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~第33話~

「ふぅ……暇だな」

 そう呟くのは、生徒会長の風谷里奈。彼女はこの、荒廃した、とまでは言えない街に転移してから少しも動いてなかった。理由は色々あるが、主な理由は≪面倒くさい≫から、だ。

「早く天城来ないかな」

 そんな里奈が、今回のイベントで唯一の楽しみにしているのが、ハルとの闘いだった。それ以外はすべて暇潰し。ただの余興である。

「こいつらじゃ暇潰しにもならないし」

 そう言って、自分の周囲に目を向ける里奈。その周りには、彼女に挑んだ数十人の一・二年が気絶していた。彼らが一気に襲いかかっても、彼女の退屈を紛らわすことは出来なかった。

「時間切れになっちまうぞー」

 ふと、里奈はその時のことを考えてみた。

 時間切れになって、ハルが里奈と闘わずにこのイベントが終わった場合、ハルはこの生徒会にも、玲奈のグループにもいられなくなる。

 本当にそれでいいのか、ということを彼女は考えてみたのだ。

(……考えるまでもないな)

 答えは一瞬で出た。

 そんな奴は生徒会にいらない、が彼女の答えだ。

(この程度の学生を相手にして、時間切れで私と闘えなくなる奴なんて、全然いらない)

 彼女の辞書に、妥協、という言葉はない。自分が命令したことが出来ない者は、全く相手にしない。無遠慮、なのだ。

 ただ、その無遠慮な分と同じくらい、彼女は優しい。その者が全力を振りしぼって成功する命令しか、絶対に出さない。

 このイベントで自分とハルは闘う、と彼女は確信している。ハルが全力を出せば、その程度のことは可能だから。

(まぁ、ゆっくり待つとするか)

 そう思った里奈が、持参した≪携帯ゲーム機≫を取り出した所で、

「ん?」

 今までの若々しい気配とは違う、禍々しい気配が近付いていることに気付いた。

「……なんだ、あいつらか」

 百メートルほど離れた場所に立っている四人の≪三年生≫の男達を見つけ、里奈はため息をついてその場から≪超速≫で離れた。

 直後、


 ズガァン!!


 と、一瞬前まで里奈がいた場所の地面に、二人の男が拳を叩きつけた。地面に大きなクレーターが出来る威力で、だ。

 その拳を振るった二人の男は、つい先程里奈が見た四人の内の二人だった。男達は、百メートル離れた場所からここまで、数瞬で移動したのだ。

「遅い、遅い。そんなんじゃハエが止まるぞ」

 だが、里奈はそんな二人の速さを超す速さで、移動していた。

「まず、氣の使い方がなってない。お前達、三年間何を学んでたんだ?」

 そんな事を、携帯ゲーム機の画面を見ながら言う里奈。焦りなどは一切見られない。

「てめぇ」

 もちろん、男二人が怒らないわけがなかったが、

「まて」

 と、スキンヘッドのリーダーと思われる男に言われ、今にも里奈に跳びかかりそうだった身体をなんとか制止させた。

「おい」

 そのスキンヘッドの男が今もゲーム機に熱中している里奈にかける。

「っくそ! こいつ中々強い! あっ! あ~」

 だが、里奈はゲームに夢中で気付いていない。いや、気付いているが、あえて無視している。そっちの方が、面白い展開になりそうだから。

「この、クソアマ!」

 男が強烈な蹴りを里奈の顔面に放つ。

 だが、

「っ!?」

 何をどうやったのか、里奈はその脚に乗ってしまった。

「あ~あ、負けた」

 しかも、ゲームをやりながら。

「っ!」

 いい加減堪忍袋の緒が切れた男が脚を横に振る。

「パーティー編成が悪かったか?」

 その前に男の脚から降りていた里奈は、男達から数メートル離れた位置でゲーム機をいじっていた。そして、誰にともなく言う。

「それにしても、ここのボス強いなぁ……どっかのクソ雑魚四人組と違って」

『っ!!』

 その言葉が思いのほか男達の神経を逆なでしたのか、男達の怒りがもう限界まで達していたからどんな言葉でもキレていたのか、どちらかわからないが、とにかくその言葉が引き金になり、四人の男は一斉に里奈を襲った。



    *****



 五月と距離を保ちながら、ハルは考える。

(どうすれば、この人を倒せるか)

