第壱話 試す者と試される者
第五学区公立東北高等学校
科学開発研究部・・・
科学研究室にて
「ふんふん♪・・・」
眼鏡を掛けた低身長の女学生が薬品の箱を運びながら傍に置いてあるモニターを見ていた
そこに映っているのは
街の一部風景・・・
恐らく、盗撮用のカメラで取られている物で
街角等の見えない場所が映されている
「・・・あっ!また揉め事だ~」
そのカメラには、今朝起こっていたカツアゲ騒動も映っている
「いけない子達だな~・・・おっ!」
そこに現れるバンダナ男
「出た~我等がヒーロー!」
颯爽と現れ、不良グループを圧倒するバンダナ男
「ふふん♪やっぱ君しかいないよね・・・私の可愛い実験動物君♪」
「・・・おはようございます」
そして、バンダナ男は授業に遅刻しながら、ドアを開け教室にやってくる
その後、バスに乗り遅れた彼は
走って学校まで辿り着き、現在このような状況にあった
教科は日本史、薄い髪の毛の冴えない眼鏡中年男性がバンダナを見て眼鏡をクイ、と上げる
「・・・新村、また遅刻か」
「すんません、ちょっとあったもんで」
「まあいい、さっさと席に着け」
「はい」
教師に席に座るよう促され、新村というバンダナ男は席に座る
「・・・ふぅ」
席に座ると同時に
「ねぇねぇ」と隣の男子が声を掛ける
「今日も事件? 風紀委員様は苦労が多いね」
「うるせぇよ、イケメン君は黙ってろ」
「はいはい、今日は機嫌が悪そうだ」
「あんまりおちょくらないでくれ光圀」
光圀と呼ばれる男子はハイハイと言いながら黒板に向き直る
昼休み・・・
新村はその後
自分の昼食を買いに行く為に購買へと向かう
昼間になれば結構人が集まるので、授業終わりと同時に教科書等の片づけを済ませ
一目散に購買部に向かって早歩きで歩く
購買部・・・
乱太は昼食を確保する為にここに来ていた
「あーっ!もうカレーパン無くなってやがる!」
辿り着いたのは良かったが
お目当ての「カレーパン」は既に売り切れていた事に、悔しいと言わんばかりにしかめっ面をする
「なんだよ・・・しゃあない、適当に安そうなパンでも買うか」
落胆している新村に
一人の少女らしき声が聞こえる
「ヘイ、そこのイカしたバンダナのお兄さん?」
「・・・うん?」
新村は声のした方向に振り向く
そこには、科学研究室で新村を見ていた低身長の眼鏡女子がいた
「君の探しているパンは・・・これかな?」
眼鏡女子は隠していた右手に持っている物を新村に見せる
そこには・・・
「おおっ!それは紛れも無くカレープァン!」
「ふふふ、この出来立てほやほや配送のカレーパンを食べたければ、私の跡に着いて来たまえ」
「・・・あんた誰?」
乱太の言葉に少女は笑いながら答える
「ふっふっふ、私の名前は二年の正宗棟子、でも、普通自分から名乗るべきじゃないかな?同じく二年の新村乱太君?」
「・・・何が目的なのかを明かして欲しいんだが、俺に付き合う物好きな変人は少ないし」
「私は、その物好きの中でも多分、一番に君に興味を持っている人物さ」
眼鏡を光らせながら棟子は言う
若干・・・というか、かなり怪しい変な少女に乱太は対応に困っていた
「・・・分かったよ、基本的に頼みは断らない方でね」
「そう来なくちゃ・・・着いて来て!」
科学研究室
「こんな所に連れてきて、用件は一体・・・」
「取り合えず腹ごしらえでしょう、ハイ♪」
棟子は乱太にカレーパンを渡す
「おっと、でもさ、なんでここに・・・もしかして実験動物的な何か?」
「ピンポーン!大正解~♪」
ハァ・・・、と
乱太は溜め息をその場で漏らす
「悪いけど他を当たってくれ、俺は残念ながら『無能生』でね・・・」
そう、学都の学生には成績・特殊能力によって階級がある
乱太はその中でも、能力を扱えないという最低階級に属していた
「・・・僕の研究はね、その無能生でも最強にして最高の存在『天災生』を超えるという物なんだ」
・・・えぇぇ
乱太は口が空いたまま閉じなくなっていた
当然である・・・
成績が一番下の人間が
ある朝、校内に置いて一番の成績を取るという事を意味する訳で
『特殊能力』というのは努力と持っている才能・・・潜在能力で力を決めるというのに
つまり何が言いたいかと言うと・・・
「・・・無理だ」
「諦めて夢を掴んだ科学者はいないよ」
「だってさ、この学都の現実は重過ぎる。ドラマみたいな夢物語はここに来たらただのお笑い話さ」
学都では
成績による階級、これが物を言う
下の者は上の者を見上げ
上の者は下の者を見下す
階級の差は人生そのものに既存する物となっていたのである
「俺みたいな駄目人間は、世の中の荒波に揉まれて消えていくっていう運命なのさ」
「ふ~ん、でもさ、君って学科テストじゃ毎回十位以内じゃないか」
