職業【遊び人】階層ボスを倒します
初期リスポーン地点から町とは反対方向に10分程度歩いた末、たどり着いたのは一つの大きな扉だった。
どうやらここがボスの部屋らしい。マップにも特別なアイコンが記されていた。
「この中が第一階層のボスの部屋だ。みんな、準備はいいか!」
金髪の男が鉄の剣を掲げて皆を鼓舞する。よく見るとチームはほとんど女性で構成されていた。たしかにあのイケメン顔であればモテるのも分かるが。
(確か顔も最初の設定で変更できたよね……)
彼女はそう思っても、それを口にするほど愚かではなかった。しかし、このチームの一員と言うことには納得できていない。まるで彼女も彼に惚れてチームの一員になったみたいではないか。どうやれば彼の表情を曇らせられるだろうかと考える。
金髪が扉に触れると、大きな音を立ててゆっくりと開かれる。彼女らは導かれるように扉の中へと入っていった。
洞窟の中は広く、ドームのような形状になっていた。青い水晶のようなものが壁面にいくつもくっついている。天井から水が滴り落ちており、何処からともなく冷たい風が吹く。
「くるぞ! みんな、気を付けろ!」
金髪がそう呼びかけると、扉がゆっくりと閉じた。そして洞窟のど真ん中で、大きな地響きを上げて登場する巨大モンスター。
推定で彼女の五倍以上はある大きな体、青い艶のある綺麗な肌、何処を見ているのか分からない目線。
大スライム
HP 1000/1000 MP 30/30
「お、おっきい……」
「第一階層ボスは、大スライムだ! みんな、剣を構えーー!!」
鉄の剣を鞘から抜くと、大きく振りかぶって切りつける。あれは、彼女が憧れた剣士の姿だ。正直見くびっていたが、あの攻撃は凄まじい。
剣を振り下ろしたと思えば、そのまま体を一回転させてもう一度切り込む。剣による連撃は止まらない。
大スライムは一歩後退したが、表情を変えずに攻撃を仕掛けてくる。
その大きな体躯から繰り出される体当たりや押しつぶしによる攻撃は、防具を粉々に砕く。悲鳴を上げて大スライムから逃げるプレイヤーがいる中、金髪はそれをかばい剣をひたすらに振っていた。まるで時間を加速させているようだ。
「か、かっこいい……」
「君は装備を持っていないんだろう! 後ろで見守っているといい!!」
そう言って彼女の方へと視線を向けてきた。思わず「はい!!」と言ってしまった。正直今の彼女にできることは無いので大人しく扉のあったほうへと走っていく。
彼女は大スライムから逃げるように走った。しかし戦いによる振動で、壁の水晶がいくつも崩れ落ちてきていたようで……
「――いてっ!」
彼女は水晶に足を引っかけてこけてしまった……
は、恥ずかしい!! どうして僕は悪運が強いのだろうと頭を抱えるカリナだが、大スライムは転倒したカリナを見逃さない。
「あ、危ないぞ!!」
「えっ」
振り返ると、大スライムが彼女の真上で跳躍していた。影が彼女を包む。
押しつぶされる……そう思い目を瞑る。
どうしてこんな肝心な時にこけてしまうのだろうか。彼女は今装備はしていないし体力は20のままだ。おそらく一撃でやられてしまうだろう。
彼女は反省をしていた。どうせなら【粘性之王】を試してみればよかった。大スライムの生死は掌握できなかっただろうが、スライムを召喚すればスライムを触れることなく倒すことができたかもしれない。大スライム相手でも戦えたかもしれない。そんなことを思いながら彼女は大スライムに踏みつぶされる瞬間を待った。
「……?」
しかしいつまでたってもその瞬間は訪れない。彼女はゆっくりと目を開ける。
そこには、金髪の男が剣を握っていた。しかし、大スライムの姿が見あたらない……
「た、倒したわ!!」
「イトマ様が倒してくださった!!」
そう言って歓声が上がる。
洞窟内に光が差し込み、勝利を宣言するように音楽が流れだした。
目を開けると、眼の前には見慣れた画面が浮かんでいた。
【第一階層ボスの討伐に成功しました】
洞窟の奥には光り輝く魔法陣が現れた。
「い、いとま……?」
「あぁ、名乗っていなかったな。イトマは俺の名前だ」
イトマは何かを考えるように首をひねった。
どうやらこの人が彼女を守ろうとして大スライムを倒したのだろう。大スライムに勝利できた、階層ボスを倒したのだ!
