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ヒジリの能力と終戦交渉の行方…… 

 広大な敷地に木一本ないグラウンド。

 ブリッツ王国の代理戦争部隊が訓練場として使用している土地である。

 リネアをはじめ数人が見守るその中央では、一人の青年と一人の少女―霧崎ヒジリとセシル=フリーク―は向かい合っている。


「お互い準備はいいか?」


 今回のテストで審判を務めることとなったダンが二人に確認する。


「ワタシはいつでも大丈夫です。」


 セシルが少し緊張した面持ちで答える。


「あー、ちょっといいか?」

「なんだ?」


 ヤル気のなさそうにヒジリが手を挙げると、ダンが眉をひそめ短く聞き返す。


「セシルは補助魔法が得意なんだろ?」

「ええ、そうですが……」

「じゃあ、1対1の試合じゃテストにならねぇじゃん。そこの二人も入れて3対1でやろうぜ。」

「な!!」


 ニヤリと口の端を釣り上げて提案するヒジリに一同が驚愕の表情を浮かべる。


「貴様!一応まだ終戦交渉中なんだぞ!いくらテストとは言っても絶対に負けることは―」

「1人が3人に増えたくらいで負けるわけねぇだろ。―それにこの方がお前らの目的には都合がいいんじゃねぇのか?」


 ダンの説教を遮り、ヒジリは一人の男に向かって挑発的な目を向ける。


「やれやれ、一体何のことを言っているのか分からないよ。―でも、君がそれでいいっていうならお言葉に甘えるとするよ。」


 その男―ジョシュア=フリークは額に汗を浮かべつつも、いつもの軽薄な態度を崩すことなくヒジリの挑発に応じる。

 ジョシュアの隣に立つネビルも黙って頷き、二人はセシルの方に並ぶ。


「ヒジリさん……」


 リネアが心配そうな顔でヒジリを見つめる。


「でもいいのかい?さっきそこの審判が言っていたようにまだ終戦交渉中だ。万が一君が負けたらどうなるか分かってるのかい?」

「さあ?万が一にもお前らに負ける可能性がないから知る必要ないな。」


 ヒジリは、ジョシュアの確認にも余裕を崩さず応じ、さらに……


「それと予定通り、俺は自分の能力の解説をしながら戦うからそれも参考にしてくれ。」


 不敵に笑い再度挑発する。


「やれやれ、僕達も随分舐められたものだね。それじゃあ―」

「ヒジリさん。」


 ジョシュアの言葉を遮り、今まで黙っていたセシルが口を開く。


「確かにあなたの強さは本物です。そしてワタシがあなたを心から尊敬していることも変わりません。しかし―」


 直後、セシルから威圧感と共に大量の魔力が放出する。


「ここまで馬鹿にされてはワタシも大人しくしているわけにはいきません!覚悟なさい!!」


 その圧力には異世界人故に魔力を感知できないはずのヒジリにも伝わる程である。


「おー、怖い怖い。それにしても心から尊敬してるとか、よく言うな。」


 それでもヒジリは余裕の表情を崩さない。


「それでは、これより試合を開始する!」


 本番さながらの緊張感の中、ダンにより試合開始が宣言された。


「いきますよ!」


 セシルの号令を合図に先手を取ったのはハーメルン側。


「この前の借りは返させてもらう!灼熱地獄ファイヤー!」


 ネビルの手から炎が放出される。

 その攻撃をヒジリは横に跳びかわす。

 しかし、その跳んだ先に、


「ここに来ると思ったよ。―局地炎熱ファイヤーポイント


 ヒジリが着地したところから大きな炎が燃え上がる。


ライト


 ヒジリが呟くとヒジリはまばゆい光に包まれる。


 ザッ……ドカッ


 光に乗じてヒジリはジョシュアの懐に潜り込み、上段蹴りを繰り出すが、


「……いやー、さすがだね。ガードしてても折れるかと思ったよ。」


 ジョシュアのガードに阻まれる。

 そして、


「なんのつもりだ?俺にそういう趣味はないんだが?」


 ジョシュアはヒジリに抱きつき動きを止める。


「僕もそういうつもりじゃないんだけどね……」


 そういってジョシュアはニヤリと笑い、一点を見つめる。


