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~第44話~

『そろそろ『ルクセール』に到着します。この飛空艇の真下付近の地面に[クロプス]のものと思わしき足跡が見受けられましたので、すでに[クロプス]とルクセール騎士団が防御壁の外で接触している可能性が高いです。そのまま戦闘に入るかもしれないので、準備を怠らないようにして下さい』


 この放送から五分後。

 彩夏を除いた七人が飛空艇≪シエル≫の甲板へと来ていた。

「時間は……十時ジャストか。予定より大分早いな」

 ミリヤが腕時計を見ながら呟く。

 事前の予側では、[クロプス]がルクセールに到着するのは正午だった。

「余程腹が減ってたんだろうな」

 屈伸したり、腕を解したり、と軽い運動をする健吾。その両手にはすでに金属製の手甲装備されている。

(健吾先輩はやっぱり肉弾戦か……レイガーニさんのは凄いな)

 ミリヤが褐色の指に嵌めている武収器から出現させたのは、持ち手が長く、刃が美しい曲線を描いている、≪偃月刀えんげつとう≫と呼ばれるものだった。大きな刃の部分に≪龍≫が描かれている、見るからに匠が鍛えた武器である。

(あれは俺の魔力剣じゃ斬れそうにない。流石だなぁ。……でも、一番驚いたのは……千さんのだ)

 ハルは自分の左隣でボーっとしている千に目を向けた。

 その両手に持つのは二本の刀。しかし、ただの刀ではない。精巧に鍛えられているのはもちろん、驚くべきはその刀身の長さだ。二本とも軽く、普通の刀の≪倍以上≫はある。

(こんな長いの扱えるのか?)

 長い刀には、リーチが広くなる、という利点があるが、それを帳消しにしてしまう、懐に入られたら為す術が無くなる、という最大の弱点がある。しかも、千は両手にその刀を携えている。相手が肉を切らせて骨を断たって懐に入ったら、一巻の終わりだ。

(まぁ、俺が心配しても仕方ないか)

 ハルは千から目線を外し、里奈とサティを見た。

 里奈は健吾と同じ肉弾派だが武器は装備せず、サティも特に武器を用意している様子はない。

(風谷会長はいいとして……ライナ先輩は?)

 里奈と同じように身体一つで敵に向かっていく、とは思えない。

 ハルが首を傾げていると、その視線に気付いたのか、サティがほほ笑みながら近付いてきた。

「天城君も魔力剣を精製しておいたほうがいいわよ」

「あ、はい……ちなみに、ライナ先輩は?」

「私? 私は魔法が主体だから、武器は使わないわ」

「あ、成程」

 言われてみれば、とハルは手を打った。

(確かにライナ先輩は魔法使いっぽいな……知的だし)

 頭がいいから魔法が強力、というわけではないが、名立たる魔法使いは大体頭がとてもいい。何百という魔法とその理論を頭に叩き込んでいるのだから、当たり前と言えばそうである。

「天城君? どうかした?」

「あ、いえ。なんでもないです……俺も、武器用意しますね」

 ハルが目を閉じて意識を集中させると、その右腕から輝くオーラが現れ、瞬時に形を変えて魔力剣になった。

 一つの魔力剣を精製するのに、もう一秒もかからなくなっていた。

(昨日の会長との闘いから、大分調子がよくなったな)

 右手の魔力剣に目を向けながら嬉しそうにほほ笑んでいると、

「凄い」

 と、サティが呟いた。

「この魔力剣だけで……魔法三百……まさか」

 いつもは優しくほほ笑んでいる彼女の顔を、今は驚きだけが全て支配している。

「あの……ライナ先輩?」

「しかも……それでいてこの子はこの余裕……冗談でしょう」

 ブツブツと呟くサティの綺麗な指がハルの頬に添えられた。

「ラ、ライナ先輩!?」

 ハルが身を引くとサティは我に返り、自分の頬に手を添えて苦笑した。

「ご、ごめんなさいね。あまりにも珍しくて」

 つい、と言うサティの視線は、未だにハルの魔力剣に向いている。

(この魔力剣ってそんなに凄いものなのか?)

 ハルが疑問に思っていると、

『『ルクセール』に到着しました。降下しますので気をつけて下さい』

 との放送が流れ、出発時と違ってゆっくりと高度が下がり、雲の中に入る。

 甲板が緊張に包まれ、やがて、シエルはその分厚い雲を抜けた。

「……うわぁ」

 雲の抜けた先、シエルの遥か下を見て思わず声を漏らすハル。

 まず目に飛び込んできたのは、大きな壁に囲まれた都市。

 この都市を囲む壁こそ、緊急時に都市を護るために作動される≪防御壁≫であり、普段は都市の端の地面に収納されている。高さは八十メートル近くあり、半端な攻撃では傷一つつけることが出来ない。

