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「仲間」への信頼~切り札の弱点と封印

「いいか?我が国の未来はこの作戦にかかっている。」

「はい、心得ております。」


 とある一室で、大きな椅子に腰かけながら自らの部下に言い聞かせる初老の男。

 その初老の男に跪き、頭を下げる二人の少年少女。


「お前達も十分に知っているとは思うが、霧崎ヒジリはかなりの強敵だ。ハーメルン、ヴァッサーといった我々と同等の国相手にたった一人で勝利した実績を持った化け物だ。」


 跪きながら初老の男の言葉を聞く二人の額からは脂汗が滲み、思わず唾を飲む。


「だが、全く付け入る隙がないわけではない!」


 初老の男が力強く言い放ち、さらに続ける。


「勝機は十分にある。――しかし、今回の作戦は恐らく命懸けになるであろう。だが、お前達にしか頼めんことだ!……引き受けてくれるか?」

「はい、お任せを!」

「必ずや、霧崎ヒジリ、そしてブリッツ王国を葬り去り、我がプランチェ王国に平和と安寧を取り戻してみせます!」


 二人の初老の男――プランチェ国王の問いかけにそれぞれ力強く答えた。


「任せたぞ、二人とも。」


 そんな二人の覚悟に力強く、しかし少し申し訳なさそうに頷いた。



****

「ひっ!!助けてくれ!!」


 数人の敵兵が背を向けて逃げ出していく。

 そして、周りにはそこかしこに多くの敵兵が倒れている。


「チッ…こんな技使わせんじゃねぇよ…」


 俺は先程の戦闘で「あの技」を使った影響でくらくらする頭を押さえ、ふらつく足に鞭を打って、自分が助けた者達の無事を確認するため歩きだす。


「おい、大丈夫か!?」


 半壊した家の影で身を隠していた数人の男女に声をかける。

 表情は少し怯えている様子だが、見た感じ大きな負傷はなさそうだ。

 しかし、


「――もの」


 その中の一人が小さく呟いた。


「あ?なんだって?別に感謝の言葉なんていらねぇぞ。たまたま俺も同じ奴らに絡まれただけだ。」


 俺はそう悪態をつきながら聞き返す。


「この化け物!!どうせ俺達もあいつらと同じように殺すんだろ!!」

「そうよ!あんなの人間の動きじゃないわ!!」

「私知ってるわ!こいつみたいな「危険物」は暴走すると誰かれ構わず襲い掛かって皆殺しにするんでしょ!?」


 助けたはずの人達は俺が近づくと怯えた様子で後ずさりながら必死に俺を睨みつけ、罵倒する。

 ――追い込まれた人間の最後の抵抗と言わんばかりに…。


「――そうか…お前らもそうか…」


 俺にとってこういったことは初めてじゃなかった。

 国の方策によって超能力者は「化け物」と呼ばれ忌み嫌われる存在となった。

 それからは国から追われる傍ら、こんな出来事が何度も続いていた。

 戦争中は英雄扱いしていたくせに、必要なくなれば簡単に手のひらを返す。

 そんな人間の本性をこの数カ月の逃亡生活の中で俺はとことん目の当たりにしてきた。

 再び、目の前の人間達に目を向けると、相変わらず凄まじい形相でこちらを睨んでいた。


(少し前まで『誰でもいいから助けてくれ!』って叫んでたくせによ…「誰でも」の中に「化け物」は入ってないってか?)


 俺は一つ溜息をつくと、黙って踵を返した。


「…あんたらの要望通り俺は退散するとするよ…」


 諦めの表情を浮かべながらその場を去った。

 少し歩いた後ふと後ろを振り返ると、俺が助けたはずの男女数人はまだこちらを睨んだままだった。



****

「――はっ!?」


 目を覚まし、急に飛び起きるヒジリ。


(…夢か…)


