職業【読者】天罰と猶予
サリアが【衰弱眼】を使用したのが、戦闘の開始であった。
兄妹はそれを受けても、表情を変えない。ナギはニーナの懐に入った。
猫又が楽しそうに話しかける。それは狂気とも過度なストレスへの緩和とも取れる。
「久々だなぁ、強くなったか? 俺はなったぜぇ」
「嘘でしょ。スキル増えてないし」
薙刀がニーナを翻弄する。
その攻撃速度はニーナのメイド服を切り刻む。それなのに、一向にダメージだけは与えられない。
「猫、みたいだ」
「猫又様だからなぁ」
猫はナギの攻撃を柔軟に回避する。
避けられない攻撃は【紙一重】で守る。
隙があれば、ニーナは剣を振りかざす。その剣はナギの手首を狙っていた。
「妙な動き」
「妙なのはお前の方だぜ」
ナギの灯籠は彼の背後一メートル上部に位置した。今のままでは届かない。
このままやられているのも癪なので、彼の四肢を使えなくしてやろうと考えている。
これはナギの思考能力への挑戦であった。ニーナは苦笑する。
「アントは? 大丈夫か!!」
「……」
アントは答えない。
レッカからもらったアキュムレーター。
何重にも魔法陣を重ねていた。対するツムギの目は冷徹。静かに戦況を眺めていた。
それは攻撃が始まらないから、四人のチームの内、アントとニーナを除いた二人は支援すらしないから。
嫌な予感を抱きつつも、その思考を振り払う。
「ただ人が増えただけ」
そう判断するのは、カリナやエスという異端を見てきたから。そして、誰よりも自分への信用が高いからである。
灯籠を連れたツムギは銃を構える。放たれる弾は物理弾。発砲音とともに、アントも引き金を引いた。
「『灼熱大魔炎球界』」
「「――!!」」
上位の中でも、威力を高めた一撃。
空間を引き裂く業火の音色が、神殿に振動を起こした。
ツムギは堪らず後退する。人形を盾に、灯籠を守る姿を確認した。
そして燃え盛る人形。炎を振り払う仕草はまるで滑稽。
ツムギの浮かべる表情は、苦痛であった。
「……趣向を変えたのか」
「魔力の装填に時間がかかったんだ」
「暇の加速」
ツムギの目に映るのは仕事をしていない百鬼星行のリーダー。
彼のスキル、速攻で上位魔法を放てたのはそれの影響。ツムギはナギに視線を送った。
「……」
ナギはナタの振る手を止めて、アントの方へと走っていく。
その距離十メートル。その間隔を詰める前に、狼は牙を剥く。
「【視覚共有】」
「【魅了眼】」
ナギの視線が奪われる。
それは些細な問題だと愚考し、突き進んだ先で起きたのは、錯乱。
「【煙幕】」
ナギは立ち止まる。後退して、ニーナを見失ったことに気がついた。
隣に並ぶツムギに『魅了』を直すアイテムを貰って、首を鳴らす。
「ニーナは」
「見てない」
「……」
おそらく煙幕の中だろう。
ナタを振りかざし飛び出てきたところを捉える。
ツムギが煙幕の中へと銃を放つが、なにも反応はない。
しばらくして、ニーナが煙幕から飛び出した。
「愚かだな」
ナギは気がついていた。
アントに『狐狸変化』というスキルがあり、ニーナの姿になれることを。
そして、その作戦を実行することを。
ナタを下から振るう。彼はこの攻撃を守るすべがない。
勝ちを確信したナギ。
煙幕が晴れて、背後で銃を構えるアントの姿を見て、彼の血の気が引いた。
「【紙一重】」
「『深淵大魔冥珠尽』」
ナタは遮られた。ナギは振り返る。
既に放たれていた闇の魔法、それが妹の灯籠を破壊するところを目にしたときには、自分の愚かさを噛み締めていた。
炎の灯火が弱くなる。そして初めて、彼らが自分の弱点に気づいていたことを理解した。
「ツムギ!!」
「どこ見てんだ」
「っ!!」
「【神契り:天光大魔煌点消】」
猫又は、薙刀と彼の頭部を踏みつけ、灯籠に向かって魔法を放った。
その点滅、光の上位魔法にして、彼の切り札。
魔力が一点に集中する。焔を離散させるには容易い上位魔法の直撃。
ナギが内側から苦痛を受ける。
「ッッァア!!!」
宙に浮かぶ灯籠を抱えて後退するナギ。
体勢を整えて、兄妹は互いに支え合った。
「始まったばかりだ」
「もうへばってんのか!?」
自らに回復魔法を打つ兄妹。
二人は支えなく立ち上がると、おもむろに猫と狼を睨みつけた。
「次はない」
「無駄な時間を過ごした、お兄ちゃん……!」
「あぁ、妹の言うとおりだ。殺るぞ」




