魔法少女 二風谷ヒマリ
絆の深まった魔法少女たちは強かった。
星崎さんの強さは揺るぎがなく、その絶対的な信頼感が、レナさんや他の少女たちの力を引き上げていた。
巧妙になるシャドウの攻撃を退け、バッシングしてくる世間の心無さに時に涙しながらも、彼女たちは懸命に戦い続けた。
うだるような暑さが続いたかと思うと、急に肌寒い日が連続する。いつしか季節が巡っていたことに気がついたころ、星崎さんたちは二人目の幹部を倒した。
少しずつ、しかし着実に、魔法少女たちは始祖のもとへと近づいていった。
ハロウィーンの混雑を狙ったシャドウの攻撃。その被害を未然に防いだ彼女たちを称える人はぼく以外いない。魔法少女たちは互いの健闘と無事を喜び合ったあと、ささやかなパーティーを施した。
寒さが一段と深まり、街をイルミネーションが彩り始める十一月。最後のひとり、三人目の幹部との戦闘は、あと一息のところで相手に逃げられてしまった。
悔しい出来事だったけれど、収穫はあった。始祖の居場所が特定できたのだ。
始祖は明治神宮の杜のどこかに潜んでいる。
魔法少女たちの間に緊張が走った。期待と、不安。もうすぐ終わる。その前に、最後かつ最大の戦いがやってくる。
とはいえ、明治神宮は広い。具体的な場所の特定にはやはり、三人目の幹部を倒す必要があった。
魔法少女たちは奮戦した。
クリスマスが迫り、世の中の空気は年末特有の浮ついた気配とシャドウへの恐怖がないまぜとなった不安定なものへと変じていく。
そして迎えた十二月二十三日、金曜日。
魔法少女たちはついに三人目の幹部を倒すことに成功した。
勝利を喜ぶ間はなかった。
始祖が突如復活し、明治神宮には渋谷の事件を超える大量のシャドウが発生して周辺の人々へと襲いかかった。
黒い津波のようなシャドウの大群が街を、人々を飲み込んでいく。
祝祭日を間近に迎えた人々の雑然とした賑わいが、またたく間に怒号と悲鳴の喧騒に塗り替えられていく。
魔法少女たちは懸命に戦った。それでも、大勢の死傷者が出続けた。
「前みたいに封印しよう」
そう言ったのは二風谷さんだった。ただし今回は、シャドウの噴き出す穴を塞ぐだけではない。神宮の杜に鎮座する始祖ごと、二度とこの世界に干渉できないようにする。
魔法少女四人の力を合わせた、極大封印魔法。
「もうこれ以上、悲しむ人を増やしたくない」
最年少の彼女が涙で赤くした目に宿した決意に、皆が同調した。
作戦はシンプルだった。
まずは始祖の相手を星崎さんがひとりで引き受け、その間に他の三人が封印魔法発動の準備を進める。結界や条件付与といった複雑な魔法を得意とする二風谷さんを基点として、レナさんと神宮寺さんがそれぞれの得意とする魔法の要素を封印に加える。最後に星崎さんの力を注いで強固な魔法を完成させる手はずだった。
「カンナちゃんひとりに危険な役目を負わせることになっちゃうけど……」
すまなそうにする二風谷さんに、星崎さんは涼しげな表情を崩さず言う。
「まかせて。負けないから」
宣言通り、星崎さんは負けなかった。
始祖の激しい攻撃をいなし、準備を進める仲間たちに被害が及ばないよう、彼女は完璧な立ち回りを演じた。
相手に何もさせないまま、神宮の杜上空では、三人の魔法少女が極大封印魔法の準備を終えつつある。
二風谷さんの体が煌々と輝き出す。
基点に力が集まったのが地上から見上げるぼくにもわかる。あと一息だ、と息を呑む。
……そう。ぼくから見てもわかることだったのだ。
それなら、敵にもわかるのは道理だった。
視界の端に赤黒い光点が灯った。
え、と思う間もなかった。
次の瞬間、薄く鋭い閃光が流星のように視界を横切った。
二風谷さんに集まっていたはずの光が爆発したみたいに膨らんで弾け、そして消失した。
何が起きたのか理解が追いつかなかった。
ただ、力を失って墜落する二風谷さんの姿だけが、目の前のリアルだった。




