~第28話~
今回の物語はいつもより話数が少ないので、少し早く更新出来ました。次回からもこの程度の話数になると思います。
この話はとてもご都合主義な部分がありますが、今回は特に顕著になってしまいました。気をつけてはいますが、読者の皆様の気分が悪くならないことを祈るばかりです。
それでは、本編のほうをお楽しみください。
「もう足は大丈夫なんですか?」
「うん。全然痛くないし、普通に動かせるよ」
「それは良かったです」
蓮華は満面の笑顔を見せて言った。
ハルが≪混沌の森≫で魔物<レイグレス>を倒してから一週間と数日後の午後。
他の生徒がグループ活動している中、蓮華とハルは桜楼学園の生徒会室に向かっていた。目的は、生徒会長の【風谷里奈】と会うため。
「でも、どうして今日なんですか?」
ハルと一緒に学園生活を送ってきた蓮華に、最初の硬さはもうない。だが、それはハルが相手の場合のみで、他の男子生徒の前では殆ど必ず緊張している。
「神埼先生に、今日風谷に会いに行け、って言われて」
そう言って、ハルは少し憂欝になった。
<レイグレス>との死闘から一週間が経った辺り、今日から数えると数日前、とある二つの噂が桜楼学園に流れた。
一つは、≪神埼玲奈が新入生のためにグループを作った≫。もう一つは、≪生徒会が新しい人員を確保しようとしている≫とういうものである。
後者はまだどこにでもある類の噂だが、前者は紛う事なき真実なので、すぐにただの噂ではないと知れ渡った。
(そのせいで神埼先生の機嫌が悪くなったし……はぁ)
心中で深いため息をつくハル。
真相を確かめようとしたのか、玲奈のグループに入ろうと思ったのか、多くの一・二年がこの数日でハル達のグループ活動を見に来た。結局、グループに入りたい、と言った者はいなかったが、そんな日は何日も続いたのだ。
玲奈はそのうるさいい生徒達にイラつき、そんな彼女のストレスのはけ口となったのがハルである。
(あの無言のプレッシャーは……思い出しただけで……)
必要最低限のことしか話さないで指導を行う玲奈は、ただそこにいるだけでハルの寿命を一年ほど縮めていた。
「あ、天城さん? 顔色が凄く悪いですど、大丈夫ですか?」
蓮華に顔を覗きまれたハルは苦笑した。
「ちょっとね……生徒会のほうはどう? 噂で何か変わったことはある?」
「そうですね……お兄ちゃんと里奈さんはとくに何も言ってませんけど、毎日何人かの人達が、生徒会に入りたい、と志願しに来るのは見ました」
新入生の蓮華は、所謂≪新しい人員≫、として生徒会に所属しているが、それはすでに桜楼の生徒ならば誰もが知っている、周知の事実である。なので、それから一週間も経った今に、≪生徒会が新しい人員を確保しようとしている≫、と噂されるのは少しおかしい。
「この噂って……やっぱり俺のことだよね?」
「多分……そうです」
蓮華は悪いと思いながらも頷いた。
≪生徒会が新しい人員を確保しようとしている≫という噂は、実はただの噂ではない。ここにいる天城ハルがその当事者である。ハルのことを気にいった≪らしい≫里奈が、ハルを生徒会に入れようとしている≪らしい≫のだ。
今、蓮華と一緒に生徒会室に向かっているのも、その話をするためである。
「その噂を流した人は、どこで話を聞いたんでしょう?」
ハルが生徒会に誘われている、ということを知っているのは、ハルと生徒会の面々、そして、ハルのクラスメートの冬樹五月とアベル・エンレンス、ぐらいである。
「特に口止めしていたわけではないから、別に漏れてもおかしなことはないんだけど……」
五月とアベルがそんなことを他人に話す可能性は低い、とハルは思っている。一週間以上も同じ教室で学園生活を送っていれば、その程度のことはわかる。
「生徒会の皆さんもそんなことをするはずがありませんし……」
「まぁ、人の口に戸は立てられないし……誰かがうっかり喋っちゃったのかもね」
「そう、ですね」
頷く蓮華の横で、それにしても、とハルは考える。
(二つの噂の中心が俺なんだよなぁ)
ただの偶然かもしれないが、そうではないかもしれない。
(なんか、引っかかる)
二つの噂が流れた時期も、少しおかしい。
ハルが生徒会に誘われたのも玲奈のグループに入ったのも、一週間以上前のことだが、広まったのは今である。しかも、そんな噂がその前に流れていたわけでもないのに、広まる時は一瞬で広まった。
(人為的なものか? でも、そんなことして何の意味が? ……う~ん?)