 額の汗を拭い、先程まで見ていた悪夢というべき過去の出来事を思い出す。


「嫌な夢見ちまったな。『あの技』使った影響か?――ん?」


 一人ごとを呟きながら自分の下腹部に重みがあることに気付く。

起きたばかりの目をこすり、視線を自分の下の方へずらすと…


「…おい、夜這いのつもりか?」

「そ、そ、そんなつもりでは……!!」


 ベッドに横たわる自分の体の上に乗っかっている少女――リネア=ブリッツに冗談交じりに声をかけるヒジリ。

 リネアはというとヒジリの予想通り、これでもかという程顔を真っ赤に染めて、慌てふためく。

 すぐにヒジリの上からどこうとするものの、焦ってベッドから転げ落ちるリネア。


「いっつつ…ヒジリさん、大丈夫ですか?」

「…とりあえずお前が大丈夫か?」


 お尻のあたりをさすり、涙目になりながらもヒジリの心配をするリネア。

しかし、逆にヒジリに憐みの目を向けられる。


「わ、私は大丈夫です!そ、それより、ヒジリさんは大丈夫なのですか?」


 まだ赤みの引かない頬を少し膨らませ、恥ずかしそうに少し俯き、上目遣いでヒジリに問いかける。


「お、おう。」


 数日しっかり話していなかったからか、リネアの初々しい仕草を久しぶりに目の当たりにしたヒジリも少し頬を赤らめ、目を反らしながら答える。


「それならよかったです…急に倒れられたので、みんな心配していたんですよ?」


 ヒジリの返答を聞くと、リネアは安堵した様子で柔らかい笑顔を向ける。

 その様子から本当に自分を心配してくれていたと感じるヒジリ。

 改めて周りの様子を眺めてみる。

 目の下にクマを作りながら笑うリネア。その手には濡れタオルが握られている。

 おそらく、先程自分の上に乗っていたのはタオルの交換をするためだろう。

 さらにベッドの周りには高級そうな女性向けの毛布、差し入れの果物等多くの人物が自分の見舞いに訪れていたことが窺える。


「リネア、ありがとうな。」


 そんな光景に少し目頭を熱くさせながら礼を言うヒジリ。


「これくらい当然のことです。それにこれくらいでは全然恩を返せていません。」


 そう言って苦笑するリネア。


「そんなことねぇよ。お前には元の世界で命も救われてるし、それに――。」


(避けるわけでもなく、怖がるわけでもなく、そして利用するわけでもなく…ただ『人間』として扱い頼ってくれる。俺にとってはそれだけでも……。)


 ヒジリは途中で言葉を切ると、愛おしそうな目でリネアを見る。


「でも、ヴァッサー王国との戦いで使用された技は何だったのですか?」

「!!」


 一転してリネアが真面目な表情で疑問を投げかける。

 ヒジリにとっては切り札であると同時に元の世界で「化け物」と呼ばれるきっかけにもなった技でもある。


「いや、あれは…」


 言葉を濁すヒジリ。

 既に技を見せている以上、技の説明をしたからといって何かが変わるわけではない。

 しかし、ヒジリにとって、元の世界で「化け物」と呼ばれるきっかけにもなったこの技は何気なく話せる物ではなかった。

 そんな様子を察し、リネアは慌てて先程の質問を取り下げる。


「す、すみません。話しにくいのであれば話さなくても大丈夫です。――でも――」


 リネアはそこで一旦言葉を切ると、真剣な目で続ける。


「でも、あの技はできれば今後使用しないでください。」

「!?」


 リネアの予想外の発言にヒジリは目を見開き驚く。

 普段遠慮がちなリネアのことだ。てっきり「あまり気にしないでください」というような言葉でお茶を濁すのだとばかり思っていた。


「…それは、あの技を使った俺が怖かったからか…?」


 ヒジリは俯き、そう呟くように問いかけると奥歯を噛む。


「いえ、そういうことではありません。」

「じゃあ――」

「私は、これ以上ヒジリさんに無茶をしてほしくないのです!」


 リネアは一段と声量を上げて、力強く訴える。


「え?」

「ヒジリさんはこの世界に来られて以降、ずっと私達のために命懸けで戦ってくださいました。恥ずかしながら今まではヒジリさんのあまりの強さに気付けませんでしたが、先日ヒジリさんが倒れられて初めて気付かされました。――私達はヒジリさんにばかり負担をかけ過ぎなのではないか、と。」

「別にあれくらい――」

「私もヒジリさんの力になりたいのです!」


 ヒジリの言葉を遮り、リネアが力強く言い放つ。


「今までヒジリさんに助けられる度に何もできない自分を歯がゆく思っていました。頼りっぱなしのこの関係ははたして「仲間」と呼べるのか、と……そして、その思いは今回の一件でさらに強くなりました。――もう負担をかけるだけの存在にはなりたくないです!私も、一緒に戦わせてください!!」