「炎神よ、その灼熱のごとく炎をもって敵を焼き払い賜え―灼熱地獄ファイヤー


 ネビルの差し出された両手から先程とは比べ物にならない威力の炎が放たれた。


「いかん、霧崎!完全詠唱した魔法の威力はけた違いだ!」


 ダンの焦った声が響く。

 ヒジリは自分に抱きつくジョシュアを力づくではぎ取ると、炎が自らに届く寸前、同じように口を開く。その直後、その強大な炎は強烈な光に包まれる―そう思われた……


火力増強ファイヤーブースター


 一瞬早くセシルが詠唱する。

 刹那、


「ライ―ぐあぁっ!」


 ネビルの放った炎魔法はヒジリに阻まれることなく命中した。

 ごおぉっと異様に大きな音を立てた炎に包まれ、苦しみ、叫ぶヒジリ。


「ヒジリさん!」


 リネアの悲痛な叫びが響く。


「これで終わりだよ。局地炎熱ファイヤーポイント


 さらに追い打ちと言わんばかりにジョシュアの魔法がヒジリを捕える。


ゴオォ……


 再びけたたましい程の音とともに、ヒジリの身体を炎が包み込む。


「ヒジリさん!!」

「陛下、いけません、あそこは危険です!」


 予想外の展開に慌ててヒジリの下へ駆け寄ろうとするリネアをダンが必死に止める。


「やれやれ、だから忠告してあげたのに。」


 その様子をジョシュアが鼻で笑いながら見やる。


「あら、もう少しできる方だと思っていたのですが……この程度ですか……?」


 未だ燃える炎を見ながらセシルが拍子抜けといった様子で呟く。

 そんな妹の様子を見かねて

「審判さん、早く結果発表してくれないかい?」


 ジョシュアがニヤリと笑い、ダンに勝敗の宣言を促す。


「こ、この試合の結果は……は、ハーメルンの―」

「ちょっと待てよ!」


 途切れ途切れに力なく宣言しようとするダンを一人の男の声が遮った。


「な、なんで……?」


 その声にジョシュアやセシル、ハーメルン側が驚愕し、


「!ヒジリさん!!」


 リネアが歓喜の声を上げる。


「なに勝手に終わらせてんだよ。勝負はこれからだろ?」


 不敵に笑うヒジリが炎の中から出てきた。

 そして、ジョシュアは信じられない光景を目の前に、驚きのあまり一歩二歩後ずさる


「な、なんであの攻撃を受けて無傷なんだ……?」


 その視線の先にはネビルとジョシュア、二人の渾身の魔法を受けたにも関わらず、無傷で平然と立っているヒジリがいた。


「無傷じゃねぇよ。そこのセシルのおかげでネビルの魔法は一瞬当たっちまったからな。」


 ヒジリは平然と身体のあちこちにある小さな火傷を見せる。


「そ、そんな馬鹿な!君は確かに―」

「ヒジリさん、あなたは確かにこの二人の攻撃を受け、実際に先程まで炎に焼かれていたはずです。一体どんな手品を使ったのか説明していただけませんか?」


 冷静さを失う兄に代わり、セシルが驚きつつも冷静さを保ち、ヒジリに説明を求める。


「その前に俺の能力の説明からしないとな。試合中はそんな余裕なかったし。」


 ヒジリが軽くおどけながら説明を始める。


「俺の能力は―エネルギー変換エナジーチェンジだ。」

「エナジー・チェンジ?」


 セシルが聞き返す。


「そう。俺が元いた世界でも、この世界でもエネルギーっていうのがあるのは知ってるか?」


 ヒジリが周りを見渡し問いかけるが誰からも答えは返ってこない。


「まぁ、知らねぇよな……。」


 ヒジリが文化に違いに苦笑いを浮かべる。


「世界の基本的な現象では、何かをするために何か別の力を使っている。―例えばこの世界で電気はどうやって作ってるんだ?」


 ヒジリが再び問いかける


「……この世界の電気は我々のような電気系の魔法を使える魔導士によって作られています。―丁度我々ブリッツ王国が得意としている産業です。」


 ヒジリが欲している回答とは恐らく違うだろうと思いつつ、申し訳なさそうにリネアが答える。


「……そ、そうか……」


 ヒジリが再度文化の違いを痛感し、頭を抱える。


「説明の仕方を変える。―ジョシュア、適当に炎出してくれ。」

