第七話 好敵手(ライバル)
「・・・シェルターか、戦争でもないのに入る事になるとはね」
現在、棟子はシェルターの前に居た
文字通りの頑強なシェルター、入り口の分厚さからして一メートル以上はある
テンキーによる入力と指紋と眼球のチェック、パスが無い限り入る事は不可能とされる
地下の奥深く、棟子は持たされたパスカードとテンキーのパスワードを持っていた
因みにカードの使用は一度のみ、パスワードも入力後は削除が可能な為
再度入る事は不可能に近い状態になっている
「あんまり気は進まないし、研究も出来ないからストレス溜まるなぁ・・・」
「・・・そうか、なら、俺に着いて来て貰おうか?」
「え・・・」
「ひゃっはっはっはぁ!」
ボカンッ!
振り落とされた拳によって貫かれるコンクリートの道路
それを後方にステップを踏む事で避ける乱太
しかし、究極念動の攻撃は嵐のように降り注がれる
近くにあった角材を遠隔操作で操り、槍のように上空から降る
「何でもありかよ!」
「泣き言を言う位なら死にやがれ!」
「簡単に死ねるか馬鹿野郎!」
カノンの装備であるカノンブラスターを角材に向けて発射
超高温の電熱で解かされた角材は、ボトボトと落ちていく
「やるな・・・その武器を開発したのが、あいつの言ってた女か」
「棟子は無事なんだろうな!」
「知らねぇよ。あとの事はアイツの好きにしてある、俺はテメェを殺すだけだ」
「だったら、もっと本気でやれよ。さっきから攻撃を躊躇してるようにも見えるぜ!?」
「・・・あぁ?お前さ、自分の立場解ってるのか、どちらかっていうとお前死にそうなんだぜ?」
それをよ、と
先程砕いた道路の破片を蹴り飛ばし、乱太の顔目掛けて念動を掛ける
「っ!?」
超高速で放たれた破片を避けるが、一瞬だが究極念動が視界から外れてしまう
一瞬とは言ったが、究極念動にとっては、乱太の一瞬は余りにも遅かった
「・・・おせぇ!」
地面を蹴って高速移動、瞬時に懐に入り、両手を前に突き出して首を狙う
究極念動の攻撃は一撃必殺、まともに入れば生き残る可能性は無い
それでも、乱太だけは違った
「ふん!」
ガシッ!
突き出した両手の手首を片方ずつ掴み、そのまま握りつぶすように力を入れる
「っ!がああああああああああああ!!!」
「へ、これでも体力だけは自信あんだよ」
手に能力無効の篭手が付けられ、今まで不良相手に喧嘩ばかりしていた乱太には
究極念動の動きは逆に迂闊でしかなかった
「ぐあああああああ!!!・・・てめぇ、どんな馬鹿力してやがる」
「逆だな、確かに俺の握力は100を超えるが、それ以前にだ・・・」
腕を下方向に曲げるように更に力を入れる
「ぎゃあああああああ!!!」
「・・・お前、能力使ってばっかだからか、貧弱すぎるぜ」
誰もが見つける事の出来ない究極念動の弱点
それは、圧倒的なまでの虚弱
能力者として無敵という反面、人生に置いて動くという動作をまともにしなかった結果
究極念動は、唯一の弱点を持つ事になった
大抵の場合は、それに気づく前に、能力を駆使されるが
乱太のズバ抜けた身体能力、何より、棟子の開発が、
無敵と呼ばれる男の唯一の弱点を突き止めたのだ
「そう考えるとよ、天災生第一位も落ち目だな」
「・・・てめぇ・・・あんま調子に・・・がああああ!!!」
「おっとわりぃわりぃ、俺頭悪いからさ、つい力が入っちまう」
逆に、無能生である乱太は、能力が無いという
学都に置いて最大のハンディーを背負っている
それ故に、風紀委員として活動する乱太は
無能というハンデを補う何かが必要となった
「俺さ、昔っから勉強するより体鍛える方が性に合っててな。つまりだ、俺はお前の天敵って訳だ」
「この脳味噌筋肉馬鹿が・・・がああああ!!!」
「馬鹿はてめぇだ。いい加減その減らず口直さねぇと、負いたくも無い怪我負う事になるぜ!」
更に力を入れると、次第にミシミシと骨が軋む音すら聞こえてきた
その時であった・・・
プルルルルル
ズボンのポケットにしまっておいた携帯が突然鳴り出した
究極念動の両腕から手を離し、携帯を取り出して通話する
「棟子か・・・」
「・・・てめぇ、何故生きている」
「・・・誰だ!まさか、お前が棟子を!」
「そのまさかだよ、だが、恐らく近くに居る無敵の能力様はお前を仕留めそこなったらしいな」
近くに居てその会話を耳に入れた究極念動は、激しく歯を擦り合わせて歯軋りをする
「まあいい、所詮そいつも人間だ。頼るモン失くせばただの役立たずだ。新村乱太、条件を出そう」
「・・・なに?」
「今、俺の手に握られたナイフ、これは誰に向けられているでしょう?」
不気味に笑いを漏らしながら喋る男の声に、乱太は頭に血が上り事態を察知する
「棟子が居るんだな!?今どこにいやがる!」
「まあ落ち着け、こいつのPCからデータを取ろうと思ったが、パスワードが仕掛けてあってな。本人から聞きたくても教えてくれなくてな・・・そこでだ」
男は、棟子と乱太にとって最悪の条件を出す
「君は指定された場所に行って彼女の開発した研究内容を私に渡せ。変な気を起こすなよ、少しでも変な動きを見せれば私はこの女を殺す。研究に触れられないのはショックだが、私にとっては何のデメリットも無いからね」
