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101. 問題児はジト目になる

「えーそれではこれより、模擬戦を行いたいと思います」


 時刻は夕方、校庭に集められた生徒たち。

 彼らはみな真剣な眼差しでお互いを睨みあっていた。


「基本ルールからの変更は無し。各個人で争う個人戦、で間違いありませんね?」


 それはつまり、文化祭で行われた対抗戦に近い形式ということ。

 使える魔法は非殺傷の物に限定され、ペンダントを破壊されれば負け。


 ここまで本格的な模擬戦が、申請一つで出来るというのだから驚きだ。


「ところで素朴な疑問なんだが、この戦いに勝ったら何が得られるんだ?」

「優先的にペアのお願いが出来るようになる権利、だそうですわよ」


 思っていたよりもずいぶん曖昧な物だった。

 てかそれ、フレイヤたちが断ったら結局意味ないのでは。


 なんて事を考えていると、アリシャは俺の考えを見透かしたように付け足して来た。


「まあ考えるだけ無駄でしょうね。もう後に引けないのでしょう」

「うわ、アホくさ……」


 というか立候補した中から、フレイヤたちに選ばせるんじゃダメだったんだろうか。

 やはり貴族というのはよく分からんな。



----



 開始の合図とともに駆けだす参加者たち。

 が、そのままスムーズに攻撃動作へ移ったのは一人だけだ。


「ふん!」


 ライエンが撃ち出した光の槍。その数は六。


「どわ!?」

「クソ――っ!」


 模擬戦の参加者それぞれに向けた先制攻撃は、彼らの詠唱を中断させていた。

 恐らく実戦経験が浅いのだろう。


「決まったな」

「ですわね」


 たった一度の攻防ではあるが、この時点で勝者は決まったようなものだった。

 ライエンは戦い慣れているのに対し、他の六人は素人丸出しだ。

 いやまあ、ただの学生なんだから当然か。


 その後もライエンは無詠唱を乱射しながら、他の参加者を圧倒していく。

 戦力差は歴然だ。


「このままじゃ埒が明かねえ! ――おいテメエら!」


 茶髪の男が声を挙げたかと思えば、ライエン以外の全員が視線を交わし、うなづき合っていた。

 続いて一斉に敵意を向けられるライエン。


 敵の敵は味方って奴だろう。たかが模擬戦だというのに、素晴らしい貴族精神である。


 彼らは突然フォーメーションを組んだかと思えば、前衛に当たる三人が一斉に詠唱を始めた。

 当然ライエンは妨害していくが、このままだと後衛の詠唱が完成してしまう。


「なぁ、あれ本当に即席の共闘か?」

「わたくしも丁度同じことを考えていたところです。どう見ても事前に打ち合わせをしていたとしか思えませんが……」


 その後もライエンは抗戦するが、やはり徐々に対処が遅れ始めていた。

 彼らの連携は完璧としか言いようがない。


 やがて発動した数々の魔法たち。

 ここに来て、初めて攻守が切り替わる。


「――――!」


 殺到する魔法を正面に捕らえたライエンは、目の前に巨大な光の壁を展開した。


 対広域軍用魔法《"ホーリー・ファランクス"》。

 面での防御に優れた強力な魔法だ。


「今の内だ! どんどん撃ち込め!」

「んなもん言われなくても分かっている!」


 しかしいくら軍用魔法と言えど、鉄壁ということはない。

 そしてこの人数差だ。ライエンが防御に専念している以上、いつかは守りを崩される。


 だがライエンの表情から焦りは感じられない。


 突然の一対多数にこの連携。にもかかわらずあの落ち着き。


 こういった姑息な手には慣れているのだろうか。

 はたまた対策を持ち合わせているという余裕の表れか。


「白の書、第六章、第一節より引用――!」


 …………は?


「――《"ホーリーブリッツ・バリエーラ"》!」


 ジト目になる俺をよそに、次々と生成される無数の光板たち。

 手のひらサイズの小さな盾、と言ったところか


 ライエンを取り囲むように出現したそれらは、彼を守護するようにふわふわと浮いている。


「相変わらずやることがエゲつねー」

「あれって人前で使って問題ないんでしょうか」

「さあな……」


 継承魔法は家宝や秘術、なんて表現されることもあるぐらいだ。

 対策されるのを避けるためにも、切り札として伏せておく人間が多い。


 反対に騎士団長の持つ魔法のように、ある程度周囲に力を誇示しておくこともある。

 他国へのけん制的な意味合いを持たせる場合だ。

 まぁあの魔法がどうかは知らないが。


「父上は言っていた。真に守るべき物を守るために、この魔法は存在するのだと」


 ライエンは堂々と一歩を踏み出し、構えることもせず《"ホーリー・ファランクス"》を解いた。


「さあ挑むがいい! 我がアルベルト家に伝わる不可侵の絶壁に!」

「お前は何を守るために戦っているんだ……」


 つい本音が漏れてしまった。


「撃て撃て撃て! テメエら全員撃ちまくれぇえ!!」


 烈火、せせらぎ、疾風に豊穣。

 そして白の書、黒の書までもが混ざりあった弾幕は、ライエンを押しつぶすように降り注ごうとしていた。


 頭に血が上っているのだろうか。これはちょっとやり過ぎだ。


「どう見てもレギュレーション違反だろ」

「先生は止めに入られないんですの?」


 明らかに過剰な攻撃。ここまでの集中砲火となれば十分殺傷性がある。

 だがアリシャが言ったように、監督する先生は眺めているのみ。


 彼はベレールの様にサボリ癖がある訳でも無い。

 むしろとても真面目な先生だと、生徒の間では有名だ。


 それはつまり、止める必要がないと判断したに他ならない。

 ライエンが操る継承魔法を知っている証明だ。


「ふん。貴様らの全力はその程度か」


 数多の魔法が降り注ぐ。


 凄まじい轟音に土煙。もはや模擬戦の範疇を越えている。

 しかしライエンの悲鳴が聞こえて来ることは無かった。


「ほー、ありゃすげえな。たしかに『絶壁』だ」

「魔導具無しであの防御力……驚きましたわ」


 俺とアリシャは直撃する瞬間を見て、思わず感心していた。


 だが攻撃した張本人は何も分かっていないらしい。

 いや、よく見れば観戦している生徒たちもか。



 やがて不意に風が吹き、ライエンを隠していた土煙が晴れていく。


「な、なんだ!? なぜ効いていない!?」

「ふざけんな! 無傷なんてあり得ねえだろ!」


 慌てふためく六人。

 それに対し、勝ち誇った表情を作ることも無く、ただおごそかにたたずむ一人の男。


 彼は目を閉じながら静かに口を開いた。


「これが愛する者を守るべく、示した私の決心だ」


 そうですか。

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