表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/176

57. 問題児はペアを組む

 テルラにも見放された俺は、夕飯を終えると街へ出かけていた。

 聞かれて困るような会話をするには、やはりこういった喧騒が最適だ。


「"他にはあるか?"」

「"現時点ではお伝えした物のみになります"」

「"そうか、引き続き頼む。詳しい話は今度しよう"」

「"了解しましたわ"」


 アリシャから一通りの報告を受け、《"魔導通信(マギ・テレパス)"》を切る。


 彼女には臨海学校での一件、その調査を任せていたのだが、いまだに敵の目的すら分かっていない。



 ……やはり鍵となりそうなのはあの言葉か。


 外套の女はフレイヤを『理想触媒』と呼んでいた。

 初めて聞いた言葉だが、調べてみる価値はありそうだ。


「あれ……レイシスさん……?」

「ん?」


 名前を呼ばれ振り返る。


「フレイヤ、か……」


 ここはいわゆる学生街というやつだ。

 見渡せば魔法学院の生徒がちらほらいるのだし、彼女と出くわしてしまっても不思議じゃない。


「この前はごめんな。じゃあまた――」


 これ以上イヤな思いはさせたくない。

 そう考え、早々に退散しようとした時だった。


「待ってください!」


 突然手を掴まれ、思わず立ち止まった俺はもう一度振り返る。

 うつむいているせいで彼女の表情は分からない。


「レイシスさんがわたしを避けているのは分かっているんです。でもせめて、お礼だけは言わせてください!」

「……ん?」


 聞き間違い……はないな。


「わたしなんかのために、本当にありがとうございました。ではこれで――」


 そう言って手を放そうとするフレイヤ。

 だが今度は俺が握り返していた。


「ちょっと待ってくれ、俺は別に避けてなんかないが……」

「…………はい?」


 ひょこっと顔を上げた彼女と目が合う。

 そういえば、こうして顔を見合わせるのはあの日以来だな。


「てっきりフレイヤが避けてるんだと思ってたんだが」

「わたしがレイシスさんをですか? 一体なんのために……?」

「いやだって、無理やりキスを――――むぐっ!」

「あーいいです! それ以上は大丈夫です!」


 彼女は赤面しつつも、空いた手で俺の口を塞いできた。

 驚くべき速さだ。


 が、このままだと会話すらできないため、顔を逸らして逃れる。


「そもそも俺がフレイヤを避ける理由がないだろ」

「あれでは浮気と勘違いされても仕方ないですし……」


 いや意味が分からん。


「浮気ってなんだ。俺はひとり身だぞ」

「アリシャさんとお付き合いされてるんですよね?」

「どこからそんなぶっ飛んだ話が出てきたんだ」

「この前レイシスさんが『最後まで責任を取る』って……」


 たしかに言ったな。

 だが意味が全然違う。


「あれはそういう意味じゃないぞ」


 フレイヤは首をかしげる。


「助けた責任を取るって話だ」

「……?」

「とにかくだ。俺とアリシャは()()()()()じゃない」


 アリシャがどう思っているかまでは知らないが、俺が陛下に抱いている感情とそう変わらないだろう。


「よかったです……」

「ん? なにが良かったんだ?」

「――――っ気にしないでください! こちらの話ですので!」


 なんというか、最近のフレイヤはどうもおかしい。

 感情の起伏がメチャクチャだ。


「そ、そんなことよりです!」


 彼女は大きく息を吸うと、ゆっくり胸に手を当てた。


「クラス対抗戦のペア、まだ決まってないんですよね?」

「まぁ、そうだな……」


 おそらくミーリヤ辺りから聞いたのだろう。


「わたしじゃダメ、ですか……?」


 フレイヤの魔術士ランクはAなのだし、ルール上は問題ない。


 だが彼女は拘束系の魔法以外を使っていただろうか。

 少なくとも俺は見ていない。


 おそらく戦うこと自体、あまり得意じゃないのだろう。


「俺としては逆に嬉しいくらいだが、フレイヤはいいのか?」

「レイシスさんの言いたいことは分かります。本当のことを言うと、わたしも戦えるようになりたいんです」


 対抗戦に限った話じゃないのはすぐに分かった。


「エーリュスフィアは平和な国だ。騎士団といった強力な治安維持組織もいるのだし、無理する必要はないと思うぞ」


 こんなものは建前であり説得力はない。

 彼女はここ数か月の間、事件に巻き込まれ続けているのだから。


 俺はただフレイヤに戦って欲しくない、と。

 そう思っているだけだ。


「いつもわたしは誰かに守られてきました。……でももう嫌なんです」


 フレイヤは意を決したように俺の目を覗き込んでくる。


「ですからお願いします。わたしとペアを組んで、戦い方を教えてください」


 とても真剣な目だ。

 いつもなら適当に流しているところだが、今回はそうも行かない。


「ひとつだけ、聞いてもいいか?」

「はい」

「フレイヤは何のために、いままで魔法を学んできたんだ?」


 そう聞くと、彼女は言葉を詰まらせた。



 しばらくの間待っていたのだが、どうやら答えは出なかったらしい。


「すみません……」

「いや、分からないんだったらそれで十分だ。気にしないでくれ」


 もし『人のため』だとか、『家のため』なんて言い出したら断っていた。



 さて、気持ちを切り替えて行こう。


「さっきの話だが、俺からもお願いするよ」

「……えっ? 本当ですか!?」

「もちろんだ。というかフレイヤと組まないと、そのまま退学決定だしな」

「あはは……」

「時間はあまりないし、いきなり明日から訓練を始めるぞ。覚悟しとけよ?」

「は、はい!」


 なにも全部を教える必要はない。

 それにフレイヤであれば、俺のように間違いを犯すこともないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の設定が最高にいいですね!サクサク読めました。 [一言] 早く続きな読みたいです(((o(*゜▽゜*)o)))頑張ってください!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