37. 問題児は捜索する
大声で呼びかけ、森に残された生徒を探していく。
もうかなり歩いたはずだ。
にもかかわらず、まだ誰も見つけられていない。
いや、任された区間に問題があるのかもしれない。
いま俺たちがいるのは東方面だ。
西の方は海が見えるらしいし、向こうの方に人が集中しててもおかしくない。
せっかくこんな所まで来たのだから、海沿いの方が人気もありそうだ。
ちなみにルカの言っていた『人数合わせ』はどうも俺だけだったらしい。
少し離れた場所にいるフレイヤとアリシャ。
彼女たちは条件付きで参加を許されている。
三人で組むこと、そしてあまり奥まで進まないこと、だ。
つまりもう引き上げる頃合いだと言える。
これ以上進むのは危険だし、生徒がいるとも思えない。
そう考え、最後にもう一度呼びかけようとした時だった。
「レイシスさん! こちらにいました!」
フレイヤが大声を出しながら手を振っている。
俺はアリシャと視線を交わし、軽くうなずき合うと小走りで駆け寄った。
「ケガ人はいるのか?」
「みなさん無事です。魔力酔い、でしたっけ? そちらも大丈夫らしいですよ」
フレイヤの後ろにはドワーフの男が三人。
たしかに魔力の影響を受けていなくても不思議じゃない。
彼らは人間の中でも特にタフな種族だ。
ちなみにひとり足りない理由を聞いてみたが、どうも元からいないらしい。
単純に人数が足りなかったのだろう。
「そっちはもう話は聞いているのか?」
近寄りながら声を掛ける。
「フレイヤさんから聞いたぜ。急いで戻ればいいんだろ?」
「お前らだけで帰れそうか?」
「んなもん来た道を戻るだけだろ? 余裕だな」
……本当に大丈夫だろうか。
分かりやすい道があるわけでもない。
探知魔法だってほとんど機能しないだろう。
気付いた時にはもう迷子、なんてことも普通にあり得る。
「念のためだ。俺たちも一緒に付いて行こう」
どうせあと少し探したら帰る予定だった。
少し早く切り上げたところで問題はない。
そう考え提案したのだが……。
「Bランクの手助けなんて要らねえよ」
彼は見下すように笑いだす。
いや、彼だけじゃない。
後ろの二人もニヤニヤしながら俺を見ている。
「知ってるぞ。お前、あの学年最下位のレイシスだろ」
「そもそもこっちは全員Aランクなんだよ。お前なんぞ、付いて来ても邪魔なだけってことだ」
それぞれ好き放題言ってくるが、そこまで言うなら仕方ない。
「なら後は頑張ってくれ」
俺としても手間が省けて楽というものだ。
というか本音を言えば、見知らぬ奴らだし割とどうでもいい。
もちろん始末書が発生するなら話は変わってくるが……。
そんなことを顔に出さず考えていた頃だ。
目の前の男は俺を退かそうと腕を近づけて来る。
すると横にいたアリシャが思いっきり払い落とし、サッと俺の前に割り込んでくる。
「あなたね――!」
ここからだと顔が見えない。
だが肩を震わせてるあたり、かなり怒っているのだろう。
いきなり魔法の打ち合いでも始めそうな勢いだ。
もちろんそんな事をさせる気はない。
俺は急いで彼女の手を握る。
「大丈夫だ。気にするな」
「ですが!」
「こんな場所で時間を潰しても意味がない。そうだろ?」
振り向いてくれるまでジッと待つ。
数秒ぐらいだろうか。
いつもの冷静なアリシャに戻るまで、それほど時間はかからなかった。
「申しわけありません……」
彼女が落ち着いたのを確認し、今にもキレ出しそうな男たちに視線を戻す。
「いやー悪かったな。俺たちはまだ仕事があるから先に行ってくれ」
これ以上逆なでしないよう、出来るだけ親し気な雰囲気を作って謝罪する。
だが向こうは俺に興味がないらしい。
彼らはアリシャに文句を言いながら横を通り過ぎていく。
「チッ。見た目が良いから期待していたが、中身はただのゴミかよ」
「おい女、そこの男にちゃんと躾けてもらえよ?」
俺たちはなにも言い返さず、ただ彼らが消えるのを待つ。
さっさとこの場から消えてくれればいい。
それだけで十分だったのだが、最後の一人がアリシャの顔目掛けて唾を吐いてきた。
俺は同時に無意識で烈火の書を使用する。
次の瞬間、なにか蒸発する音がしたかと思えば、唾はすでに空中で霧散していた。
思わず体が勝手に動いてしまった。
これでは俺も人のことを言えないな。
「……は?」
男は目を見開いてアリシャを凝視している。
あの様子だと魔法を使った事にすら気づいてなさそうだ。
しばらく間抜けな顔を眺めていると、突然彼と目が合ってしまう。
「な、なんか文句でもあるのか!」
サッと元の笑顔に戻して軽く手を振る。
「特になにもないぞ。さっさと行ったらどうだ?」
「ふ、ふん! 俺たちについてくるんじゃねーぞ!」
そう言い残し男はそのまま走り去っていく。
やがて見えなくなるまで待った俺は振り返る。
「アリシャ、悪かったな。最初に俺がちゃんと言い返すべきだった」
そうすれば彼女に罵声が浴びせられることもなかった。
「レイシス様はなにも悪くありませんわ」
アリシャは微笑みながら続ける。
「むしろ逆ですのよ? 先ほど守ってくださり有難うございました」
「そうなったのも俺が原因だ」
もう一度重ねて謝っていると、フレイヤが控えめがちに近づいてくる。
「あの、ごめんなさい……」
「ん? 謝ることなんてあったか?」
「わたしがレイシスさんたちを呼ばなければ、こんな事には……」
「そりゃさすがに考えすぎだ」
別のクラス、それも見知らぬ相手だ。
トラブルを想定するのは不可能だと言える。
……これ以上、この話はしない方が良さそうだな。
「もう少ししたら俺たちも引き上げるか」
そろそろ一度戻って状況を確認しておきたい。
他のグループが順調ならそれでいい。
だがもし難航しているのなら、ミーリヤだけでも先に退避させるべきだ。
「あと少し、頑張りましょう!」
「そうですわね!」
俺たちは顔を見合わせ、パッと表情を明るくする。
もうちょっとの辛抱だ。
そう確かめ合った、その時だった。
「うわあああああ!」
「助けてくれええええ!」
俺たちは一斉に振り返る。
この声はさっきのアイツらだ。
ただ事ではない、そう伝わってくるほどの大きな悲鳴。
「レイシスさん――」
「待て、危険だ」
今にも動き出しそうなフレイヤを手で制する。
声のした先は俺たちが通って来た場所だ。
罠の類はなかったのだし、十中八九彼らが『なにか』と遭遇したと見ていい。
その『なにか』が俺たちの近くに潜んでいる可能性だって考えられる。
あらゆる状況を想定し、次に取るべき行動を考えていた時だ。
「来るな! 来るなあああ!」
またも森に響き渡る絶叫。
瞬間、フレイヤが勢いよく駆け出してしまう。
「おい待て!」
呼びかけるが止まる気配はない。
「アリシャ、俺が言うまで魔導具は使うな! いつも通りバックアップは任せるぞ!」
「了解ですわ!」
簡単な指示を出しフレイヤの後を追う。
闇雲に近づくのは危険だがやむを得ない。
空気中の魔力がどんどん増えていく、そんな不自然な状況だ。
この先でなにが起きていても不思議じゃない。




