ヴァッサーVSブリッツ~ヒジリの奥の手~
「おっさん、早く歩かねぇとあっという間に敵に包囲されちまうぞ。」
代理戦争開始から数分後、ブリッツ陣営は敵陣営に向かって二人で進行していた。
周囲は砂埃が舞っており視界が悪い。
どこから敵が襲撃してくるか分からない状況で周囲を警戒しながら前を歩くヒジリが、少し遅れているダンに声をかける。
「黙れ!こっちは怪我人なんだ!無理言うんじゃねぇ!!」
ダンが身体中包帯だらけ、杖をつきながらヨロヨロとした歩調で何とか歩きながら、少し前で振り返り自分が追い付くのを待っているヒジリに言い返す。
大将が手負いのダンである以上、ダンが集中的に狙われることは分かっている。
重症で一人では満足歩けないダンを放置して一人で攻めるわけにもいかず、ヒジリはダンを連れて敵陣に攻め込むという作戦に打って出ていた。
当初はヒジリがダンをおぶって敵陣まで運ぶ予定だったのだが、「貴様におぶわれることなどワシのプライドが許さん!!」というダンの一言により、こうしてゆっくりと二人で歩くことになっている次第である。
「ったく…勘弁してくれよ、大将。」
一つため息をつき、ダンを皮肉るとヒジリは再び前を向き歩きだす。
「…おい、小僧…」
「ん?なんだよ?」
ヒジリの後姿にダンが沈痛な声色で話しかける。
「…貴様、本当に勝算はあるのか?」
ヒジリが振り返ると、ダンが真剣な表情でこちらをまっすぐ見ていた。
「ああ、ある。心配しなくとも国民もリネアもあんたも誰も死なせないし、奪わせねぇ。」
「ならば、いい加減具体的な作戦を聞かせてみろ!」
ダンの問いに答えるヒジリにダンがさらに追及する。
「だから、何度も言ってるだろ?俺がちょっと本気出してあんたを守りながら敵の大将をぶっ倒すって。」
「だから!その倒す方法を具体的に説明しろって言ってんだろ!クソガキが!!」
怒鳴るダンに再び大きなため息をつき、黙って歩き始めるヒジリ。
「…貴様、やはり自分を犠牲にするつもりなのか…?」
今度は思いつめた声色でダンが尋ねる。
そして、その声に反応し、ヒジリの歩みを止める。
「…この程度のことで俺が自分の命捨てるかよ…」
振り向かずそう小さく答える。
「貴様、この程度だと!!」
リネアやブリッツ国民の命がかかっている状況を『この程度』呼ばわりされ、激昂するダン。
しかし、
「この程度の敵相手に命捨ててたら命がいくつあっても足りねぇよ。――それに俺がここで死んだら、今後誰がこの国やリネアを守るんだよ。」
ちらりと首だけ振り返り、ぶっきらぼうな声でそうつけ足す。
「こ、小僧…」
「だから、あんたは何も心配しなくていい。」
「ふん、生意気な!」
(今回は黙ってこいつを信じてやるか。こいつなりに国や陛下のことを考えているみたいだしな…)
前を歩くヒジリの背中を見ながら、少しヒジリのことを見直すダン。
直接言葉にはせずとも、そこには確かな信頼関係が芽生えつつあった。
しかしそんな矢先、
「暑苦しい友情劇は終わったかな?」「
不意に前方より聞き慣れない声が聞こえ、足を止めるヒジリとダン。
「はじめまして。僕はヴァッサー国国王、ボトム=ヴァッサーだ。」
砂埃の中目を凝らすと、大量の人影が浮かび上がってくる。
やがて砂埃が晴れてその姿がはっきり見える。
「自分から大将と名乗り出るとは余裕だな。まさかこんな子豚が大将とは名乗られなきゃ全然分からなかったぜ。」
「な、なんだと、貴様!無礼な!!」
ヒジリの挑発に乗り、激昂する小太りの中年男。
そして…
「ヒジリ様!ダン!!」
ボトムの隣から聞き覚えのある少女の声が聞こえる。
「陛下!!」
「リネア!!」
ダンとヒジリは声を揃え、その少女の名前を呼ぶ。
「リネアちゃん、ちょっと黙ってようね?」
「きゃっ!」
パンっと頬を打ち、少女を睨むボトム。
「陛下!」
「ダン、いけません!!」
「!!おい、ちょっと待て!」
バン
乾いた銃声が鳴り響く。
「なんだよ、躱されたか。」
ボトムが小さく舌打ちをしながら、注意を促したリネアの方を再び睨む。
ボトムの挑発に乗り、踏み込もうとしたダンはヒジリに引っ張られたことによって尻持ちをついていた。