「そこまで調べているのか、まあ、ここじゃ学科のテストより能力のテスト。学科のテストで一位より能力のテストで一位取る奴の方が必要とされるのさ」
「確かに、私は学科のテストで一位を取るけど、これと言って凄いと言われた事はないね」
「だろ・・・って、マジで?」
相当凄いだろ・・・それ
「まあ、だったら教えてやろうよ」
「・・・何を?」
「本物の・・・科学の力を」
「・・・はぁ?」
棟子は布で隠している物見せる・・・
それは・・・
「・・・何だコレ、アニメか何かのコスプレか?」
現れたのは、人が着るような機械のスーツ
まるで、漫画にでも出るかのようなゴツゴツとしたそれは
乱太にとって理解不能な物であった
「名付けて!対特殊能力者用戦闘装甲!これを着ける事によって特殊能力の一切を遮断できるの!」
・・・なんというか
アホだ・・・
こいつ絶対アホだ
「変な研究ばっかしてるから頭が疲れてるんだろう、保健室に連れてってやるから乗れ」
乱太は、半ば呆れ気味でおぶる様に腰を屈める
「別におかしくないし疲れてもない!本当なんだって、既に実験も成功してるし・・・」
「仮に出来たとして、この砲台と長い銃はなんだ!、普通の人間に当たったら怪我じゃ済まないだろコレ!」
見るからに恐ろしい見た目の肩の砲台と手持ち用のライフル
乱太はその見た目から、棟子と兵器が恐ろしくて堪らなかった
「あんたは戦争でも起こそうとしているんだな!そうだろ!そうなんだろ!」
「ち~が~う~よ~!私は実験として君に付き合って欲しくて・・・」
「お前がやればいいだろうが!俺は殺人者になりたくない!」
「ねえ頼むから~お願い~」
足にすがり付き泣きながら懇願する棟子
鬱陶しいとは正にこの事であろう、乱太は心底残念な心持ちで言う
「離せ!俺は頭のネジが外れた人間の相手はゴメンだ!」
「た~の~む~よ~、もう君以外に適任者はいないよ~」
「どういう意味だそりゃ!」
「た~の~む~、これが成功すればカレーパン一週間幾らでも奢るから」
その言葉に電撃・・・もとい衝撃が走る
「(な・・・なにぃぃぃぃぃ!!!)」
カレーパン・・・一週間・・・奢り・・・
ゴクリ・・・
お金が無いくせにハングリーな男子高校生にとって
これ程に嬉しい事は無いであろう
乱太はその場に立ち止まる
「・・・いいだろう、但し一回だけだぞ」
「やった~~~!」
PM 6:30
そろそろ日が落ち始め、夜に成り行く時刻
乱太は他学区へと続く歩道用大橋の真ん中に立っていた
「・・・寒い」
気温は12℃
夜になって肌寒くなってくる時間帯である
棟子は乱太にこの場所を指定しこう言った
「時間になったら実験の協力者が来るから、その時になったら腕に付けた時計の転送ボタンをポチってね」
なんというか・・・いい加減である
今まで出会ってきた人間の中でも、自分の才能を殺している人間は見たことが無い
「(こんな事せずに真面目に学校生活送ればいいのに・・・)」
などと、愚痴を含んだ考え事をしていると
予定時刻は7時なのだが、30分前に来るという律儀な少女が現れる
その女性は、紅色の長髪で高そうなコート羽織って不機嫌そうな顔をしていた
身長は普通なのだが、遠目から確認してもかなりの美少女であった
「(あれが実験の協力者?可愛い顔だけど偉い怒ってるぞ)」
そう思っていると、協力者である少女は遠くから口を開く
「あんたが、八学区の中でも十人しかいない『天災生』の中でも、第四位に入る私に喧嘩を売ったって言う馬鹿かしら?」
・・・ハイ?
この少女は何を言っているのであろうか
俺はこの少女に面識は無いし
階級など正直興味など無いのだから、どれだけ階級が高くても知る由は・・・
・・・今なんて?
「全く、今時私に喧嘩を売るなんて、死にたがりの馬鹿でもしないわよ多分」
天災の第四位!?
冗談じゃねぇ!
何でそんな奴が俺の目の前にいるんだよ!
「ねぇ、あんたが私にフザけたメール送ったんでしょ?」
「いや、知らないよ俺そんなの!」
正直ビビッている
相手は天災、しかも第四位
相手をすれば国一つ滅ぼしかねない存在に
不良の相手をするのが限度の俺が敵う筈も無い
「嘘言っても無駄よ、あんたのメルアドだって調べりゃすぐ出てくるの」
メルアド!?
今日はメールをした覚えは無い
ましてや、天災の美少女のメルアドなんて知る訳が無い
もしかして・・・
「それにしても、さっきのちっちゃい眼鏡の子の言う通りね、『そのバンダナならそこの橋で見た』って言うから来てみたけど」
あいつかぁぁぁぁぁぁ!!!
まさか、あいつが俺のメルアドを使って!?
いや、こんな訳分からん物を作り出す奴だ
メールアドレスを知る事など容易であろう
畜生!最悪だ!