「わ、分かった。―炎よ!」


 予想外の展開の上、勝負の途中で自分の能力を敵にまで説明しだすという理解できないヒジリの行動に対し、とりあえず様子見ということで大人しく指示に従うジョシュア。

 ジョシュアが詠唱すると、手に小さな炎が灯った。


「炎が燃える力 ―俺達の世界では、これを火力エネルギーと呼んでいる。」

「「「火力エネルギー?」」」

「そうだ。―それと、ダン、その炎に手を突っ込んでくれるか?」

「無理に決まってんだろ!」


 ヒジリの無茶ぶりにダンが突っ込む。


「なんでだ?」

「はぁ?そんなの熱いからに決まってるだろう!」

「そう。それが炎の持つ『熱エネルギー』だ。」

「「「熱エネルギー?」」」


 再び聞いたことのない言葉に一同が首をかしげる。


「あとは……そうだ!リネア、そこに落ちてる石ころを俺に投げてくれ!」

「は、はい。……えいっ」


 リネアは素直に近くに落ちていた石ころをヒジリに軽く投げつける。

 ヒジリはこれを受け止め


「これが『運動エネルギー』だ。」

「運動エネルギー?」

「物体が力を加えたことによってこの石ころは俺の方に飛んできた―これが運動エネルギーだ。」

「な、なるほど」


 一同はなんとか理解したようだ。


「他にも重力とか水力、それから物体を光らせる光へネルギーなんかもある。―これらを総称して俺達の世界では『エネルギー』と呼んでいた。」


 ヒジリは一度説明を切り、一同を見渡す。


「それで、結局君の能力はなんなんだい?」


しびれを切らし、ジョシュアが切り出す。


「俺の能力エネルギー変換エナジー・チェンジはこれらのエネルギーを自由に変換できる。」

「??」


 一同はチンプンカンプンといった様子である。


「分かりやすく実演してやる。―おい、ネビル、俺に魔法をぶつけてくれ!」

「わ、分かった。―灼熱地獄ファイヤー


 ヒジリのリクエストに答え、ネビルが魔法を放つ。

ライト


 ヒジリが炎がぶつかる寸前、能力を使用すると炎が消え、光に包まれた。


「これは今までに何度か見ましたが、光で炎を吸収する魔法ではないのですか?」


セシルが自分が観察し、考え出した結論の答え合わせをする。


「いや、違うな。俺はネビルが出した炎を光に変換しただけだ。」

「な!?」

「さっきの言葉を使うなら、『火力エネルギー』と『熱エネルギー』を『光エネルギー』に変換したってことだ。」

「それは光で炎を吸収したり、打ち消すのとどう違うのですか?」


 セシルがさらに問いを重ねる。


「俺はあくまでエネルギーの種類を変換できるだけだ。―つまり、エネルギーの総量―威力―とかは変えられない。でも代わりに炎をいろいろなエネルギーに変換することはできる。」

「ど、どういうことですか?」

「つまり、光にこだわらず、炎を電気や水、それから音にも変えることもできるってことだ。―まぁ、エネルギーの方向―攻撃の方向―は変えられねぇから戦闘で使う時には注意しなきゃいかんけどな。」


 セシルが音というワードで何かに思い当たる。


「そう。さっきのお前らの攻撃を受けて俺が平然としてたのは、炎の熱エネルギーを音エネルギーに変換したからだ。」


 一同はハッとし、先程の一連の出来事を思い出す。

 ネビルが放った魔法は間違いなくヒジリに命中した。―しかし直後、異様なほど大きな音が聞こえた。そして、その音はジョシュアが放った2発目の魔法の時にも全員が耳にしていた。


「で、でも確かに君は炎に包まれていたじゃないか!炎を音に変換したなら炎は消えるはずじゃないのかい!?」


 ジョシュアが納得いかないといった様子で疑問を投げかける。


「俺は炎を音に変換したんじゃない。熱を音に変換しただけだ。」

「は?どういう―」

「いや、だから炎には物体を燃やす火力エネルギーと熱エネルギーが存在してるんだって。―その熱の部分だけを音に変換したんだよ。だから炎自体は残っているが熱はない。だから炎の中にいても俺は無傷だったってわけだ。わかったか?」