 いくら、キレた、と言っても、それはリミッターを外しただけで、怒り狂ったり、何の考えも無しに突っ込んだりはしない。

 なので、根本的な目的を忘れたりはしていない。

(俺の最終目標は生徒会長と闘って勝つこと。そのためには)

 五月のような実力者は速攻で倒さなければいけない。

(……難しいな)

 そう思うが、腹の傷も気になるので長期戦はなるべくしたくなかった。

(少しでも時間を作れれば……魔力の応用でなんとかなる……多分)

 頼りない考え方だったが、一応の指針は決まった。

 五月もそれを悟ったのだろう、刀を構え直した。

「仕切り直しだな」

「そうですね」

 直後、二人は同時に前に走りだした。

 一瞬毎に距離が狭まる。

(まず、懐に潜り込む)

 素手が刀と闘う上で、もっとも有効な手段だろう。その分だけ、危険は付きまとうが。

(そのためには……一撃目を確実に避ける)

 ハルは五月の右手、つまり、刀の動きに神経を集中させた。今ならば、五月がどのように刀を動かしたとしても、反応出来るだろう。

(来い!)

 ハルは身構えた。

 だが、二人の距離がいくら縮まろうと、五月の右手が動く気配はない。

(? 何で)

 と、ハルが思った瞬間、五月の手が動いた。

 右手ではなく、左手が。

 そして、左手には鞘が握られていた。今までは、左手の薬指に嵌めた≪武収器≫に収めていたのだろうが、もう一度出現させたのだ。

「っ!?」

 その、右の側頭部目掛けて振られた鞘を、頭を下げて避けるハル。その際、注視していた右手の刀から目を離してしまった。

「鞘は、刀をしまうだけの道具じゃない」

 その隙を逃さずに、五月は右手の刀を一気に振り降ろした。刀は、ハルの左首、丁度頸動脈がある辺りに振られた。

 殺す気はないだろうが、致命傷になるのは確実な一撃だ。

(っ! 行ける!)

 そんな窮地にも関わらず、ハルは意外にも冷静に動いた。

 ハルが曲芸師のように、身体全体を一息に右に捻りながら跳ぶと、

「なっ!?」

 背中スレスレに、だが、少しも掠ることなく、五月の刀を避けることが出来たのだ。

「ふっ!」

 そのまま、逆上がりのような体勢で、空中から五月の顔面に左脚の蹴りを放つ。

「くっ!」

 五月はその蹴りを顔をずらして避けるが、

「っ、しょ!」

「!?」

 ハルは五月の後頭部に左の足首を引っ掛け、全身に力を入れて手前に引いた。

 結果、五月は前方に引き倒さされ、ハルはその背後に入れ替わるように移動した。

「この!」

(こいつ、重力ってものを受けていないのか!)

 五月がそう思っても仕方ないくらい、ハルの動きは常人離れしていた。

「はぁ!」

 左手を地面について倒れ込むのを防いだ五月は、間髪いれずに背後に刀を振った。

 だが、ハルを一瞬でも見失ったのが痛く、すぐさま攻撃に転じたのもマイナスになった。

「っ!?」

 その五月の一撃を簡単に避けたハルは、体勢を低くしたて五月の懐に潜り込み、

「だらぁ!!」

 氣を溜めに溜めた右拳を、五月の腹目掛けて放った。

「ぐ!! っ!?」

 その一撃が腹に当たる直前、五月は左手で何とかその拳を防いだが、脚まで氣を回すことが出来なかったので踏ん張りがきかず、後方に大きく吹き飛ばされた。

「ふぅ……」

 五月が遥か先まで飛ばされたのを見届けることはせず、ハルは魔力剣を精製し始めた。

 逃げる、という選択肢も浮かんだが、まだ逃げ切れるほどのダメージを五月に与えたとは思えなかった。

(背中を見せるのは危険すぎる……)

「……よし、出来た」

 数秒後、ハルの右手には一本の魔力剣が握られていた。それには申し分ない魔力が圧縮されている。

「さて、っ!」

 ハルは息つく間もなく、反射的に魔力剣を横に振った。

 直後、五月の刀とハルの魔力剣が交錯した。

「左手はこの闘いの間、使いものになりそうにない……だが、それでいい。そっちの方が、燃える!」

「っ……ったく……あなたも俺と負けず劣らずの、馬鹿、ですね」

 二人はそう言葉を交わし、ほほ笑んだのだった。


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