表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/57

~第29話~

 生徒会室で会長の里奈と相対しているハルは目を丸くしたまま動かない。

(俺が……この生徒会長と闘う?)

 先程の里奈の言葉を心中で反復するハル。

 対する里奈は顎に手を添えて、ふむ、と呟く。

「正確には、私・お前・その他の生徒達の三つ巴か。まぁ、どっちにしろ最後はお前と私の闘いになりそうだがな」

「え……い、いや。何言ってるんですか? 何で、俺が生徒会長や他の人達と闘うんですか?」

「ん? ん~……私が説明するのも面倒くさいな。サティ、よろしく」

「……はぁ」

 深いため息をつくサティ。いきなり説明を放棄した里奈に呆れたのだろう。彼女の方が後輩のはずだが、そんなことは関係ない、と言わんばかりにジト目で里奈を睨んでいる。

「あ、あの?」

 混乱するハルの目線はサティに向いている。

「……はぁ、仕方ないわね。最初から説明してあげる、天城君。まず、あなた達が闘う理由は二つあるの。まず一つは、さっき会長が言っていた通り、あなたを生徒会に入れるため。もう一つが噂のせいで『生徒会と神埼先生のグループに殺到している学園生を抑制するため』よ。この『イベント』でその生徒達を、一網打尽、と言ったら語弊があるけど、私達のグループに入るのを諦めさせるの」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 ハルは必死に考えを巡らせながらサティの話を遮る。

「そんなことしなくても、普通に断ればいいじゃないですか?」

「それでもいいんだけど……この生徒会と神埼先生は桜楼学園生の憧れの存在でもあるのよ。だから、口で言われても諦めない人が多くてね。だから、『ある条件』をクリアしたらグループに入れる、って形にすれば後腐れなく諦めてくれるでしょ」

 その≪ある条件≫をクリアするために生徒達は努力し、それでもその条件を叶えることが出来なければ諦めもつく。実現不可能な条件でなければ、少なくとも口で、駄目だ、と言われるよりかは希望者も納得がいく。

 もし、誰かがその条件をクリアしたとしても、それだけの実力者が手に入る、ということなので損はしない。

「理屈はわかりますけど……」

「でも、それはただの口実。もちろん、抑制させる意味もあるけど、本当の目的は、学園の施設を使ってあなたと会長に闘って貰うためよ」

「??」

 だが、ここがわからない。

 何故自分と会長が闘わなければいけないのか、とハルが考えていると、里奈が横から口を挟んだ。

「そのイベント……『グループ試験』とでも言っておくか。それの最中に私とお前が闘って、私が勝ったらお前は生徒会に入ってもらう。もちろん、神埼先生のグループを抜けて、な」

「……ちょっと待って下さい。俺が生徒会長と闘って負けたら、生徒会に入るんですか?」

「ああ」

「勝てるわけないじゃないですか!」

 これは、ハルも即答出来る。

 里奈の実力を目にしたわけではないが、この桜楼学園の全生徒の頂点に立っているのだから、強くないわけがない。いくら、ハルがそこそこ成長しているとはいえ、敵うはずがないのだ。

「私もそう思う」

「う……そうキッパリ言われると、逆に、やってやろう、って気になりますね……そもそも、こんな事を神埼先生が許すとは思えないんですけど?」

「そもそも、この条件を出したのは神埼先生だ」

「…………」

(な、何考えてんだよ、あの人……)

 イライラしすぎて俺を痛めつけられるなら何でもいいのでは、とハルは勘ぐってしまう。

「あの人、わざわざ私を指名したからな。しかも、殺す気でやら、とまで言われた」

「……そうですか」

 生気のない声で返事をするハル。仮に、この闘いで自分が生徒会長に勝ったとしても、その先に輝ける未来が待っているとは思えなかった。

「それと、もう一つ……天城に生徒会に入りたいという意思があるか確認しろ、って条件を出された。天城にその気がなかったらこの話はなしだ、とも言われたから、私としてはそれが一番の関門だったな」

 遠回しに、このイベントで自分が負けることはない、と言っている。

 ハルは玲奈の条件について冷静に考えた。

(俺の意思を確認……一応、俺のことを考えてはくれてるのかな?)