 ヒジリが少し面倒臭そうに説明する。


「そういうことか……道理で代理戦争の時も僕の攻撃が全く効かなかったわけだ。」


 ジョシュアは納得し、同時に諦めたような表情で苦笑した。


「まぁ、セシルの魔法には少し焦ったけどな。―あれ、魔法の速度を上げる魔法だろ?」


 ヒジリがセシルに視線を向ける。


「!!ワタシの魔法を一発で理解するなんて……さすがワタシが見惚れた方です。」


 一瞬驚くが、すぐに歳不相応の妖艶な笑みを湛える。―兄とは違い、まだ余裕を感じさせるような表情で―


(ヒジリさんの能力にはさすがに驚きましたが……これなら予定通り……)


 だが、ヒジリはそんなセシルの表情を見逃さない。


「ちなみに、俺の能力にはこんな使い方もできるんだぜ。」


 ヒジリはニヤリと笑い、軽く地面を踏みしめる。


ザッ


「何企んでるか知らねぇけど、喧嘩売る相手は選んだ方がいいぞ?」


 一瞬でセシルの目の前まで移動したヒジリは、耳元で囁いた。


「!!」


 セシルは驚き、ペタリと尻持ちをつく。


「ひ、ヒジリ君……今のはなんだい?」


 驚き、引きつった顔で兄のジョシュアが問う。


「あー、これは俺自身の重力を俺が動くための運動エネルギーに変換しただけだ。―ちなみにこれと同じ方法でこんなこともできる。―はっ!」


ドカンッ!


 ヒジリが地面を殴ると大きな音を立て、ヒジリが拳を打ち付けた場所には半径1メートル程の地割れと地面のへこみができていた。

 それを見たハーメルン側の表情が青ざめる。


「俺の重力を俺が振り下ろした拳の運動エネルギーに上乗せした。―まぁこれでざっと3割程度の力だ。」


 ヒジリが平然と言ってのける。


「これで3割……?」


 セシル、ジョシュア、ネビルはその圧倒的な力に茫然と立ち尽くす。


「そうそう、一応テストは合格にしとくわ。だけど、別に無理して俺達の仲間にならなくてもいいぞ。ブリッツの情報を手土産に他国に助けを求めても構わん。だけど―」


 いつもと同じようにヤル気なさそうに適当な口調で話していたヒジリだが、一度言葉を切ると、


「―それが発覚し次第、俺は容赦なくお前らを殺す。」


 鋭く殺気だった目でハーメルンの3人を睨みつけ、低く冷たい声で言い放つ。


「ひ、ヒジリさん、どうしたんですか?」


 ヒジリの急な代わり様に、リネアが恐る恐る口を挟む。


「ん?お前、もしかしてこいつらが本気で俺達の下について一緒に戦おうとしてるって思ってたのか?」

「えっ?違うんですか?」


 きょとんとした表情を見せるリネアにヒジリは大きくため息をつくと、


「こいつらの狙いは俺達の情報だ。大方、この国の情報、主に俺の能力についての情報を掴み、他国に売ろうとしてたんだろ?」

「い、いやいや……さっきも言っただろ?僕達は君達と―」

「じゃあ、敗戦国のお前らの矛盾だらけの行動について説明してもらおうか。勝者の俺達が何も要求したないのに勝手に人質の交渉をして来たり、そもそも人質だと名乗る奴が武装したり、一連のやり取りの中で時折見せる余裕や反抗的な態度……他にも目につく行動は多々あった。―どうだ?説明できるか?」