「あの、天城さん」
思考を巡らせていたハルに、蓮華が先程までと違う緊張した面持ちで声をかけた。
「ん、何?」
「天城さんは……やっぱり生徒会には入らないんですか?」
それは、蓮華がここ一週間で最も尋ねたかったことであった。
一つのグループに入っていたとしても、もう一つ他のグループに入っても問題ない。だが、その分だけその生徒の負担が大きくなる。
もちろん、ハルに無理強いさせることは出来ないが、蓮華はまだ諦めきれずにいた。
ハルが生徒会に入ることを。
ハルと一緒に生徒会の活動をすることを。
「そうだね……個人的には、生徒会に入ってみたいと思ってるよ」
だから、ハルの言葉に蓮華は心の底から喜んだ。
「ほ、本当ですか!?」
「うん……でも、多分その願いは叶わないと思う」
「え……何で、ですか?」
「神埼先生は俺を二つのグループに入らせることを許さないと思う。そういう、どっちつかず、を一番嫌う人だから……多分」
最後は自信なさそうに言い、苦笑するハル。
「それに、そういう中途半端なのは生徒会にも悪い影響も与えかねない。誇りをもって活動している人達の邪魔をする気はないよ」
「邪魔だなんて……」
「まぁ、詳しいことは生徒会長の話を聞いてからだね。ここでしょ?」
ハルが指差したのは、他の教室の扉より一回り大きな扉。その扉の上には≪生徒会室≫と書かれたプレートが付けられている。
「あ、はい」
頷き、蓮華はまだ何となくやりきれない気持ちのまま、扉をノックした。
「入っていいぞ」
中からそんな声が聞こえる。ハルも何度か聞いたことがある里奈の声だった。
「失礼します」
蓮華は扉を開けて中に入り、ハルもその後に続いた。
生徒会室は普通の教室より少し小さく、中央にドでかいテーブルが置かれているだけで他に変わった物は特にない。
「お疲れ、蓮華。大丈夫か?」
机を挟んだ真正面の椅子に座っている里奈は、まず蓮華に声をかけた。その声色は驚くほど優しい。
「大丈夫か、って、教室からここに来ただけじゃないですか」
蓮華は呆れ気味にそう言った。こちらの声色も普段と少し違う。
「蓮華は昔から方向音痴だったからな。子供の時なんて私が迎えに行かないと」
「里奈さん」
「……すまん」
蓮華に睨まれた里奈はかなり真面目なトーンで謝る。
(……冬樹さんといい、この人といい)
最初の印象が百八十度変わる人が多すぎる、とハルは思わずにはいられなかった。
「久しぶりだな、天城」
「あ、お久しぶりです、健吾さん」
蓮華の兄の健吾に声をかけられたハルは頭を下げ、声を抑えて口を開く。
「風谷会長の態度が……イメージとちょっと違うんですけど」
「ん、ああ。あいつ、蓮華を溺愛してるからな。蓮華の前ではいつもあんな感じだぞ」
なんて、健吾が言っている傍で、
「一週間経ったけど……慣れないわねぇ」
「そうですね」
と、ハルの左手側に座る生徒会役員の女生徒二人が呟いた。
「……まぁ、俺はあいつと幼馴染だから違和感ないんだが、学園でしか会ってないやつは、そうはいかないみたいだな」
「みたいですね」
幼馴染の健吾にとってはあの里奈が普通なのだろう。
苦笑するハルに、里奈は一つ咳払いして目を向けた。
「お前とは初めまして、だよな。天城ハル」
「そうですね。風谷会長のことは何度も見かけましたけど」
「そうか。じゃあ、私と健吾の自己紹介はいらないな」
里奈が自分の右手側に座る女生徒に目配せすると、二人の内里奈に近いほうが立ち上がってハルに身体を向けた。
「私は【サティ・ライナ】。健吾君と同じ三年で生徒会の副会長よ。以後、よろしくね」
恭しく頭を下げるサティ。その姿は学生とは思えないほど様になっていた。
「天城ハルです」
ハルは若干その雰囲気に呑まれながらも、丁寧に頭を下げた。
二人が殆ど同時に顔を上げると、サティは気品のある笑みを浮かべた。
(大人っぽいな~)
蓮華と里奈の中間ほどの長髪に、落ちついた雰囲気と言葉使い、容姿端麗な顔立ちのサティ。名家のお嬢様と言えば誰もが信じるだろう。
サティが座ると、その隣の女生徒が腰を上げた。
「【桐野宮彩夏】、二年で会計です。よろしくお願いします」
こちらも礼儀正しく頭を下げる。とは言え、サティほど柔らかではなく、どちらかと言えば事務的な仕草だった。
肩口で切り揃えられた髪型で、丸眼鏡をかけた少しツリ目の彩夏は、見た目通りと言うべきか、真面目な人種なのだろう。
「よろしくお願いします」
ハルが頭を下げると、彩夏は一度頷いて腰を下ろした。
「ん……じゃ、本題に入るか。適当に座ってくれ」
里奈の対面に机を挟んで座るハル。若干身体が強張っている。
「単刀直入に言うと、私はお前をこの生徒会に入れたいと思っている。お前はどうだ? この生徒会に入りたいのか?」
本当に単刀直入である。
「どうだ、と言われても……ご存じかと思いますけど、俺はもう神埼先生のグループに入ってますので。多分」
「今はお前の意思だけを聞いている。とりあえず、生徒会に入りたいか、入りたくないかだけ答えろ」
「? それは……入ってみたいですけど」
「そうか。なら、オーケーだ」
「??」
意味が分からず首を傾げるハルに、里奈が告げる。
「三日後、お前には私と闘って貰う」
「……は?」
相手が目上だということも忘れ、つい素の声を発してしまうハルだった。




