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~第32話~

「す、すご~い! 天城君、一気に先輩を二人も倒しちゃった!」

「た、確かにすげぇ。強い、強いとは聞いてたが、ここまでとは」

 絵梨とアベルが興奮気味に騒ぐ中、蓮華はホッと息を吐いていた。

(天城さん……)

 だが、蓮華の不安はまだ拭いきれていない。

「でも、何で天城君無事だったのかな? 私、てっきりあの魔法銃でやられちゃったと思ったんだけど……」

「さぁ。俺も見えなかったし」

「使えないわね。天城君を見習いなさいよ」

「う、うるせぇ! 俺はこんなナリだけど、闘いはからっきしなんだよ!」

「何偉そうに言ってるのよ……」

 絵梨はアベルをジト目で睨み、蓮華に目を向けた。

「蓮華はわかった?」

「え、う、ううん。私も全然見えなかったから」

「そっか。うぅ、気になる~」

 と、絵梨が唸っていると、

「あの距離からの弾丸なら、あいつは簡単に弾くことが出来るんだよ」

 三人の背後からそう声がかかった。

「え、あ。健吾さん」

 声をかけたのは蓮華の兄の健吾だった。

「久しぶり、絵梨ちゃん。あと……」

「あ、二人と同じクラスのアベル・エンレンスです」

「楠木健吾だ。いつも妹がお世話になってる」

「い、いえ」

 先輩に頭を下げられて、アベルも慌てて頭を下げた。

「それで、健吾さん。弾くことが出来るって?」

 三人の後ろに座った健吾に、絵梨が興奮を抑えきれない様子で尋ねる。そのせいか、両獣耳がピコピコと忙しなく動いている。

「あの二年と天城の距離はだいたい五十メートルって所だ。その距離だったら、発砲音と弾丸の到着まで数瞬だけタイムラグがある。その間に弾丸に反応して、急所に当たる前に腕で弾くことが出来るんだ」