 大量の冷や汗を掻き、引きつった表情でなんとかごまかそうとするジョシュアを早口でまくしたて、完全に論破するヒジリ。


「まぁ、考えたのは十中八九そこのガキだろうけどな。」


 ヒジリは未だ尻持ちをつき立ち上がれない少女・セシルの下へ行く。

 そして、自ら屈むと、俯くセシルの顎をくいっと手で持ち上げて強引に目線を合わせる。


「いくらお嬢様気取りで取り繕ったって、お前の腹黒さは隠せねぇよ。―あんまり大人を舐めるなよ!」


 そう言い捨てると、ヒジリは立ち上がり踵を返す。

 そして、再びハーメルンの3人の方へ再び振り返ると、


「それじゃあ、さっさと中に戻ろうか。―終戦交渉の続きだ。」


 先程とは一転して良い笑顔で呼びかけ、城の中へ歩いていく。


「「「は、はい!!」」」


 ハーメルン3人組は声を揃えて返事をすると、急いでヒジリの後を追う。


 そして、いつもはヒジリに突っかかるダンは今まで見たことのないヒジリの様子に茫然と立ち尽くす。


「ヒジリさんもやる時はやるでしょ?」


そこにリネアが笑顔で話しかける。


「い、いえ、私は別に……」

「普段は適当に見えますが、決して的に隙は見せません。そして、いざとなれば味方のために猛威をふるい、味方を守る。―それが霧崎ヒジリという人間です。―頼りになる方でしょ?」


 リネアが自慢げに話す。


「ええ、ずっと味方でいてくれればですが……」


 しかし、一方のダンは少し苦笑交じりに言う。その声はどこか少し震えているようにも感じる。

 そんなダンを見たリネアは一瞬寂しそうに少し表情を曇らせる。

 しかし、すぐに笑顔に戻し、


「大丈夫です!ヒジリさんは絶対裏切りません!―だからダン、あなたもヒジリさんを信じてあげてください……」


 そう言って、リネアはヒジリやハーメルンの3人を追いかけていった。


 一方、ハーメルン3人組みは……


「ジョシュア様、どうするおつもりですか?」

「決まってるだろ!全面降伏だ!ハーメルンはブリッツの傘下に降る。あんなの敵に回したら我々は一瞬で屍にされるぞ!」

「私もそれがいいかと……傘下に降れば他国から攻められても助けてもらえる可能性もありますし……。それに、あれを敵に回すくらいなら他の周辺国を敵に回した方がまだマシです。」


 ジョシュアとネビルはヒジリから少し離れた後方で小声で今後の身の振り方を話し合っている。


「セシル!お前もそれでいいね?」


 ジョシュアは振り返り、さらに少し後ろを歩いており話し合いに加わっていない妹に確認を取る。


「―さま。」


 しかし、当のセシルはまっすぐヒジリに視線を向け、何やら呟いている。


「おい、セシル!聞いてるのかい?」

「ああ、愛しのヒジリ様……。ワタシは一生あなたについていきますわ……」


 話しかける兄の声等届いておらず、うっとりとした目をヒジリに向けてずっと独り言を呟いている。


「……どうやらセシルも同じ意見で大丈夫みたいだ……」


 自分の妹が演技ではなく、今度は本当にヒジリに惚れてしまった(しかもその惚れ具合は尋常ではない様子)を悟ったジョシュアは力なく、自嘲気味に呟く。


「そ、そうですね……」


 自らが仕える2人の兄妹の悲しい様子を目の当たりにして、ネビルも諦めたような声で短く呟くことしかできなかった。


 この後、終戦交渉ではブリッツ側の意見が全て通り、セシル、ジョシュア、ネビルの3人はブリッツ王国の代理戦争部隊に組み込まれることとなり、人質の役割も兼ねているセシルはブリッツ城でリネアやヒジリと一緒に暮らすこととなったのだが……


「ヒジリ様、お疲れではないですか?ワタシがマッサージをして差し上げます♪」

「い、いや、大丈夫だ……」

「そうですか……何かしてほしいことがあったら何でも言ってくださいね!ワタシが一生ヒジリ様を支えていきますから♪」


 ヒジリは満面の笑顔で自分の腕に抱きつきべったりのセシルに四苦八苦。

 そして、厄介なことに……


「ヒジリさん、そんなところでイチャイチャしていないで早く仕事をしてください。」


 リネアがゴミを見るような目で、冷たく言い捨てる。


「い、いや別にイチャイチャとかは……」

「口答えしないでください!」

「は、はい……」


 いつの間にかリネアとの立場が逆転していた……


(いや、美少女二人に好かれて嬉しいは嬉しいんだが……)


一人からは重すぎる愛情、そしてもう一人からは予想以上の嫉妬・・・・・


(まさかハーレムってのがこんなに大変だとは……)


ヒジリはハーレムの負の部分を一身に感じ、一人途方に暮れた……



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