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28. 問題児は話し合う

 俺の部屋を選んだのは、なにも個室だからという理由だけじゃない。

 寮の最上階ということもあり、部屋のセキュリティが高いという部分は確かにある。

 それはもう貴族様が安心して子供を預けられるレベルだ。


 しかし俺はその程度じゃ安心できない。

 なんせ他人から見れば、スパイと疑われても仕方のない経歴持ちだ。


 つまりである。


 俺はこの部屋を可能な限り、それもバレない範囲でひたすら魔改造したのだ。

 しかも最近、ルカから教えて貰った防音処理を施したばかりである。

 実にナイスなタイミングだと言えるだろう。


「流石レイシス様ですわ。今はこんなにも立派なお部屋で暮らしていますのね」


 アリシャは感心したように俺の部屋を見回していく。

 もちろんこの、あまりにも豪華な内装についての事だろう。


 なんというか、非常に言いづらい雰囲気である。

 だって全部ミーリヤのおかげだし。


 まぁ隠していても仕方ない。

 さっさと話してしまおう。


 というか俺の話をするためには、どのみち避けられない内容だ。


「俺を拾ってくれた人がな――」


 イデア大樹海での出来事やフレイヤたちとの出会い、そしてこの前の誘拐騒ぎの一件。


 彼女に話しながら思ったのだが、この一ヶ月はとても濃い日々の連続だった。

 やっと戦争を止められたと思えば今度はこれだ。

 そろそろ長期休暇が欲しいところである。


 やがて俺が説明し終えると、アリシャはスッと目を細める。


「騎士団長の娘の客人、ですか……」

「その点に関しては俺のミスだ。悪いな」


 騎士団長と言えばこの国の治安を守る集団の重役。


 俺たちとしては非常に都合が悪い相手である。

 ドラグシアからの密偵・斥候といった勘違いを受ける可能性も高い。


「つい先日のお話も含め、どうも考えることが山積みのようですわね」

「それに加えてお前たちの事もあったからな。もうずっと頭を使いっぱなしだ」


 動けるのが俺一人だったという事もあり、ここ最近は休んでいる時間も無かった。

 睡眠時間も前に比べればだいぶ減っている。

 まぁ学校で居眠りして補っていたわけだが……。


「アリシャの話の前に聞いておきたいんだが、フィリアとノーラの行方は分かっているのか?」

「いえ、お二人ともまだ何も……。レイシス様の事ですら、数日前に聞いたばかりですので……」

「数日前? それにしてはだいぶ行動が早いな」

「すべてセレーナ大佐のおかげですわ」


 セレーナって言うと(せせらぎ)の翼の、あのセレーナか?

 なんであいつが俺の状況を知っているんだ。


 それについて聞いてみようとすると、問い掛ける前に彼女が口を開く。


「ベイルさんから話を聞いたそうです。とはいえ大佐もレイシス様の死に関して、前々から偽造して下さっていたそうですが」


 やっぱり俺をあの大樹海に放り込んだのはベイルだったか。


 しかしバレた先がセレーナで幸運だったな。

 おそらく彼女が率先して検死を担当してくれたのだろう。

 いつもなら部下にやらせているはずだが助かった。


「わたくしはあの事件のあと、逃げた先で大佐に保護されました。それでしばらくお世話になっていた訳なのですが……」

「セレーナに俺の話が降ってきた、と。しかし生きているかはまた別の話じゃないか?」


 その情報だけだと、俺が暗殺されていない事くらいしか分からないはずだ。

 そんな不確かな情報だけで、亜人領にまで乗り込んで来るなんて無茶にもほどがある。


 まさかアリシャが勝手に抜け出して来たとかは無いよな?

 思わずジッと見つめる。


 すると彼女は慌てながら手を振り始める。


「わたくしが来たのは大佐からの指示ですわよ!?」

「本当だろうな……?」

「本当ですわ!」


 念を押すように何度も確認してみる。

 が、たしかに嘘は付いていないようだ。


 こいつは命令を無視して前線に出るクセがあるからな。

 バックアップを任せているはずなのに、なぜかいつも横に並んでいるほどだ。


 あの日に限っては、前の作戦の事もあってか少し違ったわけだが……。

 まぁおかげでアリシャが逃げれたのだし良しとしよう。



 しかしやっと全貌が見えて来たな。


 セレーナが関わっているなら転入出来たのも頷ける。

 彼女は元々()()()の人間だからな。


 アイオライト家の関係者であればシトリス魔法学院なんぞ余裕で入れる。

 となるとあとは、だ……。


「それで亜人領にはどうやって来たんだ?」


 人族領と亜人領には大きな壁が存在する。

 すなわちイデア大樹海。


 アリシャは身体能力に優れる猫耳族だが、それでも超えることは容易でないはずだ。


「普通に隠し通路を使って来ましたのよ?」

「なにを言っているんだお前は……」


 隠し通路だと?

