第弐話 協力者(なかま)
学都の学生は能力値、学力によって階級を決める
下等生
能力がロクに使えず、普通生より下として見られる存在
能力値は1、使える特殊能力は極少ない物となる
普通生
能力値は2、下等生より能力に優れるが
それでも実用段階には至らないレベル
上等生
能力値は3、基本的に上等生は高等部の人間でも一部の人間にしかなれない
上等生以降には生徒会に所属する権利が与えられる
優等生
能力値は4、学力・能力値共に上等生を遥かに上回る存在
将来有望とされ、区内での卒業生には賞が授与される
ここで重要になるのが三つの階級
一つに劣悪生
これはどの階級にでも可能性がある階級
成績・態度、およそ学生として相応しくない者にこの階級が与えられる
劣悪生には特殊な拘束用首輪を登校時の装着を義務付けられる
もう一つに天災生
別名『神の子』
能力値は5、その高すぎるスペックから人々は彼等を恐れ畏怖する
共に、彼等は学都の未来を担う次世代の救世主とも言える存在
現在、八学区全域に存在する天災生は十人とされる
最後に紹介するのは
無能生・・・
能力値は0・・・
開発授業を受け、特殊能力を持つ事を許されなかった者
無能生というのは少数で、現在確認するだけでも生徒千人の中に一人いるかいないかという
そして・・・
新村乱太はその無能生であった・・・
東北校購買部・・・
先日、天災生「灰島焔」との騒動に巻き込まれ
更に科学者である「正宗棟子」に、コスプレまがいの殺人マシーンの実験道具にされ
心身共に疲弊しているところであった
「元気だ~し~な~yっおぶ!」
昼食時
報酬のカレーパンを奢ってもらうため
乱太は棟子と行動を共にしていた
「ら、乱太君?女子の顔を思いっきり掴むというのは如何なものかと・・・」
「鬱陶しいんだよ、飯中くらい静かにさせろや、このマッドサイエンティスト」
心中機嫌の悪い乱太
当然である。昨日、一歩間違えれば自分の命を落とす羽目にあったのだから
「乱太く~ん、男の子が一々細かい事を気にしてたら良い男になれないyへぶ!」
今度は片手を離し、両手で棟子の顔を挟む
「・・・細かいぃ?こっちは殺されかけた上に相手を殺しかけたんだぞ」
乱太は鬼の形相で棟子を睨みつけながら喋る
余りの怖さに目を逸らして話題を変える棟子
「そ、それでさ!今日はちょっと話があってね・・・」
「訳分かんない実験ならもう嫌だぞ」
「違うよ、これから君に私の自慢のお友達を紹介したいの」
無い胸を張りながら、棟子はフフンと鼻息を鳴らす
「・・・飯食ったら勉強したいし、また今度な」
「あ~ん、乱太君のいけず~」
「いや、それ流行らないから」
放課後・・・
「結局付き合わされる羽目になっちまった・・・」
乱太は科学研究室にいた
不機嫌そうに右肘を腿に置きながらソファに座って
「で?人の下校途中に、背後からスタンガンか何かで気絶までさせといて、伝えたい用件っていうのは?」
乱太の言葉にPCのキーボードを打っている棟子は振り返りながら答える
「もう刺々しいな、別に嫌われたくてやってる訳じゃないのに」
「気絶までさせてよく言うよ」
不機嫌に文句を言う乱太に
背後からドアが開かれる音がした
入ってきたのは四人
そこには、見慣れた人間が二人
「光圀、兵賀?」
「やあ、話は聞いてるよ」
「おいっす、作業はどうだ部長さん」
爽やかな見た目の金髪美少年の光圀康介
彼は成績・能力値共に優秀な優秀生
東北校では副生徒会長を務めている
もう片方、尖った髪の短髪で
長身の光圀より更に体の大きい男
名は浦島兵賀
彼も能力値は優秀生
生徒会所属の会計
体力面でも生徒会で一目置かれる男
「この方が、あれを使いこなしたというのですか?」
腕を組みながら勝気な雰囲気を漂わせる女性
彼女は「霧生遥」
光圀、兵賀と同じく二年生の彼女
能力も優秀生
東北高校では、女性の中での総合成績二位という実力を持つ
緑色の髪が特徴であり、彼女に心酔する男子生徒もいるという
そして・・・
「新村二年生、彼女に実験を薦めたのは私です」
凜とした声で静かに喋る女性
幾ら時事問題や人間関係に疎い乱太でもこの人物はすぐ解った
