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動画「浅倉カグヤ」

 あの日の顛末から整理しよう。

 シャドウの大量発生は始祖の仕業だった。幹部の一人を倒されたことで、激昂した始祖が感情任せに事を起こしたらしい。

 以前会った女性、四ノ宮リリカさんの協力で、シャドウが湧き出す「穴」を特定した魔法少女たちは、二風谷さんと星崎さんが力をあわせて封印魔法を展開しその「穴」を塞ぐことに成功した。残ったシャドウを掃討することで、事件はひとまずの終息を迎えた。

 収まらなかったのは人々の感情のほうだった。なぜ事件は起きたのか。その原因が正体不明のバケモノの仕業であることを、世間は受け入れることができなかった。

 同じ正体不明でも、人間の形をした何者かのほうが、罪を被せるのに都合がよかったようだ。

 事件にはいつの間にか「渋谷駅前無差別大量殺傷事件」という名前がついた。そしてその重要参考人──という名前は建前で、ほとんど首謀者のように魔法少女は扱われ始めた。

 さすがに未成年と見られる魔法少女の顔をマスコミが直接報じることはなかったけれど、SNSの力によって彼女たちの素性はあっという間に特定されつつあった。

 はじめに出回ったのは、レナさんの家族が入院する病院での撮影映像だった。

 撮影は消灯時間後に行われたのだろう。薄暗い廊下の映像が映し出されている。不鮮明な画面にぼんやりと浮かぶのは病室入り口の氏名を張り出した掲示板。暗がりのなか、「浅倉カグヤ」という名前が読み取れた。

 カメラが動き、横開きのドアの取っ手へ向けられる。撮影者が深呼吸する音が聞こえた。意を決したように取っ手へと手を伸ばし、

『……なにしてるの』

 その手が開けるより先に扉が開き、同時にしわがれた声がした。

『うわっ!?』

 撮影者の驚く声がする。がたがたと画面が揺れて、たたらを踏んで後退したのか扉から数歩遠ざかった。カメラが落ち着きを取り戻すと、扉のほうへと向けられて、奥にいた人物が画面の中央に映し出された。

 小柄な老婆がそこにいた。

 病衣の裾からのぞく手足は枯れた枝のように細く、顔には深い皺が刻まれている。赤茶色の髪にインナーカラーとしてビビッドな赤が入れられていて、若者らしい色合いがあまりにアンバランスだった。肌は潤いがなく乾燥しており、落ちくぼんだ眼窩に収まる目だけがぎょろりと大きく、仄かな明かりを受けて恐ろしげに光っていた。

 その眼が、自身を捉えるカメラの存在に気づく。

 表情が一変した。

『撮るな!!』

 金切り声を上げて、歯を剥き、もの凄い剣幕で近づいてくる老婆。枯れ枝のような手が伸びてきて、カメラが激しく揺れる。何が起きているのか映像からは判然としなくても、激しく揉み合いになっているのが窺えた。

『なにやってるんですか!』『警備を! 早く!』という声が遠くから聞こえたあたりでその動画は終わる。

【渋谷駅前無差別大量殺傷事件の家族】というキャプションを添えられて公開されたその動画は、かなりの反響を呼んでしまった。キャプションの内容はそこまで信じられていなかったけれど、映像自体にインパクトがあったためだ。

 ここまで事件から二日。そこに映るのが本当に魔法少女の家族だと知られるのも時間の問題だった。

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