「やはり、もう接触してたか」

 同じように下を見ながら呟く里奈。

 防御壁の外側の荒野では、今まさに[クロプス]と騎士団が激しい闘いを繰り広げている。その怒号や爆発音は甲板にも聞こえきていた。

 騎士団が都市の唯一の入り口を護るように横一列に展開しているのに対し、[クロプス]は荒野を縦横無尽に全て埋めつくしていた。まさに、大群である。

「あの[クロプス]の数、五百なんてもんじゃないぞ」

『今、魔物の数を調べましたが……報告の四倍、およそ『二千』の[クロプス]が押し寄せています』

「二千か……途中でいくつかの群れと合流したな」

『蒼の騎士団に援軍を要請しますか?』

 二千の魔物を相手にするような依頼は、本来東京の≪蒼の騎士団≫が対処する。この依頼は学園生が行うようなものではなくなっていた。

(……燃えてくるじゃないか)

 だが、その状況が里奈の闘争心に火をつけた。

「援軍要請はしなくていい。予定通り、私達だけで依頼を遂行する。ただ、一応報告だけはしておいてくれ」

『わかりました』

 放送が切れるのと同時に、里奈はサティと蓮華に目を向けた。

「シエルの護りはサティに任せる。頼んだぞ」

「了解しました。後ろは気にしないで、存分に暴れてください」

「蓮華はサティの補助。絶対に下に降りるなよ」

「は、はい!」

 力強く頷く蓮華を見てから、里奈は甲板の先頭に立って残りの四人を見渡した。

「お前達には特に言うことはない……適当に暴れろ」

「そんな適当な」

 というハルの言葉と共にシエルは着陸し、

「行くぞ」

 里奈は躊躇することなく、そこから外に跳び下りたのだった。



    *****



 シエルが降り立った場所は、戦闘を行う騎士団と<クロプス>から百メートルほど離れた平地。もちろん、シエルの存在には両者とも気付いている。

 騎士団は援軍の到着に落ち込み気味だった士気が上がり、<クロプス>達はシエルを遠巻きに観察している。

「っと……さて」

 シエルから跳び降りた里奈は戦場に目を向けた。彼女はこれからルクセール騎士団の総隊長の元に向かって、援軍が来た旨を伝えなければいけない。

「まぁ、その前に……一発かましておくか」

 右腕を回転させながら楽しそうに口の端をつり上げる里奈は、

「ふっ」

 一息で凄まじい氣を右腕に溜めた。

 この時の里奈から醸し出されたオーラには、遠く離れた<クロプス>ですら震え上がった。自分達より強い≪捕食者≫がいる、と本能で感じ取ったのだ。

 だが、気付いた時にはすでに遅い。


「[豪・虎砲弾]」


 里奈はその右腕を<クロプス>の大群の横っぱらに向けて、一気に振り抜いた。


 ゴウゥ!!


 と、大地を揺るがす音が響く。

 互いの距離は百メートル以上あった。にも拘らず、≪グループ試験≫でハルに放った[虎砲弾]とは比べ物にならない威力の[豪・虎砲弾]は数瞬で<クロプス>の大群の中腹を抉った。


『グオォーー!?』


 <クロプス>の断末魔すら飲み込み、[豪・虎砲弾]はその行く手のあるものをを破壊し続ける。

 地面を削り、無数の<クロプス>を潰し、壊し、塵にしながらも、威力が衰える様子はない。

 二百メートル近くはあった<クロプス>の大群を大きく分断してようやく、衝撃波は霧散したのだった。

「ふむ……こんなもんか」

 たったの一撃で二百以上の<クロプス>を蹴散らしたとは思えない口調で里奈が呟く。

 一瞬、戦場を静寂が包み込み、


『オ、オオォーーー!!!』


 仲間意識の強い<クロプス>は怒りの雄叫びをあげて、

「っと、あいつら、こっちに狙いを定めたか」

 大群の半分が進行方向をルクセールからシエルへと変えた。

「イキナリやり過ぎだ、里奈」

「健吾、ここはお前達に任せる。私は騎士団の隊長の所に行かなければいけないからな」

「あ、ちょっと待て! ……ったく、あいつ自分だけやりたい放題やりやがって」

 振り返りもせずに走り去る里奈のマイペースぶりに、健吾は呆れ気味にため息をついた。

「あの……健吾さん」

「ん? 何だ、天城?」

「これ、風谷会長一人でも楽にやれる依頼なんじゃ?」

 シエルから跳び降りている最中に里奈の[豪・虎砲弾]の威力を見たハルは心の底から思った。

(俺達、必要ないだろう)

 と。

「いや、あれを使うのにかなり体力いるみたいで、乱発出来ないらしい」

「元気いっぱいに見えましたけど……」

 颯爽とこの場を去った里奈の姿を思い返すハル。

 健吾も苦笑気味に口を開く。

「それはそうだが……まぁ、俺達もいい経験になるし。っと、奴らが来たぞ。里奈は簡単にぶっ飛ばしたが、奴ら数が多いから油断するなよ」

「は、はい」

 はぐらかされた、と思ったルだったが、迫りくる<クロプス>を見て雑念を振り払い、

(確かに……いい経験にはなりそうだな)

 魔力剣を構えた。


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