「あんた、もしかして生徒会長の漆粟か?」
漆粟・・・
漆粟緋奈
天災生第五位、東北高校三年生、同時に生徒会長
学都での生徒会長という立ち位置
それは即ち、区内において最強の存在という事である
「で、生徒会総動員でこんな所に来た理由はなんだ?」
「君の件で来てるんだよ」
「へ~・・・俺ぇ!?」
何の気なしに言った言葉からの真実に驚きを隠せない乱太
「何で俺が、校内最強軍団に目を付けられる様な事になってるんだよ!」
仰天し混乱する乱太に兵賀が「落ち着け」と声を掛ける
「別にお前に否があって目を付けてる訳じゃない、むしろ逆だ」
「・・・どういう事だよ兵賀」
「つまりだね」と光圀が説明混じりに事情を話す
「僕達『生徒会』というのは、本来小さな事件や少数のモメ事に対して介入を禁じられている。でもね、ここからが重要で、最近能力を使った傷害事件やその他にも色々あるんだよ、そして、第五学区でもその事件は起きた」
光圀の説明に多少理解が出来た乱太は話を切り出して答える
「成る程、つまり、生徒会のお前等は基本的に事件に対して行動が出来ない。だから、風紀委員である俺がこいつ・・・棟子の力を借りて解決させようと、そういう感じか?」
乱太の答えに兵賀は頷いて喋りだす
「大体そういう感じだな、派手に出られないんじゃ、治安維持が目的のお前が適任だ」
「でもよ、どうして俺なんだ、別に区内の風紀委員で使えそうなのは一杯いるだろう。」
「そこは彼女の選択です。彼女が君を見て決めたそうで、別に私達が貴方のような無能生を選んだ訳ではありません」
乱太の疑問に答えたのは、初対面でありながらツンケンする生徒会書記の霧生であった
挨拶の時もそうであったが、彼女は乱太に対して少しばかり嫌悪している様子が見られる
「(俺なんか悪い事したっけ・・・)」
基本的に女性関係に縁が無かった乱太には、異性の心中を察するというスキルは備えてなかった
しかし、何故彼女は自分に対して嫌悪感を抱いているかというのは、今は些細な問題な訳で・・・
「事件っていうのは一体・・・」
「それは私から説明しましょう」
すると・・・
今まで様子を見ていた生徒会長漆粟が、その口を開いて説明する
「事件内容としては、少数のグループ推測では七、八名、能力を行使した生徒への暴行事件ですね」
「誰がやったっていうのは分からないのか?」
「大体検討は着いてるわ、照山太陽という人物が首謀者です」
「照山・・・そいつって凄いの?」
「能力値は3、上等生だったけど劣悪生に堕落した人でね、能力は自然系の発火制御さ」
光圀が照山の情報について答える
堕落・・・か
その言葉を聞いて中学時代の自分を思い出してしまった
頭を振り当時の思い出を払拭し、現在の問題である事件の事について考える
「発火制御か、昨日あんなの相手してたから何かね・・・」
乱太は喋りながら昨日の少女を思い出していた
「まあ、焔ちゃんに比べれば大した事は無いし大丈夫でしょ」
察したかのように棟子は口を出す
「お前、ああなるって分かってたのか!?」
「彼女の性格は熟知しているからね、焔ちゃんは頭に血が昇ると結構理性抑えられない感じになっちゃうしね。それにしても凄いよね、なんせ国一つ根絶やしに出来る天災生相手に生きてかeおっぶ!」
話の途中で我慢が聞かなくなった乱太は
聞き捨てならんと言わんばかりに胸倉を掴んで持ち上げる
「おんまぇ・・・もしかして俺が死ぬっていう確率も含めてたのか」
額に血管を浮かべながら乱太は確信犯である目の前の少女に問う
「あははは、生きてたんだからオールオッケー」
「こいつ・・・」
どうしてこいつはこうもいい加減なのか・・・
「事前の実験で緋奈さんにテストして貰ったから大丈夫だと思ったんだよ、でも第十位と連絡取れなくなっちゃって、そしたら、乱太君の居た橋の近くに焔ちゃんがいたからイタズラメール装って乱太君にぶつけようという・・・アレ?もしかして怒ってる?」
「・・・当たり前だ!」――――――
その後・・・
棟子にチョップを決めて帰宅した俺は
事件の事について考えていた
因みに、乱太の済んでる場所は学生寮の一人部屋である