そして、一歩分前の足元には小さな穴と土煙が上がっていた。
「やっぱり素直に姿を現したわけじゃなかったか。」
そう言って、ヒジリは改めて周囲を見渡す。
「ふん、ばれてるなら隠れてても仕方がない。――お前ら、いいぞ!」
ボトムの一声で周囲から複数の人影が現れる。
前後左右、魔導士や銃や剣を持つ兵士達によって周囲は完全に包囲されていた。
「わざわざ姿を見せてくれるとは親切だな。」
「これくらいどうってことはない。貴様も誰によって殺されたか分かった方がいいだろう?」
「よく言うぜ。俺を狙うつもりなんて全くないくせに。」
「別に僕らがお前程度に負けるとは思わんが、これは『そういうゲーム』だからね。でも油断してると君が先に死んじゃうかもしれないよ。」
ヒジリの皮肉交じりの挑発に下品な笑みを湛えながら余裕な態度を見せるボトム。
ボトムの言うとおり、いくら大将がダンであっても敵が必ずダンを狙うというわけではない。
ヒジリに攻撃をしかけながら、無防備なダンを狙う…
通常では難しくとも、100対2という絶対的な物量差があるこの場では対して難しいことではない。
逆に、ヒジリにとっては自分の身を守りながらもダンを守る。そしてさらに、敵の包囲網をかいくぐり大将のボトムを倒さなければならない。
そのためか、周囲の敵からは緊張感がありつつもどこか余裕のような雰囲気も感じられる。
「くっ、まさかこうも簡単に包囲されるとは…小僧、こうなればワシも微力ながら加勢するぞ!」
ブリッツ側の大将・ダンは、額に大量の汗を掻き、追い詰められたような表情をして、よろめきながらも戦闘態勢に入る。
しかし、
ボスッ
「っぐあ!!」
鈍い音とともにダンはみぞおちを抑え膝をつく。
「ヤル気になってるところ悪いけど、ちょっとじっとしててくれ。」
「貴様、どういうつもりだ。」
ダンは自分の腹を殴った張本人――霧崎ヒジリを睨みながら問う。
「これくらいは想定内だ。けど中途半端に動かれるとあんたを守りきれん。だからちょっと大人しくしててくれ。」
ヒジリは顔をゆがめているダンの目をまっすぐ見て真剣な声で答える。
「ふん、生意気なこと言いやがって…。頼んだぞ、霧崎!…」
そう言い残すと、ダンは気を失う。
「あいよ。まぁ、適当に時間潰しててくれ。――5分で片付ける。」
そう言って、自身に満ちた表情でヒジリは敵の大将・ボトムを見据える。
「ほぉ~、言ってくれるじゃないか…お前ら!さっさとこいつらを殺せ!!」
ヒジリの態度に顔を引きつらせてイラつくボトムは一気に総攻撃を命じる。
「おお!」「行くぞ!!」などとボトムの命に従い、ヴァッサー軍は総攻撃にかかる。
そんな中ヒジリは自らの頭を右手で覆い呟く。
「電気」
するとバチバチっと音とともにヒジリ自身に大きな電流が生じる。
その大きな電流に一瞬敵の攻撃が止まる。
しかし、敵側には何も被害はなく、電流は収束していった。
ただ、電流の中心にいたヒジリの体が微量の電気を帯びているだけだった。
「…ははっ、何かと思えばただの威嚇じゃないか!!お前ら、ビビってないで早くヤレ!!」
一瞬固まっていたヴァッサー軍の総攻撃が再開する。
「銃撃隊、撃て!!」
ダンダンダン…
どこからか、ヴァッサー軍の隊長と思われる人物の指示とともに四方八方から次々に銃声が響きわたり、ヒジリ達に弾丸の雨が降り注ぐ。
しかし…
「重力――重力――重力――」
数秒後、満百発と続いたであろう銃声が一旦鳴り終わり、土煙が晴れるのを待つ。
「さすがにこれだけ四方八方から撃ったら蜂の巣だろ?」
「でもハーメルンとの戦争じゃ、銃撃は全部弾かれたらしいぞ?」
「馬鹿!それは全部本人を狙ってたからだろ?今回は違う!」
「そうだ!何せ今回はあの二人めがけて適当に乱射しただけだからな。」
砂埃が晴れるのを待つ間、ヒジリ達の動きを警戒しながらもヴァッサー軍のあちらこちらからそんな内容の会話が聞こえてくる。
ヒジリの能力は「触れたモノのエネルギーを別のエネルギーに変換すること」である。
つまり、触れなければ意味をなさない。
攻撃の対象が自分だけであればどれだけの銃弾を浴びようとやり過ごせる一方で対象が複数ある場合、全ての攻撃を回避することは難しい。
