104. 異端の翼は組みなおす
俺は最後の部品を組み込むと、工具を置いて背もたれに体を預けた。
「思ったより時間がかかったな」
机に置かれているのは黒い鉄の固まり。人の背丈ほどある細身の魔導具だ。
疲れを取るためしばらく目を閉じていたのだが、不意にドアをノックされ我に返る。
「入っていいぞ」
「失礼します。お取込み中でしたか?」
「いや、ちょうど終わったところだ。気を遣わせて悪いな」
振り返りながらそう返すと、彼女はコップを手渡して来た。
礼を言ってそのまま受け取る。
「最近は部屋に籠りがちでしたが、もしやこれを……?」
「まぁな。といっても当初の予定では、数日で済むはずだったんだが」
今の環境も含めて計算するのを完全に忘れていた。
ここは第零と違って機材がまったくない。
「こうしてゆっくり見るのは初めてですが、結構大きいんですね」
「意外だな。組織が作った魔導具なんだろ?」
「わたしは近接戦闘の訓練しか受けておりませんので」
テルラは言いながらチラチラ覗いている。
俺は苦笑しながら「好きにしていい」と伝えると、彼女は控えめがちに触り始めた。
「重い、です……」
「魔法を撃つ時の反動を抑え込むために、どうしても重量が必要でな」
なおも興味津々な様子のテルラ。
まぁドラグシアでも仮採用されたばかりのタイプだし、珍しいのも当然か。
「気になるなら起動してみるか? オーバーホールも済んでるから大丈夫だ」
「おーばーほーる……」
「――っと、しまったな。まあ簡単な話、もろもろ調整してあるぞって意味だ。ほら、そこ握って魔力を流してみろ」
そう教えると、彼女はグリップを強く握りしめて目を閉じる。
初めて使うみたいだし、少し時間がかかるだろう。
俺はその間、彼女からもたらされた情報を思い返していた。
封緘魔莢と専用狙撃魔導具。
どちらも屋上の戦闘が終わった後に回収した物だが、目の前の塊がまさにそれ。
少しでもフィリアの手がかりを得るべく、細部まで分解して調査を行う。
ここ数日の放課後はその作業にあたっていた。
収穫も悪くない。
結論から言えば、コイツはフィリアの物を参考にしておらず、かなり意外な所から技術を流用していた。
「そろそろ起動するな。あとは『識別コード0-0000』って口にするだけでいい」
「……? 分かりました」
テルラは首をひねりつつも、俺が伝えた識別キーを口にする。
すると魔導具は鈍い音と共に、静かに起動した。
そう、この魔導具はドラグシアの技術がかなり使われている。
さらに面白い事に、用いられてるのは報告書に書いたものだけ。
もしフィリアの魔導具が参考にされているのなら、『上』にあげてない技術も組み込まれてないとおかしい。
「あ、軽くなりました」
テルラは言いながら魔導具を振り始める。
「起動後は質量可変の魔法も立ち上がるんだ。撃つ時以外はぶん投げる事だってできる」
「すごいです。……でもそんな便利な機能があるなら、狙撃するときだけ重くすればいい気もしますが」
つまり今の逆、元を軽くするべきだと言いたいのだろう。いい着眼点だ。
「重くするより軽くする方が、使う魔力は少なく済むんだ。だから感知される危険性も減る」
「なるほど……。流石は竜の国で生まれた魔導具です。まったく理解が及びません」
「まぁ向こうでも分かってる奴は多くない」
「そうなのですか?」
「使うだけなら知る必要はないからな。狙撃担当だった俺の部下なんて、興味すら示してなかったぞ」
まぁ彼女の場合、ほとんどの事に感心がないってのはあるが。
「この前話されたフィリアさま、ですよね……」
「おう」
彼女にはフィリアの特徴を教え、似ている人間が組織に居なかったか聞いてある。
封緘魔莢を確認した時点で、フィリアが捕らえられた可能性も考えたからだ。
結局テルラに心当たりは無かったようだが、回収した魔導具の件も含め、フィリアは捕らえられていないはず。
いや、結論づけるのは早計か。
まだ封緘魔莢の出所が分かっていない。
あれはフィリアしか持っておらず、作成方法を知っているのも俺とノーラだけだ。
「あの、ご主人さま」
「……ん? どうかしたか?」
深く考え込んでいたせいで、やや反応が遅れてしまった。
「わたしもこの魔導具を扱えるようになれば、フィリアさまの代わりぐらいにはなれるでしょうか……?」
「無理」
「です、よね……」
何を言い出すかと思えば。
「フィリアの代わりになれる人間なんていないし、テルラが代わりを目指す必要もない。俺が言いたかったのはそういう事だ」
「どういう意味……でしょうか」
「テルラはテルラのままでいいんだ」
彼女は顔を伏せると、数秒ほど固まって。
「……すみません、やっぱり分かりません。難しいです」
「まあそのうち分かるようになる。今はとにかく、やりたいことだけしてればいいさ」
別に急ぐことはない。自分のペースを大切に、な。
「――ではひとつお願いが。わたしにこの魔導具の使い方を教えてください」
「別に構わないが、知ってどうするんだ」
「分かりません」
即答だった。
テルラが嘘を言っている様には見えない。
本当にただ、興味本位といった感じだ。
まぁ敵を殺すため、なんていきなり言い出すよりはマシか。
「ご主人さま……」
返答に間を開けたせいで、断られると思ったのだろう。
彼女の表情は不安げだった。
「そう落ち込むなって。大丈夫だ。ちゃんと教える」
「ありがとうございます――!」
内容はどうかと思うが、テルラが初めて口にしたわがままだ。
俺の出来る範囲であれば、協力を惜しむ理由なんてない。
「ふふ……。まさかな」
「ご主人さま?」
「あー悪い、気にしないでくれ」
今度は俺の番、か。
少しは前に進めたって、そう自惚れてしまってもいいのだろうか?