「止せ!誤解だ!お前は騙されているんだ!」
「まあ、別にいいけど、丁度ストレスも溜まってたし、あんたストレスの捌け口くらいにゃなりなさいよ、『優等生』さん」
『優等生』だと!?
「俺は無能生だ!優等生なんかじゃねぇ!」
「あ~もう面倒臭いわね~だったら気合で乗り切りなさい!」
「無理を言うな!」
少女は面倒くさそうに指を弾く
すると・・・
ボカァァァン!!!
乱太の周辺が爆発する
「あたしの能力『発火制御』はね?色んな人間がいるけど、何も無しに発火させられるのは私だけ、故に付いた名前が『爆撃戦姫』・・・分かる?」
やべえ・・・本当にやばい!
こいつ、俺を殺す気だ!
「大丈夫大丈夫、直で爆発なんてしないから、ただ爆風で吹き飛んで貰おうかなって」
「どんな威力で爆発させるつもりだよ!」
「う~ん・・・そうね、戦車を木端微塵にするくらいが最低の威力だし」
・・・死んだ
吹き飛んで橋の柵に激突して死ぬか
運が良くて、爆風で吹き飛ばされて海に落ちて水死か
どちらにしたって・・・危なすぎる!
「や、やめてくれ!そんなもん受けたら一溜りも!」
「あ~もう、うっさい」
再度指を鳴らす少女
ドゴォォォオン!!!
豪快に鳴り響く爆発音
乱太はその衝撃に巻き込まれた
天災視点
「・・・あれ、もしかして本当に死んだ?」
・・・まずいな
話では区内でも相当の実力者って聞いたんだけど・・・
「まさか、本当に無能?」
少女は若干青ざめて事の重大さに気づく
「お~い・・・生きてる~?」
やばっ、と少女が思った時・・・
「・・・何すんだよ爆発女」
あっ!生きてた・・・
・・・科学研究室
棟子視点
そこでは、モニター越しに二人の人物を見る少女がいた
「ふふ~ん、ちゃんと転送されたよ~・・・さあ、実験はこれからだ」
乱太・天災 視点
「あんた・・・生きてたの?ってか・・・何それ?」
乱太に装着されていたのは
昼間に棟子に見せてもらった対特殊能力者用戦闘装甲であった
「これ・・・名前なんだっけ?どうやらこいつの御蔭で爆風は防げたらしい」
なんせ傷一つ付いていない
一体なんなんだ、このトンデモアーマーは
俺命名トンデモアーマー、うん、名前忘れたしこれでいいや
「何よそれ、そんな物造るほどの科学者なの?」
少女は不思議そうに言う
「んな訳ないだろ、とあるマッドサイエンティストに騙されて着せられてんの」
あのチビ・・・
今度会ったらお礼と怒りの気持ちを籠めたチョップをお見舞いしてやる
「まあいいわ、それ着けてたらダメージ無いんでしょ?・・・だったら・・・」
少女は両手を擦り合わせ、炎の球体を作る
「火炎放射器の要領で放つ光線・・・アンタに受けられるかしら?」
「・・・もう何でも来いよ、ただし、こっちも全力で抵抗させてもらうぜ」
「望むところよ、『爆撃戦姫』灰島焔、全力でアンタを潰す」
「・・・この砲台使えんのかな」
刹那・・・
「おりゃあああああああ!!!」
焔の火炎の光線が乱太目掛けて発射される
超高速で放たれた光線は、通過する橋を一瞬で溶かしていく
そして・・・
「『対能力者砲発砲!』」
乱太の右肩に装備された大型の大砲
そこから、青と白の混じった超光電熱レーザーが発射される
「(あれ?お互い、当たったら死ぬんじゃないか・・・これ)」
そう考えるも
時は既に遅かった
ぶつかる双方の光線は
相殺・爆発と続き
辺り一帯に爆発の煙を撒き散らす
「けほっけほ・・・あんた中々やるじゃない・・・って、え?」
焔は煙が晴れて目の前を見ると
そこには既に乱太の姿が無かった
「ええ!!!ちょっとぉ!どこいったのよ!」
「何だ今の爆発は!」
「こっちだ!」
集まる外野に戸惑う焔
「嘘・・・私も逃げるか」
焔は辺り一帯に高温の熱波による陽炎を造る
捻じ曲げられた空間により
集まった外野から彼女は脱出した
そして、乱太は・・・
「はぁ・・・はぁ・・・こんなに画期的なのに逃走は走りかよ・・・」
アーマーの重たさを感じながら、日頃鍛えている体力を全力で発揮し
その場を脱出していた
「はぁ・・・なんか今日は溜め息が多いな」
自分に置かれている状況に
乱太は頭を悩ますばかりであった・・・
棟子視点
「ふむふむ、上々上々♪。あの天災、『爆撃戦姫』にあれだけ戦えれば申し分無いね・・・」
一人笑う棟子
そして、背後から近付く二つの影
「どう?彼は使えそう?」
二つの影は、その口角を吊り上げながら笑った・・・
第壱話 完