「・・・な」
絶句・・・
この男の言う事は、棟子の開発した武器を明け渡さなければ、棟子を殺す
これほど単純に恐怖を覚える言葉は無かった
「ああそれと、助けなんて期待しない方がいい。そこに居る天災生ほどではないが、私もそれなりに経験を積んでいてね。一般の公務員なんぞは相手にならんからな」
ブツッ・・・ツーツーツー
「・・・どうする」
携帯の通話を切られ、メールに指定された場所が書いてあった
「(研究内容・・・ブレイズカノンを手渡せって事か)」
何日か前の事だった
俺はいつものように科学研究室に呼ばれていた
呼び出したのは勿論こいつ、俺の中での疫病神様
「・・・乱太くん、今凄く失礼なポジションに私を置いてなかった?」
PCを操作しながらも、顔だけこちらに向けて喋りかける棟子
こいつ・・・勘も鋭いのか
半ば呆れながらも俺は、呼び出した用件について問う
「なあ、俺も別に暇な訳じゃねぇんだけど・・・」
「すぐ済む話だよ。でも、結構重要な話だからしっかり聞いてね」
操作を一旦中止し、座っている椅子を回転させてこちらに体を向ける棟子
目を見て真面目な雰囲気が出ていたので、一応それに答えるように顔を見る
「・・・あんまり見つめられると恥ずかしいんだけど」
「茶化すなよ。お前が真剣だからこっちも真面目に聞いてるのに」
「えっとね、乱太くんが使ってるブレイズカノンと転送装置。あれは出来れば肌身離さず持っていて欲しいんだ」
「何か理由でもあるのか?」
「そうだね、第一に使用者は現在は乱太君これ重要。そこから、この装置は一度使用者を決めた場合、外す時は使用者の任意が必要なの。私も一応着けたんだけど、乱太君に預けるために一旦使用権を破棄、再び乱太くんに移し替えたの」
「・・・それがどうしたってんだよ」
「例えば、これ欲しさに君を襲う輩がいる。言い方は悪いけどその輩に乱太くんが装備を奪われる。問題はここから、任意で外す事しか出来ない装備に唯一可能な手と言えば?」
「・・・使用者の喪失か」
「そう。使用者がいなければ、枠は空白となって自然と外れる。そうすれば、早い話それを最初に触れた者に使用権が移る。私はその装備にそうプログラムしたの」
「だったら、もし俺が死んだ時の為に転送を・・・」
「自動転送は一応付けてあるけど、使用者が死に至る状況に、果たして正確に起動するか・・・」
「どういう・・・」
「縁起の悪い話、ズタボロにされた君だとする。装備自体が通常稼動している可能性は極めて低い、そんな状況で、機械が上手く動くかどうか」
「つまり、戦闘で負けたとして、装備が無傷の場合の可能性が低いって事か」
「そうだね、装備だけ無事というのは、君が使用しないか、何らかの形で使用が規制された時だ」
「それもそうだな・・・」
「それともう一つ、これには学習機能が付いているの。理由は単純、あらゆる戦闘を繰り返して、必要なデータを手に入れる為だよ」
「そんなシステムが・・・」
「このシステムは諸刃の剣でもあってね、膨大な情報こそ最強の武器であると同時に・・・それは、史上最悪の殺戮兵器の誕生とも言えるんだ」
「・・・なんだって」
「今は君みたいな人が使っているからいいけど、愚かの考えの下で動く人間がこれを利用すれば・・・確実に戦争が起きるだろうね」
乱太の脳裏に甦る記憶、少し考え込んでいたせいか
攻撃を仕掛けてくる者に反応出来ずにいた
「てめぇ!さっきはよくもやってくれたな・・・あぁん!?」
距離を取り肉弾戦を避ける為、究極念動は遠距離からの戦いに変更する
「今はお前と遊んでいる暇は無い!」
「・・・ふっざけんなああああああ!!!」
次の瞬間、究極念動の立っていた周りの地面が沈み、それを中心とした念動力の台風が
周辺の建物や車などをまとめて粉砕する
「いい加減にしろよコラ、お前目の前に誰が居るか分かってんのかよぉ・・・おぅ?」
念動力で道路の破片と車を宙に浮かせ、標的目掛けて狙いを定めると・・・
「・・・くたばれ」
大きなコンクリートの破片とボロボロになった廃車が、乱太を襲う
「っ!畜生!」
カノンブラスターを使った為、右手にカノン専用の高火力ライフル『ヴェスバーガン』
左手にブレイズスラッシャーを構えて、飛んでくる攻撃に対し
切り裂きながら撃ち落していく、だが・・・
「数が多すぎる!」
やがて、相手の手数に圧倒され
ライフルのエネルギーが切れ、射撃での対応が出来なくなる
ブレイズスラッシャーは低燃費での長時間運用を主としている為
エネルギーが切れる事は無いが、距離を取られ接近戦も出来ない状態で
更に言えば、未だに続く念動力の投擲攻撃には歯が立たない
「オラオラァ!この俺様を舐めて掛かったんだ・・・それ相応の対応して貰うぜぇ!」
刹那、前から降り注がれる攻撃
無情にも、それは前からだけでなく、全方向から襲ってきた
究極念動の念動力によって巻き起こした嵐は、乱太の体を地面から引き剥がし
風は念動力の鎌となって、乱太の体を切り刻む
「っ!・・・ぐあああああああ!!!」
第七話 完