102. 問題児は断られる
模擬戦はライエンの勝利に終わった。
いくら不利な状況だったとはいえ、あそこまで圧倒的な防御力だ。
他の参加者が負けたのは必然だったと言える。
「しかし面白い魔法を使うもんだな」
ライエンが見せた光の絶壁。
相手の魔法が被弾する直前、全ての盾が独立して動くのが見えた。
使用者の無意識にリンクするタイプか、それとも完全に自律するタイプか。
どちらにせよ、相当珍しい部類の魔法だ。
「それにライエンさん、疲れている様には見えませんわね」
「そうだな。取り繕ってる訳でも無さそうだし、意外な所に実力者が隠れてたらしい」
あのタイプの魔法はとにかく燃費が悪い。
ライエンが魔法を発動してから戦闘が終わるまで、体感二分ほどだろうか。
魔力の消費は相当な物だろう。
しかも激しい動きが組み合わさっていたにもかかわらず、呼吸一つ乱していない。
あの魔法を使った状況下での戦闘に慣れていると見ていい。
俺が今の戦いから得られた情報を整理していると、不意にライエンが歩き出した。
どうやら彼はこっちに来るらしい。それにフレイヤも一緒のようだ。
「ロズウィリア、貴様も見に来ていたのか」
「いやーお疲れ! 流石は騎士候補様だな!」
「らしくないな。気持ち悪いぞ」
俺のねぎらい、まったく信用されていなかった。
「まぁそう言うなって。しかしあんなに凄い魔法が使えるなら、対抗戦の時も勝てたんじゃないか?」
「冗談はよせ。そもそも貴様の場合、敵に詠唱する余裕すら与えんだろうに」
「いやいや無理だって」
本当に凄いな。そこまで分析できていたのか。
高い身体能力に加え強力な魔法、さらには咄嗟の判断力の高さ。
ライエンは近い将来、間違いなく騎士団の中核を担うだろう。
「じゃ、今日はもう帰るとするわ」
もうここに残る理由はない。
頭のおかしい奴が勝った場合に備えて見に来たが、ライエンであれば心配ないだろう。
フレイヤは大丈夫だ。
俺は軽く手を振ると、アリシャと共に背を向ける。
「ま、待って下さい!」
だが、突然フレイヤに呼び止められた。
振り返って彼女を見ると、いつになく真剣な眼差しと目が合う。
「あの、お二人はもうペアを組むことに決めたんですか……?」
フレイヤは若干前のめりでそう聞いて来た。
アリシャにペアは持ちかけていないが、どのみち後で話そうと考えていた事だ。
報告が先でも構わないだろう。
そう考え、すでにペアを組んでいる旨を告げようとしたのだが……。
「どうかご安心を。まだそのようなお話はしておりませんわ」
俺が口を開くよりも先に、アリシャがさっさと返してしまった。
「おい」
「あら?」
彼女は笑顔を崩さない。どうやら分かっていない、という事でもないらしい。
「……まぁいい。とにかく俺は帰るぞ」
「わたくしもお供いたしますわ。――では、お二人とも失礼します」
「はい。また明日です」
「うむ」
理由は分からんが、アリシャが適当に濁してしまった。
とはいえこの場で問い詰める訳にも行かないし、後で聞くしかないだろう。
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学校からの帰り際、俺はとなりを歩くアリシャに質問を投げていた。
「で、なんであんなことを言ったんだ」
俺たちがペアを組んだ場合の利点は大きい。
真っ先に挙げられるのが行動の自由だろう。ペアを組むともなれば、様々な理由で一緒になる機会も多くなる。
目的は『お互いを高め合う仲』という事らしいし、プライベートの侵食も免れない。
だがアリシャと組めば、今挙げたデメリットは逆転する。
いや、それだけに留まらない。
自由に使える時間が今と変わらないどころか、「ペア相手と過ごしていた」という事にするだけで、隠れて動くことだって出来るようになる可能性すらある。
そういった事は彼女も当然理解しているはず。
「まさか『分かっていない』なんて言わないよな」
「ええ、もちろんですわ。レイシス様のお考えは正しいと思います」
「ならどうしてフレイヤにあんなことを……いや、まあいいか。今日はもう遅いし、明日サクっと申請を済ませてしまおう」
「申し訳ございませんが、それは出来かねます」
まさかの拒否だった。
「アリシャ……?」
「どうかわたくしの我儘をお許しください。それにレイシス様にとっても決して悪い話ではございませんから」
まったく意味が分からない。
今後の事を考えた場合、どう考えてもペアを組んだ方が、俺たちのためになると思うんだが。
「それに……」
「それに、なんだ」
彼女がなぜか言い淀んだかと思えば、空を見上げポツリとつぶやいた。
「少々フレイヤ様が不憫でしたので……」
やっぱり意味が分からない。
気付けば男子寮と女子寮の分かれ道。
結局俺はアリシャから真意を聞き出すことが出来なかった。




