最強の敵 ヴィント王国戦! 2
「風上が、二人…だと…?」
自信の必殺技、電気状態での攻撃を躱され目を丸くするヒジリ。
そして、何が起こったのか把握するため、距離をとってみると信じられない光景がヒジリの目に映った…
目の前に二人の光が丘瞬…。
ヒジリはその信じられない光景に驚愕の表情を浮かべる。
(一体何が起こった…?)
距離をとりながらも瞬から目を離さず、観察し、頭をフル回転して考察する。
すると、膝をついていた方の瞬がすぅっと消えた。
「…なるほど。残像か…」
ヒジリはその現象から一瞬にして正解を突きとめた。
「なるほど。そう言えば貴様のその能力は思考スピードも格段に上昇するんだったな」
自らの技の正体がすぐさま解明されたにも関わらず余裕の表情を見せる瞬。
そして、技の正体を言い当てたにもかかわらず焦りの表情を浮かべるヒジリ。
「その様子だと、今この状況がどちらに優位かちゃんと分かっているみたいだな」
「…お前、逃げに徹する気か…?」
ヒジリの額に冷や汗が浮かぶ。
(おそらく、あの技はあらかじめ移動する座標を決めておくことで再計算にかかる時間を省略してるんだろう…そうじゃなきゃ電気を使った俺の動きに対処できるはずがねぇ。)
このやり取りを見ればどちらが優勢なのかは明白である。
「その欠陥能力のせいで無駄に頭だけは回るみたいだな。――別に逃げ一辺倒になるわけじゃない。貴様に隙があれば攻撃もする。」
逆に瞬は既に勝ち誇ったような表情を浮かべている。
「い、一体、どういうことですか…?」
この状況が理解できていないリネアは心配そうにヒジリに視線を送る。
「別にこいつは攻撃する必要なんてねぇんだよ。」
「え?」
リネアの疑問に答えるヒジリだが、まだリネアは理解しきれていないらしい。
「余裕がない彼に変わって俺が代わりに説明してあげよう。」
今まで黙って笑顔で二人の戦いを観戦していたグレコ=ヴィントが解説役を買って出た。
「霧崎君の能力については君も知っているだろう?」
「は、はい…」
「彼の今の状態は正直言って、最強だよ。誰も太刀打ちできない。――だけど、そんな彼の能力には大きな欠点がある。」
「…制限時間…」
「その通り!そして、その対処法は簡単だ。」
「ま、まさか…時間、稼ぎ…?」
「正解。まぁ、瞬のあの技も永遠に使い続けられるわけじゃないけど、少なくとも霧崎君の能力よりは長持ちする。――そして二人の様子を見る限り、避け続けるだけならうちの瞬が有利みたいだ。」
「そ、そんな…」
グレコの口から聞かされる厳しい状況にリネアは言葉を失う。
そして、ただただ祈るようにヒジリを見守る。
「安心しろ、リネア。まだ勝算はある。」
「まだ戯言を言うか。」
「いやいや、俺は本気だぜ。まぁ、勝算は五分五分だな。――でも、正直この方法だけは使いたくなかったんだがな…」
そう言って、ヒジリは悔しそうで、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「チッ、どうせハッタリに決まってる!――連続瞬間移動!」
瞬が瞬間移動の応酬で先に仕掛ける。
「運動」
すかさずヒジリも反撃する。
高速移動で瞬の背後をとり…
「何度やっても同じ――ぐあっ!?」
先程と同じように繰り出される拳をあらかじめ計算しておいた座標に自動で移動できるはずだった…
しかし、移動する前に瞬の右頬に衝撃と激痛が走った。
「…何が起きた…?」
次の瞬間。瞬は数メートル飛ばされ、地面に倒れていた。
何が起きたか理解できない様子で、唖然としている。
「何を驚いてんだよ。何かお前は俺の技を勘違いしてるみてぇだが、俺の技はスピードを高めるものでも、攻撃力を上げるものでもねぇ。――思考・判断のスピードを高めるものだ。」
今度はヒジリが得意気な表情を浮かべる。
「…なるほど。どの技を使うか、だけじゃなく、『使わない』選択肢もあるってわけか。」
ヒジリの言葉をヒントに瞬も状況を理解したらしい。
「え?ど、どういうことですか・・?」
未だ状況が分からず、おろおろするリネア。
「別に彼は特別なことなんて何もしてない。ただ殴っただけだ。」
「え?殴っただけ…?」