 リネアは思いっきり頭を下げる。

 その様子に目を丸くするヒジリ。


(「仲間」か…本気でそんなこと言われるのはいつ以来だろうな…)


 ヒジリはふっと笑い、


「それじゃ、お言葉に甘えるとするか。――ありがとな。」

(まぁ、空回りになりそうな気もするがな…)


 下げ続けるリネアの頭を優しく撫でる。


「それと、やっぱりこの前の俺の能力については説明しなきゃな。みんなに。」

「いいんですか…?」

「別に減るもんじゃねぇし。それに――「仲間」には隠し事はなしだろ?」

「ヒジリさん…」

「分かったならみんなをここに呼んできてくれよ。」

「は、はい!」


 ヒジリの返答にリネアが満面の笑みで返事をするとダン達を呼ぶため、一旦部屋を出ていった。



****

「なるほど。あの技はそういう仕組みになっていたのか…」


 ダンが感嘆の声を上げる。

 ヒジリはリネアによって集められたメンバーに先日のヴァッサー戦で使用した自分の能力について解説していた、

 ベッドの上のヒジリを囲むようにリネア、ダン、セシル、ジョシュアの4人が並んでいる。


「ダン君、君本当に理解できてるのかい?」


 妙に納得顔のダンに、ジョシュアは面白半分にからかう。


「わ、わかっているに決まっているだろう!」


 答えるダンの焦り様からあまり理解できていないのは明白である。


「別にそんなに複雑な技じゃない。」


 そんなダンの様子を察してヒジリがもう一度説明をする。


「あれは簡単に言うと、強制的に判断のスピードを速める技だ。――ダン、条件反射ってのは知ってるか?」

「馬鹿にするな!それくらい知っておるわ!」

「そりゃよかった。まぁざっくり言うと、意識せずとも身体が勝手に動くってやつだ。言うまでもなく意識的に身体を動かすより動くまでの時間は短縮される。――俺が使った『電気(エレクトリック)』は最高で条件反射の10倍の速さで判断し、体を動かすことができる。」


 二度目の説明にも関わらず、やはり実感を持てていない様子の一同。


「しゃあねぇ。実際に見せてやるよ。」


 そんな一同に溜息をつき、ヒジリが能力を発動を試みる。


「ひ、ヒジリさん!」

「最低限に抑えれば少しくらい問題ねぇよ。」


 心配そうな表情で注意するリネアをやんわりと制して、再度能力を発動させる。


電気(エレクトリック)


 右手で自らの額を覆いながらそう詠唱する。

一同が目を凝らすと、ヒジリの右手に静電気のような微弱な電気が流れている。

 バチバチと遠くからでもはっきり視認できた前回使用時に比べるとかなり威力が制限されているのが分かる。


「じゃあ、誰でもいいから攻撃してきてくれ。」

「それなら――なっ!?」


 ヒジリが言った瞬間に殴りかかったダン…

 だがその右拳は“振り上げられる前に”ヒジリに抑えられていた。

 さらに…


「やれやれ、どうやらその能力相当なものらしいね…」


 苦笑交じりに呟いたのはジョシュア。

 繰り出そうとした拳はダンのように抑えられていないものの振り上げようとしたまま固まっていた。

 代わりに、彼の眼前には既にヒジリの拳が寸止めされていた。


「事前に攻撃を読んでいた、というものとは少々違いますわね…」


 セシルが驚きながらも冷静に考察する。


「セシルの言うとおり、別に俺は攻撃を予知したわけじゃない。ただ攻撃されるのを見て、対処しただけだ。――まぁ、簡単に言うと”初動”が速くなったってことだな。」

「初動?」

「俺は電流を頭に流し込むことによって電流と同じスピードで脳からの伝達速度を行うことができる。脳から神経への命令伝達の速度が上がればその分、判断してから動くまでの時間が短縮される。それによって、常に相手の先手を取れるってわけだ。」


