要はない。

 そんなことをすれば、火に油を注ぐだけだ。


「貰ったって……。普通、家宝を他人に渡したりする?」

「俺に聞かれても困る。渡した奴に聞いてくれ」


 まぁ聞きたくても聞けないんだが。


「あの、第六章ってそんなに凄いんですか?」

「フレイヤちゃんは六章がどんな部分かは知ってるの?」

「たしか魔法書の空きスペース、でしたっけ……?」

「まぁ大体そんな感じ。つまり新しく作った魔法を記憶させる場所なんだけど、そもそも魔法ってそんな簡単に作れないわけよ」


 『魔法書は何百年も作られていない』。

 それが通説だが、作る必要がないと言った方が正しいだろう。


 魔法書は魔法の寄せ集めであると同時に、土台としての機能も有している。

 もし新しい魔法を作りたければ、今ある魔法書に組み込んでしまう方が遥かに早く、動作も安定するということだ。


「オリジナルの魔法っていうのは何代もかけて試行錯誤し、受け継いでいく物なの。六章が継承魔法とも言われる所以(ゆえん)だね」

「なるほど……」

「そんな家宝とも呼ぶべき血と汗と涙の結晶を、『人から貰った』なんて考えられる?」

「……たしかに変です」


 またも俺に集まる全員の目。

 さすがに限界、か。


「はいはい、もうこの話は終わりだ。クラス対抗戦まで時間が無いんだから、さっさと本題に入るぞー」

「あ、露骨に話ぶった切った」

「ですね」


 二人から白い眼を向けられるが気にしない。

 これ以上はなんと言われようと、話す気は毛頭ないぞ。

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