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カウントゼロ  作者: Co.2gbiyek
2048bit
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28/28

分断

 米国とイスラム原理主義国家の小競り合いは長引き過ぎた。先に海峡封鎖をしたのは原理主義側だったが米国側に2重に封鎖をされたことで原油の輸出が滞っている。


 石油貯蔵タンクと輸送タンカーは14ヶ月も前に上限に達していて、行き場のない石油は海に垂れ流しになっている。


 イランは今にも音を上げてこちらの調停案にサインをする、そう米国が高を括っていた。


 もう間もなく戦争が終わる誰もがそう考えていた矢先、原理主義組織がバハマ沖から新型のドローンを2機発射した。


 2機はシャヘドを一回りほど大きくしたプロトタイプのドローンだ。それぞれがシャハブ型のミサイル弾頭と起爆装置を積んでいた。ただしシャハブと異なり砲弾内は、1次爆発装置にプルトニウムとべヘリウム、2次爆破装置に高濃縮ウランを搭載するNTN威力換算5キロトン相当の戦術核に換装されている。


 ターゲットはバハマ沖から150kmに位置するフロリダ州マイアミにある米国大統領の自宅だった。


 大統領の自宅として一般的に知られているのはマイアミの高級会員制リゾート「マール・ア・ラーゴ」だが、大統領就任後は有名になりすぎた旧自宅から、暗殺を警戒してパームビーチの北側パーム・ビーチ・カントリークラブが併設されるリゾート地にも自宅を置いている。しかし、それ自体SNSで話題となっていて公然の秘密のようなものだった。


 アメリカ東部時間5時34分に同時に発射されたプロトタイプのシャヘド2機は旧来のピストンエンジンではなくジェットエンジンを搭載しているため最高速度は時速450kmに到達する。沖合から低空を飛ぶことで迎撃システムに発見されずにマイアミに上陸。発射から21分後にマール・ア・ラーゴの大統領邸に、その4分後にパームビーチの邸宅に2発目が直撃する。


 パーム・ビーチを襲った戦術核は大陸側対岸に位置するソースウッドビレッジの商業施設まで巻き込み、爆心地から半径1km範囲の建物は全倒壊というよりも跡形もなく消し飛ばし、一瞬のうちに生物を死滅させた。


 2km圏内は建物はかろうじて原型をとどめるまでに破壊。半径4kmまでの商業施設の窓ガラスは全て飛散し、派生した火災で周囲に混乱が生じている。


 パーム・ビーチの朝の街を散策する観光客などに多数の死傷者をだした。そしてより巨大な商業施設が密集するマール・アーゴはさらなる惨劇に見舞われていた。


 マイアミの惨事を知った副大統領は大統領の生死を確認する時間すら取れないまま陣頭指揮を取り、事態の収束に務めると同時に報復の準備を進めた。


 映像情報と軌道の逆算からドローンが発射された場所をバハマ沖と特定した。バハマに関する情報収集を行ったところ、イギリスの海外諜報活動機関MI6から1ヶ月前にヒズボラの部隊がスーダン反政府軍事組織「RSF」の空軍基地経由でベネズエラに入ったという情報を得た。


 イランの動向は全て監視されているのでおそらくヒズボラが実行部隊で間違いはない。混乱しているペルシャ湾の代替手段として紅海の利用が大幅に増えたため、湾岸のどの国も通航する船舶を掌握しきれていなかった。


 そこに目をつけたヒズボラがRSFの助力を得てベネズエラに入った可能性が高い。ベネズエラの傀儡と化しているキューバの海域が使われたことに何ら不思議はない。


 国防省と副大統領は実行組織の裏取りを進めながら、これまで躊躇していたイランの地下軍事施設や、ヒズボラの拠点への核攻撃について大統領令をまとめる動きを始めていた。


 イランの山岳地帯に広がる地下軍事基地をターゲットに10キロトン相当の戦術核を3基、ヒズボラをターゲットとしてレバノンのベイルート南郊の拠点に3キロトンの戦術核2基の使用を許可する大統領令を発行したのはマイアミが攻撃を受けてから12時間後だった。


 それから更に2時間後にインド洋を航行していたオハイオ級原子力潜水艦アラバマからイランへ向けて3発の戦術核が発射され、同時刻にインド洋からアラビア海域まで接近していた原子力潜水艦ルイジアナからベイルート南郊に向けて2発の戦術核が発射された。


 イランの山岳地帯には民間人は住んでいない。被害はテロリストだけに及ぶ。だが、レバノンの首都ベイルートは人口180万人の大都市だ。市内中心部に50万人が住み、周辺には130万人が住んでいる。軍の情報ではターゲットにした南部の郊外には40万人が住んでいる事が分かっている。そこに住む人々は直接的、間接的に何らかの被害を受ける事になる。


 住居や交通経路、そして核投下時刻をもとにしたシミュレーションで22万人が即死する見込みであった。その被害規模はマイアミのおよそ2.5倍にあたる。


 ベイルートに核が直撃したのは現地時間の17時5分だった。ちょうど帰路に就く、相当数の一般人が爆発に飲のみ込まれた。


 甚大な被害を出した核兵器による応酬は当然、国際世論の非難の的となり、やがてEU、ロシア・中国が中心となりイランと米国に経済制裁を与える動きが始まる。


 そしてその裏では、中国の情勢に大きな動きがあった。


 イランからの情報提供を受けていた中国は、この機に台湾侵攻を進めるはずだったのだが、米国の核による即時反撃を目の当たりにして迂闊に動き出すことができなくなった。


 それに加えて反撃直後に波照間島から140km、日本の排他的経済水域内ギリギリの位置に3機目のオハイオ級原子力潜水艦ネブラスカの姿を確認した事で中国は台湾への上陸作戦を断念した。


 その弱腰の姿勢は中国共産党中央政治局常務委員会のメンバーに隙を与える事になり、中国国内の均衡が崩れていく。


 各メンバーはそれぞれが行動を起こす。自由経済と民主主義は最高指導部にも当然魅力的に映っている。自由経済に柔軟な姿勢を示すメンバーを後ろ盾にした湾岸部の民間企業は露骨に政府に反発を始める。


 本社機能を米国やEUに移すことはもちろん、工場を海外企業に売却し、売却益をそのまま本社のある海外に逃がすという大規模な資本移転を起こした。


 急速に力を失い始める中国。インドの経済勢力が中国西部に影響を及ぼすようになる頃には中国はロシアに接近するようになる。


 核攻撃に対する経済制裁は米国、EU、中国・ロシア、イスラムの衛星ネットをつなぐインターチェンジを切断するきっかけとなった。グローバル経済の揺り戻しは世界をローカライズとブロック経済に逆行させた。


 それぞれの勢力はリージョンと呼ばれるようになり、別リージョンの情報は人づてに聞く不確かで偏った内容だけになった。


 そして米国リージョンに取り込まれた日本では以前にもまして外資企業の力が増していた。シンクタンクによる政治立案支援やコンサルティング企業による行政のオペレーション支援のみならず、司法の実行部分を担うようになり、不安定な円に嫌気が差した小売店、特に個人経営の飲食店からドルで取引を行い始めている。


 日本はかつての独立国家としての体裁を失いつつあった。




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