職業【銃使い】猫又を化かす
アントは第二階層の町にいた。
「よしっ」
今の狙撃で四十人目である。
彼の戦法は遠距離からの狙撃だ。屋根の上に登り、索敵を行う。
第二階層の町には、戦い慣れていないプレイヤーが多い。体力が少ないため、一発での狙撃を狙う。
「まだ狩れるな」
今回のイベントのためにMPを貯め続けた。それを躊躇うことなく使用する。
姑息な戦い方で、アンノウンの他のメンバーからは愚痴を入れられるだろう。
アントはそれを承知の上で戦闘を続ける。彼はランキングの上位に入りたかったのだ。
スコープを覗くと、詠唱を開始する。詠唱とは、魔力の銃弾に蓄積するための段取りだ。
「『大火魔球』」
威力が集中した魔法を発砲する。
魔力量だけで言えば上位魔法であるが、広範囲に攻撃する必要はないので中位にしている。
そうして順当に点数を上げていたときに気がついた。
「あいつ……」
特徴的なメイド服に、猫耳の付いた可愛い女性。ニーナである、残念ながら男だ。
アントは彼へ目掛けてスコープを覗くと、本日最大級の魔法を放つ準備をする。
補助魔法は色によってその性質が変わる。『赤化』と『焼橙の魔法陣』を付与した闇の魔法は威力を上げて、質量を持つ。
「『深淵大魔冥珠』」
冥界のエネルギーを纏う上位魔法が風を斬る。
それは空間を削り取り、新たな空気の流れを生んだ。
スコープを覗き、着弾を確認する。
「……」
ニーナはこちらをまっすぐに見つめていた。
魔法が消えているが、青い板が飛散しているのを鑑みるに『紙一重』で防いだのが分かる。
アントは『鎖破悪狼』を召喚する。正面戦闘になると悟った。
アキュムレーターを背中にくくりつけると、屋根を駆ける。
だがニーナは予想を裏切る。
「なっ……!」
彼はアントとは反対方向に走り出したのだ。
アントは『狼尾』を使用して素早さを上げると、たまらず叫ぶ。
「戦え、ニーナ!! 逃げるつもりか!」
「戦う必要がない。お前と戦っても、雑魚と戦っても同じ点数だぞ? それなら俺は後者を選ぶ」
「無粋だな」
アントは腰から拳銃を抜き、巨狼に握らせると、魔法を連発する。
追尾性能を付けた魔弾だが、ニーナは『紙一重』で全てを弾いてしまう。
「なぜ戦わない! 逃げることが恥だと思わないのか!」
「思わない、これが俺の戦略だ。構うな、オオカミ少年ごときが」
「キメラだっ!」
銃に渾身の魔力を込める。
「『緑化』『純白の魔法陣』」
魔法陣が複数展開される。
白の魔法はその法則を変える。アントは使用する魔法のイメージを魔法陣に反映させていく。
魔法陣に法則が重なり、重量が増える。
「『灼熱大魔炎球』」
火花を散らして、火球は轟く。
そこには彼はいない。
「『剣断斬』」
「くっ……!」
背後に現れたニーナの対処に遅れをとり、胴体に攻撃を受けた。
巨狼が銃を捨てて掴みかかる、それと同時に銃で魔弾を連発する。
しかし彼の身長が低く攻撃が当たらない。
アントと違い彼は素の戦闘が強い。そのため魔法や武器に頼っている彼の攻撃を軽くいなす。
ニーナの斬撃はアントの体力を充分に削り、彼が退避を選ぶ頃にはすでに傷まみれになっていた。
「戦いたいのではなかったのか? ボロボロだな」
「あぁ、お陰様でな」
アントは思案した。
ニーナは始めに自分を警戒しているようだった。それに引っかかっているのだ。
このまま攻撃を喰らえば負け続ける。なにか逆転の一手があるはずだ。
アントは自分の頭に銃弾を迷いなく打ち込んでいく。
「なにしてんだ? 馬鹿か?」
「回復だよ」
「【猫騙し】」
背後へと移動したニーナへ再度巨狼を使って掴みかかるが、躱される。
ニーナを捉えられたら御の字だが、できないからと言ってむやみやたらに攻撃をするのは間違いだと学んだ。
「【煙幕】」
「……」
巨狼を収めて、自身の今いる座標を確認すると、上空へと移動する。
『戦場掌握』で固定したダガーに片手でぶら下がる。アントはニーナが座標の移動を警戒したと考えたのだ。
アントはマガジンを入れ替える。
魔法を重ねることは得意だが、同時に二種の魔法を使うのは苦手である。
それでも煙幕を突破されて『猫騙し』によって移動されても困るため、彼は素早く魔法を放つことにした。
巨狼を再召喚して、握らせた拳銃に魔法を込める。
「『風撃』」
直後に本命の魔法を発動する。
今回は重ねがけなしの、一度きりの攻撃。
「『深淵大魔冥珠』」
『風撃』により煙幕が晴れ、ニーナの体が見える。
彼の目線はこちらにない。当たると確信した刹那、鉄槌が邪魔をする。
「来たぜ!! クリティカルヒット!!!」
「「!!!」」
闇珠は戦鎚によって発散する。
彼の魔法は上位である。そんな魔法が一瞬にして相殺された。彼は動揺する。
猫又はアントを見つけると、瞬時に『猫騙し』により移動してきた。そしてダガーの上に立つ。
「まずいことになったな」
「あんたまじで猫みたいだな……」
「あれは『プロセス』っていう簡易チームだ。今あの虎が順位を上げまくってる」
「シルフか」
虎と人を足して二で割った風貌。
筋骨隆々の巨体に、威を放つ紅の戦鎚。その男はこちらを見ると、不敵な笑みを浮かべた。
「ソート、装填ヨーイ」
「魔法を撃ってもいいんですね!!」
オールバックにメガネをかけた男は、先端に星の模型が付いた一尺のステッキを掲げると、魔力を込める。
辺りの光が吸引されて、空が曇る。
「まずい、アント逃げろ!!」
「打てー!!!」
「『灼熱大魔嵐域展』」
空が凪いだ。
石畳の広場を起点に、空気そのものが裏返る。
炎が燃え広がる前に、風が立つ。
「【戦場掌握】っ!」
アントが事前に覚えておいた座標へとニーナを連れて移動する。
轟音が来る。熱を孕んだ暴風が町を襲う。
破壊が広がる。灼熱にまで加速された嵐が空間を覆った。
ソートを起点に、辺り一面の空間が烈火の闇に包まれる。
町は溶けて蒸気が立ち上る。吐く息がすぐに蒸発された。
「やって、くれたな」
「あぁ、魔法は素晴らしい! 美しい光景だぁ……」
「ちょっと大げさなんじゃねぇのか?」
「足りないくらいです! まだ彼らは生きていますしね」
背後に見える灰髪はセレナだと確信する。
アントは体を起こすと、ニーナに腕を貸す。
「おい雑魚、逃げるぞ」
「逃げれるならとっくに逃げてる」
「……クソッ」
ニーナが魔導書を取り出すと、ページを破る。
アントが銃をニーナに打ち込む。
「「『天光大魔再生』」」
「お前を殺るのは後だ」
「お願いだからもう逃げてくれるなよ」
彼らは『猫と狼』という簡易チームを結成すると、『プロセス』の前へと姿を表した。