 実際に能力を目にしたこともあり、今度は一同全員が反則級とも言えるヒジリの能力に目を丸くする。


「これは想像以上の能力ですね…」

「ふん、小僧の割にはよくできた能力だな!」

「さすがワタシの愛した御方です。」


 リネア、ダン、セシルの三人が驚きつつも好意的な感想を述べる。

 しかし、


「確かにこの能力はすごいね。多分この能力を使えば無敵なんじゃないかな?だけど――」


 賛辞を送りつつもジョシュアは一旦言葉を切り、


「だけど、こんなすごい能力”代償”も相当すごいんじゃない?」


 ジョシュアの指摘に他のメンバーも静まり返る。

 そして、一同もその代償について一瞬で理解する。


「さすがジョシュア、目ざといな。」


 そんな様子を見て、ヒジリは苦笑交じりに切り返す。


「お前らの想像通り、今俺がベッドの上にいるのはその代償のせいだ。」


 全員が続くヒジリの解説に息を吞む。


「この能力の代償…いや副作用と言った方がいいか。この能力を使うと脳に相当な負荷がかかる。簡単に言うと、頭を使い過ぎて脳がパンクするってことだ。」

「そんな…それじゃあこのまま使っていたら…」

「最悪二度と目覚めないってこともあるだろうな。まぁ、限界に達する前に反射的に能力を強制終了して気絶するようになってるみたいだけどな。」


 途端に心配からか、表情が暗くなる一同を安心させようと、命に関わることはほぼないことを説明するがメンバーの不安を一掃する程の効果はない。


「ヒジリ君、倒れたってことは、君は今回限界まで能力を使用したってことかい?」


 ジョシュアが真面目な声で冷静に問いかける。


「いや、この能力は使い勝手が悪くてな。限界まで能力を使わなくても能力を解除すると強烈な眠気と目眩に襲われる――つまり、今回に限らず使えば必ず倒れると言ってもいい。」

「なるほど。つまりこの能力は切り札であると同時にもろ刃の剣ってことだね。」

「まぁ、そんなところだな。」


 使えば敵なしの能力だが、使いどころを間違えれば自らを死地へと追い込む。

 リスクの大き過ぎる能力と知り、複雑な雰囲気に包まれる。

 しかし、


「まぁ、秘密にするのも良くないってことで一通り説明はしたが…今後この能力は封印することになったから。」

「「「…え?」」」


 あっけらかんとした口調で宣言するヒジリ。

 この事実を知っていたリネア以外は目をぱちくりさせて頭の上に?を浮かべている。


「いや、さっきリネアと約束してな。」

「はい!ヒジリさんがこの能力を使わなくてもいいように、みんなでカバーしましょう!」


 リネアが上機嫌で他のメンバーに説明する。


「いや、リネアちゃん、ヒジリ君がこの能力を使わないのは僕も賛成なんだけど…具体的には何をするつもりなんだい?」


 すかさずジョシュアが問いかける。


「は、はい、とりあえず代理戦争部隊にもう一人か二人上級魔導士を迎え入れたいと思っているのですが…」


 リネアが遠慮がちに提案する。


「まぁ、打倒なところか…それで目星はついてるの?」

「いえ、すみません…」

「貴様、陛下に文句でもあるのか!」

「いや、別に文句じゃないんだけど…あ、そうだ!各国の上級魔導士のリストならあるけど、いる?」

「あ、ありがとうございます!それでは、そのリストを基に私が赴いて勧誘をしてきます。」

「陛下が直接交渉に行く等危険過ぎます!」

「じゃあ、俺が同行するってことでいいんじゃね?」

「ヒジリ様が行くならワタシも――」

「せ、セシルさん…これは遊びでは…」

「いやー、完全にカオスだね。」


 大討論を繰り広げる一同を軽口を叩きながら楽しげに見守るジョシュア。

そんな時、


 コンコン


 不意に扉をノックする音が聞こえ、静まり返る。


「どうぞ。」


 リネアが返事すると、ドアが開き一人の兵士が入ってくる。


「陛下!只今プランチェ王国から陛下にお目かかりしたいという者が参っております。」

「とりあえず、通して下さい。」


 リネアが兵士に返答すると、兵士の「入れ」という合図とともに二人の若い男女が入室してきた。

 男の方はヒジリと同じくらいの年の頃で女の方はリネアと同じくらいの年齢に見える。

 入室後すぐに跪く等、礼儀正しく敵意は全く感じられない。

 少しばかり警戒していたヒジリ達であったが、その様子に少し警戒を緩める。

 しかし、その直後、少年の口から衝撃の言葉が放たれた。


「リネア陛下、ご無沙汰しております。――どうか、我々兄妹を貴国の代理戦争部隊の末席に加えていただきたく、参上仕りました。」




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