「彼は人間離れした思考・判断スピードで常に先手を取れる。だけど、いくら先手をとったからって技を使用してから発動するまでの時間はかかる。彼はそれをなくしたんだ。」
グレコの説明通り、ヒジリがとった行動は至ってシンプルだった。
先程までの攻撃では、最初瞬の背後をとる際には高速移動を使用し、攻撃する際、重力→運動エネルギーに変換した破壊力抜群の拳を繰り出していた。
しかし、今の攻防では高速移動はそのまま使用し、攻撃する際は『何も能力を使用しなかった』のである。
「つまり…今の攻撃はただのパンチだったってことですか…?」
「その通り。まぁ、あの威力のパンチを“ただのパンチ”と呼ぶのかは別問題だがね。」
解説するグレコの表情がわずかに歪む。
「まぁ、ただ殴ってるだけだからダメージは少ねぇが、ちりも積もれば山となるって言うしな。」
ヒジリが再度攻撃の態勢に入りながらニヤリと笑う。
「なるほど。つまり耐久レースってわけか…」
瞬の方もニヤリと笑う。
ヒジリの能力が切れるのが先か…瞬がヒジリの攻撃に耐えられなくなるのが先か…
最後まで勝敗の行方は分からなくなった。
「じゃあ、時間もねぇしさっさと行かせてもらうぜ!――運動!」
そう言って、先にヒジリが動き出す。
「貴様の軟弱な攻撃なんかいくら繰り出しても無駄だ。――連続瞬間移動!」
すかさず瞬も動き出す。
ヒジリの高速移動…瞬の瞬間移動…そしてヒジリの打撃…
同じような攻防が数秒の間に何度も繰り返される。
(どうか、ヒジリさんが無事で終われますように…!!)
そんな二人の攻防を祈りながら見つめるリネア。
ヒジリの高速移動…瞬の瞬間移動…そしてヒジリの打撃…
目で追うのも難しい程のスピードで二人の攻防は尚繰り返される。
この攻防は永遠に続くかのように思われる程に…
しかし、終わりの時はすぐに訪れた。
「ハァハァ…ようやく倒れたか…。」
「…クソッ…」
どちらも既にボロボロで疲弊しきっている。
ヒジリは顔を真っ青にして、目は虚ろの状態。
そして、瞬は顔や体のあちこちに打撃を喰らい、顔は腫れあがり、服はボロボロでそこら中に血が飛び散っている。
そんな中、最後に立っていたのは…
「そんな…ヒジリさん…」
「さすが俺の一番の家臣だ、瞬!」
立っていたのは光が丘瞬だった…。
ヒジリは片膝をついてなんとか意識を保っている。
「俺にこれだけ善戦したんだ。『お前は弱くなった』っていうのは訂正してやる。」
肩で息をしながらヒジリの方へ近づく瞬。
「別にお前の評価なんかどうでもいいっつーの…」
膝をつき、虚ろだが尚戦意の籠った目で瞬を見据えるヒジリ。
「さ、最後に敬意を持って、全力で倒してやる…」
そして、二人の距離はゼロ。ヒジリと瞬、強者二人の視線がぶつかる。
「…好きにしろ…最後に俺がお前を光輝かせてやるよ。」
「フン…俺の、勝ちだ!」
そう言って、瞬は振り上げた拳を力いっぱい振り下ろす…
「ヒジリさん!!」
バシッ
リネアが目を瞑り、悲鳴を上げる。
「…呼んだか、リネア?」
「…え?」
「…なんだと!?」
恐る恐る目を開けたリネアの目に、次に映った光景は…
「…なんだと?」
瞬の拳をヒジリが受け止めている瞬間だった。
「…貴様、どういうつもりだ?」
驚き、そして怪訝な表情を浮かべる瞬。
そして、その顔を見てニヤリと笑うヒジリ。
「悪いな。勝ったのは俺だ。」
「は?何を――」
「光」
「!?ぐ、がぁ!?」
刹那、瞬とヒジリの二人を目がつぶれる程の強烈な光が覆う。
光の中からは瞬の苦しむ声だけが微かに聞こえてくる。
「おい!瞬、どうした!?」
グレコが取り乱し叫ぶ。
すると数秒後、光が和らいでいき、一つの影が出てきた。
「悪いな。すぐにあいつを手当てできる奴を呼んでくれ。」
フラついた足取りで出てきたのは…
「ヒジリさん!!」
そして、こちらに歩いてくるヒジリの背後には瞬が横たわっている。
「あいつは今、心肺停止状態だ。早く手当てしてやってくれ。」
「霧崎、貴様!!」
グレコが怒りの形相を浮かべ、ヒジリを睨みつけるも、瞬の容体を聞いて駆け寄ろうとする。
しかし…
「悪いが今のは審判に頼んだんだ。――お前を倒さないとこの戦争が終わらんからな。」
「ぐあっ…」
ヒジリがすれ違いざまに鳩尾に一発拳を叩きこむと、グレコはその場に倒れこむ。
