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44. 問題児は西へ向かう

 なぜ兵器として作られた魔獣が投入されたのか。

 理由は分からないがひとつだけ、たしかなことがある。


「西へ向かうぞ」


 海沿いの方はルカとライエンが担当している。

 教師たちもいるはずだが、やはり心配だ。


 そう考え、立ち上がろうとすると足をつかまれた。


「ま、待ってくれ!? 俺たちは森の中なんて行きたくないぞ!」

「いや、一緒に行動する予定自体ないが」

「なっ――!?」


 そもそも最初に付いてくるなと言ったのはお前らだろ……。


「こんな場所で見捨てるって言うのかよ!?」

「だってA()()()()()の方々ですよね? 俺要らなくないすか?」

「うぐ……」


 というか勝手に動くやつがいるのが面倒なんだ。


「ま、そういう事だからそっちも頑張れよ」


 そう言い残し、この場をあとにしようとした時だった。


「ならお前じゃなくてもいい! そこの女を貸してくれ!」


 男が指さす先にはアリシャ。

 俺は詰め寄って胸ぐらをつかみ、近くの木に叩きつける。


「オゲェ――!」

「レ、レイシスさん!?」


 フレイヤが止めに入ってくるが無視だ。

 さすがに看過できない。


 思わず声が低くなる。


「アリシャは道具じゃない。また同じような事を口にすれば――」


 つぎは殺す。


 そう念を押そうとしたのだが、俺が続けるより先にアリシャが視界に入って来た。


「差し出がましいお願いですが、わたくしに彼らを任せていただけませんか?」

「……」

「彼らはわたくしが送ります。レイシス様はどうか好きなように、動いてくださいませんか?」


 ……彼女の言う通りだ。

 いまはこいつらに構っているより、ルカたちの方が大切だ。


「……悪かった。アリシャは()()を送ったら合流してくれ」

「感謝いたしますわ」


 続いてフレイヤに視線を移す。


「レイシスさんについて行きます。わたしだってみんなが心配ですから」


 どうやら俺の考えは筒抜けだったらしい。

 こういう目をした時の彼女はとても頑固だ。


 まだ短い付き合いだが、そのぐらいの事は分かっている。


「よし、俺とフレイヤは西に向かう。アリシャは護送が終わり次第合流だ」


 もう一度行動を確認し、ふたたび三人組を見る。


「も、もうなにもしねえよ!」


 そりゃ最低条件だ。

 もしアリシャに何かあれば、死体ごと消してやる。



----



 フレイヤの息が上がってきた。

 できるだけ彼女に合わせているが、それでも厳しかったか。


「ペースを落とすか?」

「いえ! 大丈夫です!」


 ああは言っているがつらそうだ。


「しんどくなったらいつでも言ってくれ。最悪俺が抱えて走る」

「あの、それはちょっと……」


 彼女が苦笑いしていると、突然大きな爆発音が鳴り響いた。

 俺はフレイヤと目を見合わせる。


「レイシスさん!」

「分かっている」


 急いで彼女を抱え、疾風の書を呼び出す。


「って、そうじゃないです!?」


 ん? 先を急ごうって意味じゃなかったのか……?


 まぁどうしようもない。

 魔法はすでに使ってしまった。


「舌を噛むなよ」


 瞬間、俺たちの体は一気に加速する。


 木々の間を縫うように、魔獣に劣らない速度で駆け抜ける。



 しばらくして、『フェロシティ』と生徒たちが戦ってる光景が飛び込んで来た。

 どうやら運よくライエンもいるようだ。


(せせらぎ)の書、第三章――」


 氷の槍で援護射撃をしようとした瞬間。

 今まさに戦っているライエンの背後に一匹の『フェロシティ』が映る。


「ライエン! 後ろだ!」


 大声で叫び、危険を知らせると彼は振り向く。


 同時に強烈な光。


 おそらくライエンの魔法だろう。

 あれは白の書による攻撃魔法だ。


 魔獣は悲鳴を上げながらその場に崩れる。


 だが彼が最初に戦っていた敵がまだ残っている。


「――《"フロスト・シュート"》!」


 氷球を飛ばし、いままさに飛びかかろうとしていた魔獣の頭部を破壊。

 なんとか間に合った。


 俺はライエンたちの元に飛び込み着地する。


 フレイヤを下ろしながら戦況を確認するが、完全に取り囲まれている。


 こちらの人員は俺を含めて五人。

 対して『フェロシティ』は見えているだけでも二十はいる。


 まずは足止めをするべきだろう。

 そう考えた時。


「豊穣の書、第五章――」


 フレイヤはすでに詠唱を始めていた。


「第六節より引用――」


 それに魔法の選択も完璧だ。

 驚くべき判断力だと言える。


「――《"大自然の激怒"》です!」


 彼女の足元から広がる魔力の波。

 原理としては"高次探知(ハイ・ソナー)"に近い。


 やがて()に触れた魔獣は、地面から生えた根に拘束され強く締め付けられる。


 俺はすかさず次の行動に移ろうとする。

 が、ライエンが敵に攻撃しながら怒鳴って来た。


「なぜ近づいたのだ!」

「お前たちがヤバそうだったからに決まってるだろ」


 俺はフィリアのように、狙撃なんて器用なことはできない。

 だからこそ、援護するために近づく必要があった。


「『ヤバそう』だったら普通逃げるだろう! しかもなぜフレイヤ様まで連れて来た!」

「あぁ、そんなことか」


 簡単な話だ。


「そりゃ突っ込んだ方が楽だったからな」

「――なに?」


 フレイヤを守るにしても、ライエンたちを助けるにしても。


「烈火の書――」


 俺の射程範囲にいてくれさえすれば、それが最適解の状況なんだ。


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