 もしそんな便利な物があれば、アホな人族は今頃ケンカを吹っ掛けているに決まっているだろ。


 が、馬鹿にした口調で返しても表情を変える気配が無い。

 まさか本当の話なのか?


「あれ、レイシス様もご存じなかったのですか?」

「その言い方だとアリシャも知らなかったのか」

「セレーナ大佐も最近まで知らなかったそうなのですが、『軍が作ったばかりの道

』とのことです」


 初耳である。


 陛下からそんな話はまったく聞いていない。

 というかあの人が許すわけがない。

 人族領と亜人領を繋げようものなら、戦争の火種になるのは目に見えている。


 つまりその『隠し通路』とやらは完全に軍の独断だ。

 それもセレーナが知らなかったとなると……。


 彼女は大佐という高い階級に加え、あらゆる権限が与えられている『翼』のうちのひとりだ。

 にもかかわらず知らなかったという部分が引っかかる。


 俺を全力で殺そうとしたり、『翼』であるセレーナにすら知らせていない作戦を進めていたり……。


 裏にいるのは竜翼魔術士団の頂点、あのゼシウスで間違いない。

 陛下が目を覚まさないのをいい事に、奴はなにかを企んでいる――。


「しかしそんな場所よく使えたな」


 警備ぐらい当然あると思うんだが。


「その点に関しては心配ありませんわ。ベイル少尉が道を切り開いてくださいましたので」

「おい、まさかあの馬鹿は穢魂(あいこん)の書を使ったんじゃないだろうな……」

「使っていましたわね。それはもう全力で」


 思わず頭を抱える。


 状況から見てどう考えても厳重、そして大勢の警備があったはずだ。

 それを無力化したとなれば、ベイルは確実に第五章を使っている。


「それでアイツは死者をどのぐらい出す想定でやったんだ」

「彼が言うには0人とのことですが」

「うわ嘘くせぇ……」


 異端書の第五章はどれもこれも、とにかく危険な魔法で溢れかえっている。

 やろうと思えば町一つ歪めることだって可能だろう。

 人が魔族に抱いていた殺意がひしひしと伝わって来る"章"である。


 まぁベイルであれば死者を出さないのも可能なのか……?

 正直言って俺も分からん。



 ともかく大体の事情は分かった。

 まとめるとだ。


 俺が亜人領にいることを知ったセレーナはアリシャを送り込んだ。

 理由は俺の生存確認とドラグシアの状況を伝えるため、といったところだろうか。


 シトリス魔法学院を突き止めた点については簡単な話だ。

 リスクを承知で実名を使ったおかげだろう。


 辺境伯、つまり国境警備を担うアイオライト家であれば、一学校の名簿ぐらい簡単に手に入るはずだ。


 学校という点に目を付けたのはおそらくベイルだろう。

 アイツは密偵の経験もあるし、学生という地位の使いやすさも知っているはずだ。

 流石としか言いようがない。




 一通り話し終えた俺たちは一息つくと、ふと外が暗くなり始めていることに気が付く。


「すっかり夜だな。そろそろ解散にするか?」

「その、出来れば今日はレイシス様と一緒にいたい……のですが……」


 彼女は怯えがちにチラチラと俺を見る。

 図書室の時は成長したと思ったんだが、むしろこれは戻っているな……。



 仕方ない。


 やっと会えたのだし、今日くらいはまた一緒に寝てもいいか。

 幸いにもテルラが帰って来るのは明日の昼だ。

 つまり誰かに誤解される心配はない。


「そうだな、取り敢えずシャワーでも浴びてきたらどうだ? 俺はその間メシでも作っておく」

「レイシス様――!」


 言うや否や、彼女は鼻歌混じりに浴室へと駆けていく。

 今度はちゃんと"駆け足"である。


「先が思いやられるな……」


 はたして彼女がひとり立ち出来るまで、あとどれぐらい掛かるのやら……。


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