借りを作ってしまったのは悔しいが、助けれたのは疑いようもない事実なのだ。彼女は立ち上がるとイトマに感謝を告げる。
「あ、ありがとうございます」
「いいんだ、戦いに大事なのは助け合いだよ」
一時的にチームを結成したプレイヤー達は、イトマに感謝を告げると魔法陣へと乗ると消えていった。あの魔法陣が第二階層につながっているに違いない。
一度階層ボスを倒すと自由に階層を移動することができるようだった。その証拠にマップを開くと第二階層へと転移することができるボタンが増えていた。
彼女は実力的にまだ第二階層に行くのはやめようと考える。イトマはそのまま第二階層に向かう様で魔法陣の方へと向かっていく。
イトマに感謝を告げると、扉の方へと向かった。
「ま、待ってくれ!」
「ん?」
振り返ると、イトマが近くへと走ってきた。
「ど、どうしたんですか……?」
「ごめんね、引き止めて。君、スライムに何かしなかった?」
「え? 別になにも……」
「そうか、それは俺もなんだ」
イトマは戸惑いながらそう話した。何を言っているのかよく分からない、大スライムは倒せたじゃないか。なんの問題もないのでは?
彼は画面を触る。すると、アイテムを取得したときに流れる効果音が流れた。
画面を開くと、二つの装備品を手に入れていた。
「こ、これは……」
「大スライムが倒れた時に手に入れたアイテムだ。君が持っていてほしい」
それは「スライムの剣」と「スライムの鎧」だった。
「こんなの受け取れないよ」
「いいんだ、受け取っていてほしい」
「でも……」
「今回の戦い、とどめを刺したのは俺ではない。俺の攻撃は確かにダメージを与えていたが、大スライムの体力を削るほどの攻撃は与えらえていなかったんだ」
「どういうこと……?」
「大スライムの体力は1000もある。それに対して俺の攻撃は数十ダメージほどだ、君をかばった一撃で大スライムを倒せたとは思えない」
確かに彼の連撃はすさまじいものだったが、それは大スライムの多すぎる体力を削り切るほどの攻撃ではなかった。しかし大スライムは彼の目の前でやられて行ったのだ。
「おそらく、チームの中に遠隔でスライムを一撃で倒せるような猛者がいたのだろう。とにかく俺は大スライムを倒していないんだ。これは俺への戒めだ。だから代わりに受け取ってもらえないか?」
正直理屈は分からないが、そうしないと彼の心が晴れないというのであれば仕方ない。ここは折れるとしよう。
それに、遠隔でスライムを一撃で倒せるような猛者に心当たりがあった。額に汗が流れるのが分かる。まさか……
「分かった……また、会おうね、イトマ!」
「あぁ、もちろんだ」
そう言うと彼は魔法陣に乗り、第二階層へと向かっていった。
それにしても、誰が大スライムを倒したのだろう。そう考えるカリナだったが【粘性之王】の「生死を操る能力」が大スライムに対しても効果があることを理解していなかった。否、理解しようとしていなかったのだ。
当然その可能性もあるであろうと思っていたが、そうだとすれば自分の能力がボスを触れることなく倒したということになるのだ。そんな残酷な能力を得ていたなどと考えたくはなかったのだ。
彼女は現実から目を背けて、扉を開けのだった。
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