表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/63

番外編 大切な人からの贈り物

2018年2月14日にtwitterに投下したSSを加筆して纏めたものです。

本編終了後のあるバレンタインデーの出来事です。

(ジュ)家の娘は莉麗(リリー)だけじゃないのよ」

「……もちろん、忘れてはいないとも」


 皮肉っぽい微笑みを浮かべる玉蓮(ユーリェン)を前に、エドワードはがっくりと肩を落とした。若く着飾った令嬢に対して失礼だとは分かっていても、落胆を隠すのは難しかったのだ。

 今宵の夜会に、朱家の当主は令嬢を伴うと聞いていたから。久しぶりにリリーに会うことができるのではないかと、否、会えるものだと思い込んで舞い上がってしまっていたらしい。

 考えてみれば、(ジュ)威竜(ウェイロン)が簡単に娘を彼と会わせてくれるはずはない。それも、恋人や親しい友人が想いを伝え合うこの日に限って。だからこそ、という勝手な期待も、もしかしたらあったのかもしれないが。


(ラオ)朱は私を信用していないのは分かっていたんだ……」

「信用してるわ。少なくともワタシには何もしないし何とも思っていないでしょ?」


 洋装を纏った玉蓮が、以前より滑らかな本国語を操りながらエドワードに手を差し出す。女性――それも、華夏(フアシア)の女性からにしては、大胆なダンスの誘いだった。礼儀としても、リリーの話を聞かせてもらうためにも、エドワードが断るはずがないのを分かっているのだ。




 纏足をしていない玉蓮は、ドレスの裾を翻して優雅に、見事に踊った。どこの家の令嬢かと囁く声がエドワードの耳にも届くほど。彼女の父の名も、生地を提供した彼の商会も、一度に宣伝してくれることになるだろう。願わくば、いずれ彼女の妹――リリーも、こんな華やかな場に出られれば良いのだけれど。


「ああ、楽しかった!」


 曲の終わりと共に、玉蓮はくるくると回ってエドワードの手を離した。手の中に残るのは彼女の温もりだけではなくて――何か、固いものを手渡されたらしい。でも、エドワードが声を上げる前に、玉蓮はにこりと笑った目で黙らせる。


「父様には内緒。……莉麗からよ」


 小さな声で囁かれた愛する人の名を聞いて、エドワードは掌の何かを握りしめる。


太太(おくさま)や母様と皆で作ったお菓子。とても美味しいはずだから――次に会う時に感想と……お礼を用意しておくことね」

「ああ、もちろん」


 顔を寄せ合って言葉を交わす彼らふたりはもしかしたら恋人同士に見えたかもしれないし、それが噂になれば彼は朱威竜の信用を一層失うのかもしれない。だが、そんなことに気を配る余裕は今のエドワードにはなかった。リリーとの繋がりを実感できるのは、本当に久しぶりのことだったから。


 初恋を知ったばかりの少年のように胸を高鳴らせながら、エドワードは渡された小箱らしいものを大切にしまい込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