「腕で、って……それ、大丈夫なんですか」

「魔法銃は威力が小さいから、腕を軽く振るうだけで殆ど無傷で済むんだ」

 だが、これは健吾の視点であり、誰でも出来るわけではない。もし、同じような状況に陥って、ハルのように防ぐことの出来る一・二年は恐らく両手で数えるくらいしかいない。

「……お兄ちゃん」

 と、今まで黙っていた蓮華が健吾の声をかけた。

「どうした、蓮華? 何をそんなに心配してんだ?」

 健吾も先程から蓮華の様子がおかしいことに気付いていたが、何が原因かは正確にはわからない。わかるのは天城について、ということだけである。

「里奈さん、大丈夫かな」

 だが、蓮華の口から出たのは、意外にも里奈の名前だった。

「いや、里奈なら大丈夫だろ。あいつに勝てる奴なんて、この学園に」

「違うよ……三日前の里奈さんのあの笑い方……」

「っ……気付いてたのか?」

「うん……里奈さんがあの笑い方をすると……」

 蓮華は青い顔でうな垂れた。

「大丈夫だ。あいつは滅多なことがない限り人に対して『暴走』しない。それは、お前が一番わかってるだろ?」

「……うん」

 だが、健吾に諭されても蓮華の顔色は変わらなかった。

「あ、あの? 何がなんだかわからないんですけど」

 二人のシリアスな会話に、絵梨がおずおずと口を出す。

「いや。こっちの話だよ」

 そんな絵梨に、健吾は微妙に憂いの残った顔でほほ笑みかけた。

「はあ……ところで、蓮華。五月さんは? 最初、お花摘みにいってるのかと思ったけど、来ないし……道に迷ってるのかな?」

「え、私も知らないよ。てっきり、絵梨ちゃんの言ってた通りなのかと……」

「「?」」

 二人して首を傾げると、アベルが横から何の気なしに口を開いた。

「何だ、お前達知らないのか? って、そう言えば、あいつ今日ギリギリで申請したから、知らないのも無理ないか。冬樹なら……ほら」

 アベルが指差した先は、闘技場に表示されている巨大モニターだった。



    *****



「……で、何であなたがいるんですか」

 狙撃手の二年を倒した場所から慎重に歩を進めたハルは、微妙に朽ちた大通りで出くわした人物を見て、額に青筋を立てている。

 その人物は長い髪をポニーテールし、片手に一振りの刀を携えた、ハルが最近殆ど毎日顔を合わせている少女、


「冬樹さん!」


 クラスメイトの冬樹五月だった。

「私がここにいてはいけない理由はないだろう?」

 五月はハルの反応を面白がり、ニヤニヤ、と悪戯っぽく笑っている。

「それは! ……そうですけど……でも、冬樹さん生徒会とかに興味」

「全くないな」

 ハルは思わずずっこけそうになった。

「あ、あのですね」

 頭に手を当て、このイベントがいかに自分にとって重要か、ということを話そうとするハル。だが、五月が刀を鞘から抜き始めると、その表情が一気に厳しいものに変わった。

「……やるんですか?」

「ああ。神埼先生のグループや生徒会グループには正直興味ないが……前にお前と闘った時の決着がついてなかったし、あの闘いを見ていた私の『師匠』が大変ご立腹してな」

 五月が刀を抜きとると、数秒前までの微笑ましい空気が嘘のように、辺りが緊張に包まれた。

「師匠の機嫌をとるためにも、どちらが上か決めておこうと思ったんだ……希代の新入生」

「……はぁ。あなたと闘っている場合ではないんですが」

 そう言うハルは、もう全ての神経を五月に集中させている。彼女の前では、一瞬も油断することは出来ない。五月と初めて闘った時から、今この時まで様々な経験を積んだとしても、だ。

「そんなつれない事を言うな」

 刹那、


 ヒュン!!


 と、ハルの胸部を真っ二つに斬り裂くように、五月が刀を左から右に振った。

「楽しもうじゃないか」 

「こっちは命がけですよ!」

 上体を後ろに逸らして一閃を避けたハルは、右手を地面につけて支点にし、左脚を五月の顔面に放った。

「ふっ」

 その蹴りを、先程の横一閃の勢いを殺さずに右回りに一回転して避けた五月は、そのまま遠心力を加えた回転斬りを、地面についているハルの右脚に向けて振り抜いた。

「っ!?」

 ハルは左手を地面につけてうつ伏せのような状態になり、

「っあぁーー!」

 その両手に溜めた気と力だけで強引に自分の身体を真上に持ちあげた。逆立ちのような格好になって五月の刀をやり過ごしたのだ。


「[水車斬り]」


 だが、五月はそれすら見越していたかのように、もう一回転し始めた。

(マジかよ! ってか、速っ!)

 合計三回転分の遠心力が合わさった刀の速さと威力は、今までとは比較にならない。空気すらその刀には追い付けず、五月の刀に奇妙な空気の唸り声が追従している。その姿はまるで台風のようであった。

(くっそ!)

 両腕に更に気を溜め、逆立ちから前転してその攻撃を躱そうとするハル。だが、元々無理があった体勢のため、

「ぐっ!」

 避けきれずに腹を斬られてしまい、さらに、

「はぁーー!」

「っ!?」

 [水車斬り]が引き起こした衝撃波のような突風に吹き飛ばされてしまった。

「くっ、そ!」

 二十メートルほど瓦礫とともに飛ばされ、なんとか着地するハル。その腹からは血が流れている。

「まだ、致命傷とまではいかないか」

 ハルとの距離を全速で詰めながら呟き、立て膝をついているハルに刀を振るう五月。

「くっ!」

 腹の痛みに耐えながら、ハルはその刀を避けた。

 だが、

「甘い!」

「っ!?」

 もう一段階スピードを上げた五月に懐に入られ、柄頭でわき腹を打たれた。

「かっ!」

 ハルが口から唾と血の混じった液体を吐き出す。

(くそ! ……あーもー! めんどくさい!)

 その一撃でハルの中の何かがキレた。

「はぁ!」

 よろけたハルに容赦のない一閃を放つ五月。

 それに対してハルは、

「っ、ふっ!」

 今までの動きが嘘のような素早さで刀を避け、五月に蹴りを打ちこんだ。

「!? ぐっ!」

 五月はその蹴りをモロに腹に受け、その場から後ろに跳んだ。

「くっ……全く……やはりお前には油断できないな」

 腹をさすりながら苦笑する五月。

 ハルも腹の傷跡に手を当てながら口を開く。その表情は笑顔だが、何とも言えない迫力があった。

「もう、遠慮しません」

 キレた、のだろう。

「あなたに対して、力を温存させよう、と思っていたのが馬鹿でしたよ」

(この人になら使っても怒りませんよね、神埼先生)

 ハルは魔力の応用を使うことを決めた。

 だが、この時のハルはまだ玲奈の言っていた≪覚悟≫の意味を知らなかった。


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