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囚執愛 ― 愛してる、だから奪った ―  作者: 婀娜
第二章 距離と優しさ
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第五話 誘惑の罠

バーの扉が開いた瞬間、背後から明るい声が飛んできた。


「圭介さ〜ん♡」


振り返った圭介は、一瞬ぎょっとして、すぐに苦笑いを浮かべる。


「……おいおい、奇遇じゃねぇか」


 そこに立っていたのは、

行きつけのクラブで顔なじみのホステス・みくる。


 鮮やかなワンピースに巻き髪を揺らし、

わざとらしいほどの笑みで手を振っている。


「まさかこんなところで会えるなんて〜♡

運命感じちゃいますね♡」


 みくるは迷いなく圭介の腕に絡みつく。

凛は静かにグラスを置いた。


「……お邪魔のようですね。失礼します」


立ち上がる凛に、圭介は慌てて声を上げた。


「お、おい待てよ! まだ——」


だが、凛は柔らかく微笑み、軽く会釈しただけで背を向けた。


冷たいヒールの音だけが、扉の向こうに消えていく。


「ちょっ……!」


追いかけようと立ち上がった圭介の腕を、みくるがそっと掴んだ。


「ねぇ、さっきの人、誰〜? すっごく綺麗な人だったけど」


 上目づかいで覗き込むみくる。

圭介は鼻で笑い、強がった声を出す。


「ただの知り合いだ。気にすんな」


「ふぅん……。じゃあ今夜は、あたしが“代わり”になってあげよっか♡」


耳元で甘く囁きながら、みくるの爪先が圭介の膝に触れる。


その一瞬で、理性の糸が切れた。


「……上等だ。行こうぜ」


圭介はみくるの腰を抱き寄せ、ふらつく足取りでバーを出た。



ホテルの一室。

ベッドに崩れ落ちた圭介は、ワインのグラスを握ったまま意識を失いかけていた。


みくるはそっとグラスを取り上げ、眠る彼の顔に指先を滑らせる。


「ふふ……カッコつけてても、眠っちゃえばただの人形♡」


スマホを構え、シャッターを切る。


 無防備な裸の写真。彼の脇には、散らばる書類と名刺。

その一枚一枚が、彼の人生を縛る証拠に変わっていく。


 みくるの笑顔は、もはや甘いホステスのものではなかった。

その目は、冷ややかな狩人の光を宿していた。



数分後。

ホテルの裏口。


 夜風に髪を揺らしながら、みくるは足取り軽く現れた。

待っていたのは、凛。


「終わりました。写真も動画も、全部ここに」


USBを手渡しながら、みくるは満足そうに笑う。


「凛さんのお願いなら、なんでもしますから。

だって、頼られるのが一番嬉しいんですもん♡」


凛は小さく頷き、USBを手のひらで転がした。


「……ご苦労さま。助かりました」


その声は穏やかで、けれど温度を欠いていた。


みくるが軽い足取りで去っていくと、凛は夜空を見上げて小さく呟いた。


「これで十分。——彼はもう、終わり」


月明かりが照らす横顔には、氷のような微笑が浮かんでいた。



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