 何か裏があるかもしれないが、今はそう思いたかった。

「で、どうする? お前はこの闘いを受けるか? それとも、逃げるか?」

 里奈の軽い挑発。

「…………」

 ハル挑発を右から左へと受け流し、考える。

(どうするか……って、考えるまでもないか)

 相手は桜楼の全生徒の頂点。新入生のハルでは絶対に勝てない。

 だが、

(逃げるわけにはいかない)

 どんな理由があるかわからないが、その殆ど実現不可能な条件を出した玲奈のためにも、何より、自分のプライドのためにも、この闘いを受けない、なんて選択肢は元からなかった。

「やります……受けて立ちますよ、風谷会長」

「だろうな。それじゃ、『表向き』の名目『グループ試験』の説明を軽くしてくれ、彩夏」

「はい」

 今まで黙って話を聞いていた彩夏が、手元の資料を見て口を開く。

「参加者は、一年の天城ハル君、四年の風谷里奈会長、神埼玲奈先生の教員グループ、また、生徒会グループの志望者、合計百人ほど。こちらは学年問いませんが、殆どが一・二年になるでしょう。戦闘方式は特別入学試験と同じ『自由乱闘型』。そして、志望者がグループに入るための条件ですが」

 彩夏は一度言葉を区切り、ハルと里奈に目を向けて話を続けた。

「『両グループの代表者に致命傷を負わせる、または戦闘不能にした者』とします。致命傷の定義はその場で判断しますが、基本は今後の戦闘に大きな支障を与える程度の致命傷と考えて下さい。その他の詳しいルールは、明日全生徒に配られる冊子を確認して下さい」

(もうそんな物まで用意してるのか……俺が逃げないことも織り込み済み、ってことか)

 まんまと乗せられたかな、とハルは苦笑する。だが、後悔はしていない。

「彩夏はこのイベントでは中立だ。こちらは不正しないから安心しろ」

「そんなことは心配してませんよ……一つ質問なんですけど、俺が他の生徒にやられた場合、会長との闘いはどうなるんですか?」

「その場合は無しだ。そもそも、私以外の生徒にやられるような奴、この生徒会にはいらない」

「手厳しいんですね」

「それだけお前に期待してるんだ。他に質問は?」

「……いえ、特に」

「そうか。なら、話は終わりだ。もう帰っていいぞ」

「はい」

 ハルは椅子から立ち、

「蓮華さん、また明日ね」

 右手側に座っている蓮華にそう声をかけた。

「は、はい。また明日です、天城さん」

 蓮華は若干びっくりしながらも、律儀に立ちあがって頭を軽く下げた。

「それでは、失礼します」

 ハルは生徒会室のドアに手をかけて部屋を出ようとしたが、一つだけ聞いていない事に気付いて振り向いた。

「風谷会長、もう一ついいですか?」

「何だ?」

「俺があなたに勝った場合、どうするんですか?」

「…………」

 里奈はハルを訝しげに見る。冗談かと思ったからだ。

 だが、ハルは冗談でもなんでもなく、本当にどうするのか、と尋ねているようだった。

「……神埼先生は何も言っていなかったな」

「そうですか。それじゃ、何もないんでしょうね」

 ハルはあっさりとそんな事を言い、生徒会室を出ようとする。

「待て」

「?」

 里奈がハルの背中に声をかけると、ハルはもう一度振り返った。

「お前、私に勝てると思ってるのか?」

 今度は直接的に、お前では私には勝てない、との意味を込めて里奈は聞いた。

 それに対してハルは苦笑気味に、

「一応ですよ、一応」

 と答え、今度こそ生徒会室を出た。

「……自信があるのか、ないのか……よくわからない子ね」

 いつものメンバーになった生徒会室で、サティが呟く。

(私に勝てるとは思っていないだろうが……それとは全く逆の気持ちもあるのか)

 何をしても勝つ、という気持ちが。

(……そんな覚悟で来られたら……)

 里奈は目を細めて笑った。


(殺してしまうかもしれないじゃないか)

  

「…………」

 その、残酷な、と捉えることも出来る笑みを幾度も見てきた健吾は、心中に一物の不安を抱えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