第九話 終わりきらない春
さっきまでの喧騒が嘘のように、花見の場は静かになっていた。
片付けの手がゆるやかに動き、笑い声もどこか落ち着いている。
神崎は桜の木の下に腰を下ろし、そのまま目を閉じた。
(……終わった)
風が頬を撫でる。花びらが一枚、肩に落ちた。
どれくらいそうしていたのか分からない。
「神崎」
声がする。アイリだった。
「そろそろ——」
言いかけて、足を止める。
「……そのままでいい」
少し離れたところから、佐倉の声がした。
「今は休ませてやれ」
アイリは一瞬だけ神崎を見て、小さく頷いた。そのまま、何も言わずに戻っていく。
——気がつくと、周囲では片付けがほとんど終わりかけていた。
誰かがゴミ袋をまとめ、誰かが道具を運び、誰かが最後の確認をしている。
(……寝てたのか、俺)
ゆっくりと体を起こす。
「お、起きたか」
唐津が笑いながら手を振る。
「いい感じにサボってたねえ」
「いや、違いますって」
神崎は慌てて立ち上がる。
「すみません、手伝います」
「もう終わる」
佐倉が短く言った。その声に、神崎は少しだけ肩の力を抜く。
「こんなに穏やかな花見は、久方ぶりだねえ」
初江がにこにこと近づいてくる。
「神崎君のおかげだ」
「……いえ、そんな」
神崎は少しだけ視線を落とした。
(……よかった)
胸の奥に、じんわりとした安堵が広がる。
「来年も、ぜひお願いしたいねえ」
初江が軽い調子で言った。
「は?」
「今回の手際を見ているとね。適任だと思うよ」
「賛成だ」と佐倉。「いいと思うわ」と友永。
「来年はもう少し派手にやろうよ」と唐津が笑い、「やめとけ」と山鹿が即座に返す。
気がつけば、あちこちから声が上がっていた。
「……いや」
神崎は一歩引く。
「ちょっと待ってください。来年もって——」
視線が、集まる。
「もう勘弁してください!」
思わず叫んだ。
一瞬の間。それから。
どっと、笑いが起きた。
神崎は少しだけ笑って、桜を見上げた。
風が、花びらを揺らす。
(……また来年も、この人たちと)
そう思ったら、なんだか悪くない気がした。
桜は、変わらず静かに揺れていた。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
無事に(?)花見も終わりました。
書いていても楽しい回でした。
来年も任されそうな神崎ですが、どうなるのか……。
引き続きよろしくお願いします。




