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壊れた春に芽吹く、しずかな愛  作者: 婀娜
第二章 距離と優しさ
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第十話 虚勢

調停は二回目に入った。


裁判所の小さな会議室。

冷たい蛍光灯の下で、書類の擦れる音だけが響いていた。


圭介は椅子に深く沈み込み、必死に笑みを作っていた。


「……俺は認めねぇぞ。家族を壊すなんて間違ってる。俺がいなきゃ優香も翔も生きていけねぇんだ」

声は大きいが、掠れて震えている。


優香は静かに首を振った。


「私たちは生きていける。あなたがいなくても」


圭介の顔が歪む。


「俺を見捨てるのか!? 会社からも追い詰められて、家庭まで……俺に死ねってことかよ!」


その叫びに、凛が鋭く口を挟んだ。


「いいえ。あなたが失ったのは“信頼”です。被害者の顧客からも、ご家族からも」


静かな声が、圭介の胸を突き刺す。


彼は唇を噛み、机を睨みつけた。


(……俺を陥れてるのは凛だ。あいつさえいなければ……)


だがその妄執の声を表に出すことはできなかった。


調停委員の冷たい視線が、それを許さない。



会議が終わり、廊下に出る。


フラッシュの嵐が待ち構えていた。


「中村課長! ご家庭でも調停中と報じられていますが?」


「顧客への説明責任はどうするおつもりですか?」


圭介は記者に囲まれ、虚勢の笑みを浮かべた。


「……誤解です。家族も、会社も……必ず立て直しますよ」


その言葉は、もはや誰にも届かなかった。


記者たちのカメラは無情にシャッターを切り続ける。


隣を歩く優香は一度も彼を振り返らず、凛と並んで出口へ進んだ。


圭介の「最後の鎧」は、虚しい虚勢だけだった。

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