31. 問題児は班を作る
「班分けなぁ」
ミーリヤの容態を確認した俺は砂浜に戻って早々ため息をつく。
こんなことなら、そのままどこかに逃げれば良かったな。
つまりあれだ。
我々ソロ勢の敵、『はい四人組つくってー!』って奴である。
ルカ、お前許さんからな。
「あ、レイシスさん。おかえりなさいー」
「おう……って、アリシャはどこ行ったんだ?」
「さっきティーラさんとミルアさんに引っ張られてどこかに行っちゃいました」
たしか同じクラスにそんな名前の女子がいたな。
アリシャが作った友達か?
「どうせ班に誘われたんじゃないか?」
「それにしてはちょっと強引だったような……」
「まぁ大丈夫だと思うぞ」
アリシャが大人しく連れていかれたのなら問題ないだろう。
本当にイヤだったら無理にでも拒絶する。
拒絶出来るだけの力が彼女にはある。
「フレイヤも友達のところに行ったらどうだ?」
「わたしはその……。それより、レイシスさんこそ行かなくていいんですか?」
「俺に友達がいると思うか?」
「そんな自信満々に言わなくても……」
さっき軽く見回したが、ライエンも見当たらないあたりもう班が決まっているのだろう。
まさかルカと組むわけにもいくまい。
俺が適当に空いてそうな場所はないか探していた頃だ。
こちらに歩いて来た男女の二人組。
女生徒の方が声を掛けてくる。
「おふたりさんも余っている感じ?」
「ん? 俺に聞いてるのか?」
「そりゃそうでしょ。周りをよく見てみなって」
周り?
楽しそうに談笑している班が点在しているだけだが……。
あぁなるほど、そういうことか。
おそらく残っているのは俺たちぐらいなのだろう。
が、フレイヤは別だ。
「悪いが勘違いだ。こいつは違う」
フレイヤには先約がいる。
てっきりそう思っていたのだが……。
「いえ、わたしもちょうど探しているところでした」
どうやら俺の見当違いだったらしい。
彼女の人気を考えれば引く手数多だと思うんだが。
さっき遠目で見た時も、誰かと楽しそうに話していたし。
「ということで私たちと組まない?」
悪くない提案だ。
ちなみに班を組まない、という選択肢はない。
事の元凶であるルカが、遠くからずっと俺を見てるからな。
もし余計な事をすれば、さらに面倒事を吹っ掛けられるに決まっている。
「まぁフレイヤが良いなら俺は構わないが」
「わたしはレイシスさんが良ければ構いません」
思わず顔を見合わせる。
「フレイヤが決めてくれ」
「いえ、ここはレイシスさんが……」
彼女のことだし、俺が決めてしまえばイヤでも付いて来てしまいそうだ。
だからこそ任せたかったのだが……。
「じゃあここが私が決めるってことで、はい班決定ー」
「いやなんでそうなる」
ついツッコミを入れていると、二人組のもうひとりが口を開く。
「ジル、流石に無茶苦茶だと思うよ……」
「ならクレイが決める?」
「いや、僕が決めても意味がないでしょ……」
このままだと埒が明かない。
仕方ないか……。
「分かった分かった! 俺は良いから班を組もう!」
一応フレイヤを見るがうなずいて返してくる。
「よし決定! そうと決まれば出発だー!」
言いながら彼女は森へ向かってどんどん歩いていく。
ところでどこに出発するのだろうか。
----
森をしばらく歩いた頃。
ふと忘れていた事に気が付き、彼らに話しかける。
「そういや自己紹介がまだだったな」
彼らが同じ教室にいた覚えはない。
おそらく同じ一年生ではあるものの、別のクラスなのだろう。
「すいません、つい忘れていました。僕はクレイ、彼女はジルです。どちらもAランク魔術士になります」
「そうか、俺は――」
返そうとしたその時だ。
ジルと紹介された女生徒が声を上げる。
「金色の方がフレイヤで、黒色の方がレイシスでしょ?」
なんだその金色やら黒色って。
……あぁ、髪の色の話か。
「ちょっとジル、フレイヤさんは仮にも騎士団長の――」
「そういうのめんどくさい」
「うぐっ……」
なんというか、会ったばかりなのに彼らの日常が分かった気がする。
「フレイヤさん、お気を悪くしていたら謝ります」
「いえ、むしろ親しみがあってわたしは好きですよ?」
フレイヤは微笑みながらそう返す。
「聞いたクレイ? 今回は私が正しかったみたいよ?」
「少しは反省してくれ……」
本当にいつもこの調子なのだろうか。
もしそうなら彼の胃が心配になってくるな。
「にしても、よく俺たちの事を知ってたな」
「そりゃふたりとも有名人だからねー」
フレイヤはまぁ分かる。
なんで俺まで含まれているんだ。
「フレイヤさんは騎士団長のご息女ですからね。学園内だと知らない人の方が少ないでしょう」
「――で、俺は?」
「レイシスさんは、その……」
今度は俺のことを聞いてみたのだが、彼は言葉を詰まらせ目を逸らす。
「『学園始まって以来の問題児、レイシス・ロズウィリア』って言ったらかなりの有名人だよねー」
「そういうのは口にしちゃいけないって、この前言ったばかりでしょ?」
「あー忘れてたわ」
俺の知らないところでそんな噂が広がっているのか。
嘘じゃないから否定はしない。
というかむしろ狙い通りだ。
そう考えていると、ジルが期待の眼差しを向けて来る。
「そうそう、一度聞いてみたかったんだけどあの噂って本当なの?」
「あの噂ってどの噂だよ」
まぁどんな噂であろうと知らないが。
「ほら、測定でズルして不正入学したってやつ」
「ジールー!」
ついに我慢しきれなくなったのか、クレイは怒気を露にしてジルに詰め寄る。
なお当の本人は、心底楽しそうなご様子である。
しかしおもしろい噂もあるもんだ。
当たらずとも遠からず、という奴だ。
「そんなことが出来るなら、むしろ俺が教えて欲しいくらいだな」
「あーやっぱり嘘かぁ。成績上げれるチャンスだと思ってたのになぁ……」
だからあんなに期待していたのか。
残念だが下げる方法は知っていても、上げる方法に関しては俺も知らん。
「まぁ諦めて鍛錬を積めってことだな」
そもそも学校では測定にちゃんとした機材を使っていた。
生徒が誤魔化すのはほぼ不可能だろう。
というかサクっと誤魔化せたらそれはそれでマズイ。
「うーん、やっぱり魔法の練習頑張るしかないのかなぁ?」
「当然だ。強くなれるのは努力した人間だけだぞ」
ジルの目を見て言い放つ。
強い人間というのは、誰しもどこかで努力しているものだ。
稀に生まれつきの天才がいるが、それは例外中の例外だ。
日々の積み重ねこそが力になる。
「ためになる格言だ……」
「おう、お前も俺を見習って努力するんだぞ」
「はい師匠!」
彼女は頭に手を添えて敬礼のポーズを取る。
でもそれ、人族領の方式だぞ。
お前はエーリュスフィアの人間だろうが……。
「あれ、レイシスさんってジルさんよりランクが下じゃ……?」
「ん?」
「たしかBランク魔術士だったような……」
「んん?」
すっかり忘れていた。
「よし、この話はここでおしまいだ」
「おい」
今日も木々を抜ける風が心地いい。