それを今回のヴァッサー国の策はヒジリにとっての弱点でもある。
しかし…
「…なんだと?」
先程まで余裕の表情を浮かべていたボトムが目を見開く。
土埃が晴れ、視界が開けるとそこには二つの人影が立っていた。
「なんだよ、もう終わりか?」
不敵な笑みを浮かべ、ダンを担ぎあげたヒジリが平然と立っている。
予想外の光景にヴァッサー側の兵士がざわつく。
「そっちが来ねぇなら、こっちから行くぞ。」
ヒジリがボトムに向かって言い放ち、足に力を入れる。
そして、
「運動」
一瞬でヒジリ達の姿はその場から消え、
「ぐあっ」
「どうし――ブアッ」
「敵襲だ!陛下をお守りしろ!」
高速移動を用い、ヒジリ達が敵陣のど真ん中に飛び込み、敵を次々と蹴散らしていく。
予想外の事態に兵士達は慌てて、統率を失う。
「いたぞ!ダンだ!ダンの方を狙え!」
「混戦だ!銃や魔法は控えろ!」
「何をしている!我々も行くぞ!!」
数秒後、ようやく冷静になり、反撃に打って出るヴァッサー軍。
四方に分かれていた別働隊も本陣の増援へ向かう。
しかし
「ぐはッ」
「ぐっ」
「どぁっ」
ヴァッサー兵達が一斉に切りかかるものの、ヒジリはその攻撃の全てを躱わして逆に的確な打撃で敵を一撃で沈める。
「な、なんなんだ…?」
その光景をヴァッサー国陣営の後方で驚愕の表情を浮かべ、うろたえながら眺めるボトム。
彼が驚くのも無理はない。
ヒジリの動きは最早超人的で、とても同じ生物とは思えない。
次々に敵をなぎ倒していき、気付けば100人いたヴァッサー軍は三分の一程度にまで減っていた。
このままヒジリがヴァッサー軍を全滅させてしまうのではないか、とさえ思われた。
しかし…
「敵を全て飲み込め――激流の大波」
ヒジリが声のした方を振り返ると特大の波がこちらに向かって押し寄せてきていた。
「ヤバい!バルドルさんの魔法だ!!」
「急げ、巻き込まれるぞ!」
先程まで攻撃してきていた兵士達が一斉に避難していく。
味方をも巻き込む大魔法。直撃すればひとたまりもない。
しかし、
「光」
ヒジリは波に向かい片手を向けながら呟く。
すると大きなまばゆい光が出現する。
そして、
ドカッ
「ほぉ…よく止めたな」
「事前に予想しておけばこれくらい普通だ。」
光で目が効かない隙をつき、水魔法を放った相手――バルドルにヒジリが右ストレートを放つがしっかりガードされる。
攻撃を止められ、ヒジリは一旦距離を取る。
「貴様が化け物のような動きをするんで、何か自分に憑依させる魔術でも使ったのかと思ったが…どうやら違っていたみたいだな。」
青い長髪を後ろで束ねた無愛想な青年は冷静な口調で述べた。
「お前、こんな戦況でやけに冷静だな。」
「貴様の強さは事前に調べてあった。これくらいは予想の範囲内だ。」
「高く評価してもらってありがたいねぇ。…それでも自分なら俺を倒せるって言いたいのか?」
「いや、俺一人ではお前には到底敵わない。」
「は?じゃあ――」
バルドルの言葉に怪訝な表情を浮かべ再び問い直そうとするが、その言葉は次なる攻撃に遮られる。
「岩の砲弾」
「石つぶて(ストーン・ショット)」
「砂の津波」
巨大な岩やら石の弾丸、さらには大量の砂の波がヒジリとダンめがけて押し寄せる。
しかし、
「重力――重力――光」
人間離れした反射速度とエネルギー変換という超能力を駆使し、全ての攻撃を回避する。
「おいおい、本当に全部無効化されちまったぞ!」
「うっさいわね…っていうか初っ端から大魔法使ってんじゃないわよ!」
「あ?そんなこと言うならアモスの方がでかい魔法使ってたじゃねぇかよ!」
「ヒース、ジェシカうるさいぞ。今は仕事中だ。」
新たに3人の敵が出現した。
サングラスの男に茶髪で巨乳の女、そして3人の中でリーダー格と思われるドレッドヘアの男。3人が3人とも魔力が感知できないヒジリにも感じられる程の強者特有の雰囲気を持っている。
「なるほど…もしかしてあんたらがよその国から来た助っ人か?」
敵が一気に4人に増え、十分に警戒しながら問うヒジリ。
「ああ、そっちの兄ちゃんは違うぜ。助っ人は俺達3人だ。」