六畳部屋の1LDKである
ベッドに寝転びながら、事の顛末を並べてみる
犯人の名前は照山太陽、事件内容は能力による暴行事件、犯行はグループで行われて
推測によると七、八人
つまりだ・・・
「普通にやったら、勝てる訳が無い・・・」
それもそうだろ
能力も無い俺が、不良グループでリーダーが能力者って・・・
幾らなんでも無理だ・・・
「となりゃ・・・またアレを付ける羽目になるのか」
俺は・・・思った
この仕事降りられないかな・・・
――――――――
翌日・・・
いつものように学校に登校した乱太
何も無く授業を受け
二時間目に差し掛かった時間帯で驚愕する
校内呼び出し音が鳴り、呼び出される生徒の名に・・・
「二年A組の新村君~至急科学研究室に来てください~」
その声に覚えがある為
乱太は内心うんざりとしていた・・・
――――――――
「どうした~新しい殺人兵器でも出来たのか~」
「冗談言ってる場合じゃないよ!見て!」
「うん?・・・っ!」
慌てふためく棟子がモニターで見せた物は
先日話したグループが一人の学生を襲っている光景であった
「おい!これ・・・」
「昨日の夜に起こった出来事なの、店の裏で一人の男子学生がカツアゲと暴力を振るわれてた」
「・・・くそ!」
許せない・・・
乱太は拳を握り締め強くそう思った
自分の過去があるからこそ、このような行いは許せなかった
身勝手な思い上がりでも、こういう事は繰り返してはいけない
乱太の頭の中で一つの思いが固まった
「今からこいつらをとっ捕まえて来てやらぁ!」
「駄目だよ!今は学校があるし、そもそも何処にいるかは・・・」
「場所は分かっているし、おびき出す方法も分かってる」
そこに現れたのは・・・
書記である霧生遥であった
「遥ちゃん・・・どういう事?」
「襲われている人間のケース、一人で出歩いている真面目そうな学生ばかり狙われているらしいわ」
「どういう事だよ、何か意味でも・・・」
「恐らく、嫉妬か復讐心、真面目に学校へ通っている者に対する不満でしょうね」
「そんな!身勝手だよ!」
「当然よ、許してはおけない!」
棟子と遥はお互いに事件の犯行を許せない状態にあった
しかし、乱太の反応は少し違った
「・・・きっと、羨ましいんだよ」
「え?」
乱太の言葉に棟子は驚き、遥は激怒する
「何を言っているの!貴方まさか、彼等に同情の念を抱いているとでも言う訳!?」
「そうじゃない!ただ・・・羨ましいんじゃないかって」
乱太は悲哀の表情を浮かべて遥から顔を逸らす
「何にせよ一刻を争うわ、何とかして対抗策を・・・」
「・・・俺に!・・・俺にやらせてくれないか?」
遥の提案に乱太は名乗り出る
遥は驚いていると同時に呆れてもいた
「無能力の貴方に何が出来るというの!」
「・・・ふふ、なんかかっちょいいんんじゃない、乱太君?」
笑いながら視線を向ける棟子に乱太は「うるせえ」と呟く
「いいよ、でも、ブレイズ・カノンは片方装備で行ってね、全装備じゃ扱いに慣れてないと間違って殺す羽目になっちゃうから」
「ちょっと待って!」
遥はブレイズカノンの調整に入る棟子に静止を掛ける
「その男に行かせるの!?私は得策ではないと思うわ!」
「私は彼を信じてるよ、会って間もないけど、彼の目には信じれる何かがある。それに、これ扱えるのはこの学校で乱太君くらいだしね」
「冗談じゃないわ!・・・まあいいわ、その代わりここらでハッキリ言っときますけど、私は貴方のような無能生が大嫌いなの!自分の実力が無いのを運命だとか適当な事を言って誤魔化す輩が許せないの!」
「・・・だから、昨日もあんなに無愛想だったのか」
「会長達がいたから自重しましたけど、白黒はっきりつけましょう!」
遥は指を刺して宣言する
「ここで貴方の真価を見るとしましょう。私が認めるに値しないと感じたら即刻潰します、言っときますけどこれでも私は優等生です。貴方に実力で負ける事はありえません」
「分かった・・・でもこれだけは言っておく、俺が動くのは適任者だからじゃない・・・
これ以上、同じ過ちを繰り返さない!だから、俺は動くんだ!」
第弐話 完