「おい、審判…早く試合のコールと瞬の手当てをしろ…!!」
『は、はい!!き、救護班!早く!!』
審判が慌てて指示を出すとどこからか医療スタッフが駆け付け、心臓マッサージなどの応急措置を行い始めた。
『た、只今の結果を持ちまして…ヴィント王国対ブリッツ王国…勝者は、ブリッツ王国です!!』
「そんな…嘘だろ…!?」
結果を知らせるアナウンスを聞き、まだ余力を残した様子のハウアーが茫然と立ち尽くす。
「ハァハァ…やったんだね…ヒジリ君…」
「さすがヒジリ様です…!!」
ジョシュアとセシルはフラフラながらも何とか無事のようだ。
「まぁ、敵を油断させて時間稼ぎに徹した僕らの働きも忘れてもらっちゃ困るけどね。」
ジョシュアが肩で息をして、フラフラになりながらもニヤリと笑う。
元々勝算が低いと計算していたジョシュアとセシルは必要以上に弱いフリをして敵を油断させ、本気を出させず、ヒジリが敵を倒す時間を稼ぐことに専念していた。
最後は本気でフラフラだったが、なんとか作戦を完遂した彼らにはこの戦いの殊勲賞を与えられても誰も文句は言わないだろう。
「よっしゃー!!さすが隊長!」
「遂に世界一の大国を倒したぜ!」
「これでリネア様の結婚も取り消しだ!」
ダンやネビルに率いられた他の兵士達も最後まで立っている者は少ないが、どうやら死者は出ていないようだ。
「よしっ!なんとか命の危機は脱したぞ!!」
そして、心肺停止状態だった瞬の下からは治療にあたっていた医療スタッフの歓喜の声が聞こえてきた。
「へっ…なんだかんだしぶとい連中だな…」
「ひ、ヒジリさん!?大丈夫ですか!?」
悪態をつきながらも既に電気の効果が切れ、倒れそうになったところをリネアに支えられるヒジリ。
「あぁ、大丈夫だ…。まぁ、最後はかなり無理し過ぎたな…」
「最後…一体何があったんですか…?」
「単純なことだ…あいつの持ってる運動エネルギーを全部光エネルギーに変換したんだよ…簡単に言えばただの人殺し技だ…」
ヒジリは自虐的な笑みを浮かべながら説明した。
人間の持っている運動エネルギーを全て停止させる――それはつまり、手足の動きをはじめ、内臓の各種、当然心臓の動きも血液の流れも停止させるということである。
「で、でも…あれは私を守るため、ブリッツ王国を守るために仕方なくやったことですし…最後は瞬さんも助かったじゃないですか!」
必死にフォローするリネア。
「ありがとな。だけど…お前に言ってなかったけど、最後の技…あれが元の世界で俺が『化け物』って呼ばれてた一番の原因なんだよ。まぁ、触るだけで敵を殺せるんだから、そりゃ敵からすれば化け物にみえただろうな。」
ヒジリが遠い目をして自虐的に笑う。
「――せん。」
「え?なんだ?」
「ヒジリさんは化け物なんかじゃありません!!」
リネアが目に涙を浮かべながらヒジリに向かって力いっぱい叫ぶ。
「元の世界でどう呼ばれていたかなんて関係ありません!私のために、ブリッツ王国のために必死になって、命懸けで戦ってくださるヒジリさんが化け物なわけありません!!」「リネア…」
「だから、ご自分のことを責めるのはやめてください…。あなたは私の、救世主なんですから。」
リネアはにこっと優しい笑顔を向ける。
目を丸くしながらリネアの言葉を聞いていたヒジリだが、リネアの笑顔を見て自然と自分も笑っていることに気付いた。
「リネア…ありがとう…」
そして、ヒジリは小さく呟いた。
「え?なんですか?もう一回言ってください!」
「別に。今回の報奨は覚悟しとけよって言ったんだよ。」
何か期待の眼差しを向けるリネアにヒジリははぐらかし、意地悪な笑みを向ける。
「もう…。分かってますよ。今回は私が差し上げられるものは何でも差し上げるつもりですから。」
「なるほど。そりゃ頼もしいな…。そうだな、俺は…」
そこで突然ヒジリの言葉が途切れる。
そして、リネアの肩につかまっていた手から力が抜け、ヒジリは地面に落ちる。
「…え?ひ、ヒジリさん!?ヒジリさん!!しっかりしてください!!」
慌てて屈んでヒジリの体をゆする。
そして、必死に彼の名前を呼び掛ける。
しかし…叫んでも叫んでも、彼が目を開けることはなかった…。




