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106. 問題児はいじられる

 ペア結成から数日経ち、徐々に日常が戻りつつあるこの頃。

 変わったことと言えば町を警邏けいらする騎士団員が増えたことくらいか。


 そろそろ長期休暇の時期だ。

 今年は不祥事が多かったせいか、例年より早めに始まるらしい。


「レイシス様、日程の方が決まりました」


 次の授業へと向かうため、廊下でアリシャと並びながら。


「翌週の初日、ちょうど休暇が始まって次の日ですわ」

「そりゃまた急だな。よく空けてくれたもんだ」

「当主様によれば、すぐにでもお会いしたいとのことで」


 それにしたって驚くべき速さだ。

 今の俺は国外追放を受けた身に近いのだから、恩を売っておいたところでメリットは少ないと思うんだが。


「レイー!」


 不意にミーリヤに声を掛けられる。

 どうやら駆け寄ってきているようだった。

 そういえば次の授業は実技だったな。ペア同士で魔法を撃ち合って練習するとかいう。


「あの、一つよろしいでしょうか」

「おう?」


「なぜミーリヤさんを選んだのでしょうか」

「それ、お前が言うか?」


 彼女の目を見て言外に「アリシャのせいだぞ」と主張する。


「わたくしとしましては、フレイヤさんとペアになって頂きたかったのですが……」

「意味が分からん」


 やっぱり彼女の真意は読み取れない。

 こんな事は今まで無かった。アリシャも変わって来たという事だろうか。

 それなら素直に喜びたいところだが、なんかちょっと複雑だな。



----



 水の牙城がじょう、アイリステール。

 この街は各所に流れる水路が魔法陣としての役割を果たし、防衛の要として機能している。

 アイオライト領でもっとも堅牢な都市、それがアイリステールだ。


「へぇー、結構キレイなところなのね」

「ですね! 本に書いてあったよりも断然いい場所です!」


 楽しそうに街並みを見渡すミーリヤとフレイヤ。


「やはり素晴らしい防御機構だ。前線ともなるとレベルが違うのだな」

「古風な見た目に反して最新鋭の軍事設備。これも敵をあざむくための偽装なのでしょうか」


 真面目な表情で水路を観察するのはライエンとテルラだ。


「お前ら、一体何しについてきたんだ……」

「まぁまぁ。みなさん楽しそうですし、いいじゃありませんの」

「あのなアリシャ。俺たちは観光しに来たんじゃないんだぞ」


 そして最後尾でコソコソ話すのが俺たちである。

 いやほんと、なんでアイツらまで来たのやら。


 百歩譲ってテルラはいい。俺たちの正体を知っているからな。

 だが他の三人は本当に謎だ。


 ミーリヤが『レイのペアなんだから』と言い出したところから始まり、『ではわたしもお姉ちゃんについていきます!』なんて宣言したフレイヤ。


 ライエンに至っては『ならば私も同行しよう。フレイヤ様を守るのがペアである私の務めである』だ。過保護にもほどがある。

 ちなみにテルラはいつの間にか一緒にいた。


「予定の時間はすぐなんだぞ。この状況はどうすんだ」

「どうかご心配なく。わたくしにお任せください」


 彼女は優美に微笑むと、前を歩く彼らの元へ近づいて行く。


「みなさん、わたくしとレイシス様はこれから所用がありますので、存分にお楽しみくださいませ」

「うむ」

「ええ、そうさせてもらうわ」

「楽しんできて下さいね!」


 こころよく承諾する同行者たち。

 なおテルラはもう隣にいた。


「どうなってるんだ」

「アリシャさまが事前に説明していたそうです。幼馴染であるレイシスさまとたまには遊びたい、と」


 今テルラの表情がちょっとブレたな。

 アリシャに口止めでもされたのだろう。


「本当は?」

「『レイシス様とデートを致しますので』と言ってました」

「そうか」


「ついでにお伝えしますと、そのせいでミーリヤさまとフレイヤさまがついて来たみたいです。お二人の理由までは分かりませんが」

「なるほど」


 よく分からんが、この面倒な状況を作り出した元凶はアリシャである、という事だけは理解できた。

 これから大切な用があるというのに、相変わらずの奔放さに頭が痛くなってきた。


「あら、レイシス様? 目頭を押さえられてるようですが、もしやお疲れなのでしょうか?」


 テルラの密告を聞いていると、いつの間にかアリシャが戻ってきていた。

 彼女の事だ。俺たちの会話を聞いていないハズがない。


「頼むから自重してくれ……」

「ふふ、何のことか分かりませんわ」


 最近アリシャのいたずらがエスカレートしてきた気がしないでもない。


「それより向かいましょう。さぞかし先方も期待しているでしょうから」

「さて、どうだろうな」

「レイシス様が訪れるのですよ? 間違いありません」


 今度の言葉はおふざけとも言い切れない。

 今の俺に利用価値は少ない。

 にもかかわらず、あちらは面会を受け入れて来た。


 まずは探りを入れるところから始めるべきか。


「慎重に行こう。アリシャ、補佐は頼んだぞ」

「もちろんですわ。お任せください」


「ご主人さま。わたしはどうすればいいでしょうか?」

「そうだな……」


 今日はテルラが来ることを計算に入れていない。

 フレイヤたちと遊んでくれた方が気楽ではあるが。


「ちなみに狙撃ポイントの目星は付けてあります。抜かりありません」

「待て待て、今日はそんな物騒な事はしないぞ」

「……? てっきり戦うものだと」

「アホか。こんな街のど真ん中で騒ぎを起こしてどうする」


 たしかにテルラの訓練は仕上がっている。本当に狙撃の準備が出来ているのだろう。

 実戦で引き金を引けるか、それはまた別の話として。


「レイシス様の言うとおりですわ。それにテルラさんは知らないでしょうが、レイシス様が武力をもって相手を制する場合、もっと効率的な方法を取りますもの」

「そうなのですか?」


「ええ。事前に戦略級魔法を敵の本陣に展開、レイシス様の指先ひとつで発動できるようにしたうえで話し合いを始めるんですの」

「おい」


「もちろん敵軍どころか領地全体を覆う範囲ですから、当然相手は逃げれません。したがって交渉成立は確定事項となり……」


 頼むから、もうそれ以上しゃべらないでくれ。


「あ、別にデタラメではありませんのよ? 既に数回、行っておりますから」

「ご主人さまであれば出来ても不思議はありませんが、本当にそんなことが……?」


 テルラと目が合う。

 彼女の過去を知ってしまった今、俺には嘘をついて裏切るということができなかった。


「ま、まぁ……あったような、なかったような……?」

「あったんですね」


 俺たちのやり取りを見るアリシャは笑みを崩さない。

 が、バレバレだ。耳がひょこひょこ動いている。尻尾もぶんぶん振られている。


 相当楽しんでいるみたいで何よりだ。今度必ず、仕返ししてやろう。

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