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宣戦布告


「はぁ……」


 ジョシュアとの話し合いの翌日、ヒジリは自室で一人溜息をついていた、


「あいつと手を組んだのはいいが…暇だ…」


 昨日ジョシュアと打倒ヴィント王国を宣言したものの、具体的に何をするかは決めていない。

 ジョシュア曰く、数日のうちに大きな動きがあるだろうから、それまでは特にやることはない、ということらしいが…


「何もせず待ってるのもなぁ…」


 そう思って、何かやるべきことを思案するヒジリ。

 戦闘訓練…正直戦闘力は十分足りているし、そもそも急に強くはならない。

 ヴィント王国の調査…ジョシュアが既に行なっているらしい。

 通常の仕事…はっきり言って、今の状態では全く手につかない。

 リネアに自分の気持ちを伝え……


「いやいや!別に好きとかそういうわけじゃ――」

「やぁ、どうしたんだい?もしかしてリネアちゃんへのプロポーズの言葉でも考えてたのかい?」


 ヒジリが一人悶々としていると、ジョシュアがニヤニヤしながら声をかけてきた。


「だ、だから、俺は別に――」

「来たよ。」


 ジョシュアの冷やかしに、必死に反論しようとするヒジリの言葉を遮り、ジョシュアが真顔になる。


「…来たって、まさか…!?」

「そのまさかだよ。――今ヴィント王国一行がこの城に到着してリネアちゃんの下へ通されたらしい。」

「!!」


 ジョシュアの言葉に目を見開き、驚愕の表情を浮かべるヒジリ。

 確かに『数日のうちに』とは聞いていたが、予想していたより早い敵の来訪に驚かずにはいられない。


「おいおい、さすがに来んの早過ぎだろ。やっぱりお前、ヴィントのスパイとかじゃないのか?」

「残念ながら違うよ。もし僕がスパイならこんな疑われるようなタイミングで君に話しを持ちかけたりしないよ。」

「まぁ、とりあえずそういうことにしといてやるよ。――俺達もさっさと行くぞ!」

「了解。」


 そんなやり取りをしながら、二人は部屋を出ると、二人揃って王室へと向かっていった。



※※※※


ガチャ


「入るぞ。」

「お邪魔しま~す。」


 ヒジリとジョシュアはノックも無しに王室のドアを開け、無遠慮に入室する。


「貴様ら!遅れた上にその態度は何だ!」


 既に中にいたダンの説教が響く。


「はいはい…」


 そんなダンとのやり取りもすっかり慣れてしまったせいか、ヒジリは適当に返事をしてあしらう。

 部屋を見渡すと、リネアが神妙な表情で玉座に座っている。

 そして、その浮かない表情の原因だと考えられる三人の人物…


「大体貴様らは――」

「おっさん、客人の前で説教なんて見っともないぞ。――それで、あんたらは誰だ?」


 ヒジリはダンの説教を遮り、こちらの様子を黙って眺めていた客人に鋭い視線を向けた。


「いやいや、失礼。俺達はヴィント王国の者だ。俺は、ヴィント王国国王のグレコ=ヴィントだ。よろしく。」


 三人の男のうち、中央にいる男が気さくに返答する。


「へぇ。あんたがあのヴィルド最大の国、ヴィントの大将か。大国の国王がこの国に何か用か?」


 ヒジリは挑発的な口調で返す。

 刹那。


「テメェ、陛下に向かってその口の利き方は何だ?」


 紫色の短髪男が電光石化の如くスピードでヒジリに詰め寄り、喉元に権の切っ先を突きつけた。


「おいおい、ハウアー。俺達は挨拶に来たんだ。そんな喧嘩腰な態度は失礼だろ?」

「チッ!分かったよ…!」


 落ち着きはらった態度で宥めるグレコに紫の短髪男――ハウアー――も渋々従い、剣を降ろし、元いた場所に戻っていく。


「挨拶だと?とてもそんな雰囲気には思えないんだがな。」


 ヒジリが再びグレコに鋭い視線を向ける。


「ひ、ヒジリさん!」


 そんなヒジリの態度にリネアが焦り、慌てて制止しようとするが、ヒジリは止まらない。


「はっきり言えよ。『ヴィント王国はブリッツ王国に喧嘩を売りに来ました』ってな。」

「テメェ!!」


 ヒジリの挑発に再び襲いかかろうとするハウアー。

 しかし、グレコに手で制され、動きを止める。


「う~ん…君はブリッツの代理戦争部隊隊長の霧崎ヒジリ君だよね…何か誤解してるのかもしれないけど…俺達は本当に挨拶に来ただけなんだよ。――リネア陛下との結婚の挨拶にね。」


 グレコは言い切り、ヒジリを試すような視線を送る。


「やっぱり喧嘩売ってんじゃねぇか!」

「ヒジリさん!その方を挑発してはいけません!!」


 ヒジリが一層眼光を鋭くすると、今まで俯き黙っていたリネアが制する。


「やれやれ、リネア陛下。どうやら君の家臣は元気が有り余っているみたいだね。その有り余った元気を発散できる場でも設けた方がいいのかな?――例えば代理戦争とか、さ。」


 そんなリネアに対して、今度はグレコが皮肉交じりに挑発する。


「す、すみません!しかし、戦争だけは…」

「おい、リネア!それじゃあ、お前は――」

「いいんです。国王を継いだ時から遅かれ早かれこういったことは覚悟していましたから…」


 ヒジリの言葉を最後まで聞かないように、あえて途中で遮ったリネアは寂しそうに呟いた。

 それを見たヒジリの手にも力が入る。


「――いいのかよ。」

「え?」

「お前はそれでいいのかよ!!」


 ヒジリがリネアに向かって大声で叫び、目で訴えかける。

 ヒジリの真剣な眼差しにリネアは目に涙を浮かべる。


「私だって…私だってこんな形で結婚なんてしたくないです!好きな人と結婚したいです!!でもヴィント王国は大国で…ブリッツ王国を守るためには…」


 リネアが涙でくぐもった声で、途切れ途切れに自分の気持ちを吐露する。


「それならやることは決まってんだろ。」

「でも、それではこの国が――」

「関係ねぇよ。王様の願いを叶えるのが家臣の仕事だろ?」


 リネアの言葉を遮り、ヒジリが笑顔を向ける。


「ヒジリ君の言うとおりだよ。もっと僕達を頼りなよ。」

「左様。陛下のためならこの命惜しくはありません。」


 ジョシュアとダンもヒジリの意見に同調する。


「皆さん…」

「それに、救世主ならこれくらい簡単にやってのけねぇとな。――俺はブリッツの、そしてお前の救世主なんだろ?」


『その代わりにあなたも私を助けてください。』『ようこそ、救世主様。』

ヒジリは最初にリネアに召喚された時に言われたセリフを持ちだし、意地悪く笑いかける。


「――はい!!」


 リネアは袖で涙を拭うと、家臣たちを見渡し、笑顔で返事した。


「やれやれ、どうやらさり気なく俺はフラれてしまったらしい。」


 一連の様子を黙って見ていたグレコがわざとらしく大きなため息をつく。


「――君は俺との婚約の話を断った――そう解釈していいんだね?」


 そして、真剣な表情で問う。まるで、最後通告をするかのように…

 しかし、最早それでもリネアの気持ちは固まっている。


「はい。そう捉えていただいて構いません。」

「なるほど。仕方がない。」


 少し強張った表情をしながらも、強い意志のこもった目でリネアがはっきりと答える。


「やっぱり欲しい物は力で勝ち取るしかないみたいだね。――我々ヴィント王国は只今を持って、ブリッツ王国に宣戦布告する!」


 グレコ=ヴィント国王がはっきりと宣言する。


「俺達が勝ったら、ブリッツ王国はヴィント王国に併合。リネア国王は俺の妻となる。その代わり万が一ブリッツが勝てばヴィント王国はブリッツ王国の傘下に入るとしよう。――これでいいかい?」

「ええ、構いません。」


 グレコが出した条件を承諾するリネア。


「霧崎ヒジリ君、君もこの条件でいいかい?」

「ああ、構わん。」

「俺達が勝ったら、君は俺の側近にしてやるよ。そして、リネアとのラブラブぶりを見せつけてやろう。」

「言ってろ。逆にブリッツが圧勝してお前の前でリネアとイチャついてやるよ。」

「ちょ、えぇっ!?ヒジリさん、それって…わ、私としては嬉しいんですが…さすがに人前で…」


 グレコとヒジリがお互い火花を散らし、挑発し合う。

 そして、ヒジリの口から出た予想外の言葉にリネアは顔を真っ赤に染め、おどおどもじもじしている。


「それじゃあ、交渉も決裂したことだし、俺達はここら辺で失礼させてもらうよ。次会う時は戦場だ。せいぜい覚悟しておいてくれ。」

「テメェらなんて俺一人で充分だ。特に霧崎ヒジリ。テメェは確実に殺す!!」


 部屋を後にするグレコの後を追い、ハウアーも殺気を振りまきながら退出していった。

 そして、もう一人、


ドカッ


「テメェ、いきなり何しやがる。」


 ヒジリはいきなり飛んできた強烈な上段蹴りを腕で防ぎながら、蹴りを繰り出してきた黒髪の男に問いかける。


「霧崎ヒジリ、今のお前にかつて『最強の能力者』、『化け物』と呼ばれた時の力はない。」

「なんだと?」


 黒髪の男、蹴りを下げると無表情のまま言い放つ。

 ヒジリは低く鋭い声で睨みつける。

 敵の挑発に乗ったわけでは決してない。

『最強の能力者』、『化け物』――どちらもかつての世界で呼ばれていた名である。

 しかも、この口ぶり…ヒジリを昔から知っているかのような言い方である。


「お前は誰だ?」

「光が丘瞬。――君と同じ異世界からこのヴィルドに召喚された人間だ。」

「異世界人…だと…?」


 黒髪の男――光が丘瞬――の言葉に驚愕の表情を浮かべるヒジリ。

 自分以外に初めて目の当たりにする異世界人を目の前にし、驚きを隠しきれない。


「君の時代はもう終わった。次の代理戦争で俺が直接分からせてやる。」


 瞬はそう言い残すと、踵を返して部屋を出ていった。


(俺以外の異世界人…それに今の蹴り…次の戦争は一筋縄じゃいかなさそうだな…)


 ヒジリはさっき蹴りをガードし、真っ赤に腫れあがっている腕を見つめる。


(あいつに加えて、ハウアーとかいう奴もなかなか強そうだったしな…こりゃ、ジョシュアの言うとおり、マジで俺一人じゃ厳しそうだな…正直、こっちがかなり不利だ…)


 ヒジリはヴィント王国一同が出ていったドアを眺めながら苦笑する。

しかし、


「まぁ、でも負けるわけにはいかねぇよな。」


 ダンやジョシュアに囲まれているリネアの笑顔を眺めながら、静かに決意を固めた。


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