「ヒース、無闇に敵に情報を漏らすな。」
「はいはい…別に良いじゃねぇか、これくらい。」
ドレッドヘアの男――アモスに小言を言われて不貞腐れるサングラスの男――ヒース。
(魔力とかは分からんが、雰囲気的に4人ともジョシュアと同レベル…つまり全員A級ってことかよ。)
敵を観察しながら冷静に戦力を分析するヒジリ。
「ははっ、残念だったな。こっちにはまだA級魔導士が4人いるんだ。お前なんて敵じゃないね!」
先程までヒジリの圧倒的な強さに震えていたボトムも調子を取り戻し、挑発する。
「おいおい、雇い主自ら敵に情報漏らしてるけど、あれはいいのか?」
「…雇い主であれば仕方がない。」
「ヒース、あんたはイチイチうっさいのよ!」
再び3人が言い争う。
「いくらお前が強くてもA級4人相手に、味方を一人庇いながら戦うなど不可能だ。降伏するなら今のうちだぞ。」
取り込み中の3人をよそにバルドルが相変わらずの無愛想な口調で問いかける。
「お気づかいどうも。でも余計なお世話だ。」
ヒジリは挑発的な目で言い返す。
「それならそれでいい。」
バルドルはヒジリの挑発など全く気にしていない様子で淡々と答え、臨戦態勢を整える。
さらに、
「おいおい、何かあいつ俺達舐めてんじゃね?ちょっとお仕置きが必要だろ。」
「ヒース、あんたはムカつくけど珍しく意見が合ったわね。」
「あくまで仕事だ。狙うはダン=アルフォードだ。」
「「はいよ」」
「「「「いくぞ!」」」」
4人一斉に魔法を発動させる。
「重力――重力――」
先程と同じく驚異的な反射神経で全ての攻撃をいなしていくヒジリ。
しかし、
「俺達が魔法一辺倒だと思うなよ!」
4人は魔法と接近戦による体術を使い分け、4人がタイミングをずらしながら次々攻撃を撃ち込んでくる。
「重力――光――ムーブ――ぐあっ!」
遂に能力が追い付かず巨大な岩の下敷きになるヒジリ。。
「ヒジリさん!」
リネアが悲鳴を上げる。
「はははっ、僕に逆らうからだ!お前なんて敵じゃないんだよ!死ね、死ね!!」
隣に座るボトムは高笑いしながら歓喜の声を上げる。
しかし、
「――なんてな。重力」
ヒジリの声が聞こえたかと思うとヒジリの上になっていた岩が宙に浮かぶ。
そして、その岩の下にはダンを担いだヒジリが無傷で立っていた。
「運動」
ヒジリは宙に浮いた岩を思いきり殴り砕いた。
「やれやれ、散々攻撃してきやがって――それじゃあ次は俺が攻撃する番ってことでいいのか?」
ヒジリは不敵な笑みを浮かべ、眼光鋭く言い放つ。
その威圧感に敵方は目を丸くし、一瞬動きが止まる。
そして、その一瞬をヒジリは見逃さない。
「お、お前ら、攻撃だ!」
「お、おう!砂の―――ぐあっ!!」
「運動」
目にも留まらぬ高速移動で次々に敵をなぎ倒していく。
そして、
「よう、子豚野郎。ようやく会えたな。」
「なっ!?」
気付けば自分のすぐ後ろに立っているヒジリに驚き、椅子から転げ落ちるボトム。
そして、殺気を込めた目でそれを見下しながらどんどん距離を詰めていくヒジリ。
見る見るうちに顔が真っ青になるボトム。
追い込まれた小男は、ぐるぐる視線を動かし、一人の少女で視線を止める。
「クソッ…こうなったら…こっちに来い!」
「きゃっ」
ボトムがリネアに飛びかかると彼女の髪を乱暴に掴み大声で叫ぶ。
「おい、それ以上こっちに近づいたら分かってるだろうな!――この女を――」
「クズが」
「ぐはっ!」
一瞬で距離を詰め、ボトムの顔面に右ストレートを叩きこむ。
「お前には能力使うまでもねぇよ」
気絶し泡を吹いているボトムにヒジリは言い捨てる。
そして、リネアの方へ行き、すぐに拘束具を破壊する。
「大丈夫か?」
「ひ、ヒジリさん!」
リネアは目に涙を溜め、ヒジリに抱きつく。
「おう、遅くなって悪いな。」
「ヒジリさん!無事でよかったです!!ダンも無事で…」
ヒジリに抱きつき泣きじゃくるリネア。
こういったところはやはりまだ16歳の少女である。
そして、慣れない事態に戸惑い照れるヒジリ。
「い、いや、お前こそ無事で何よりだ。」
「私なんかより、ヒジリさんやダンが…そもそも私のせいで…。でも、本当に良かったです!」
最早言いたいことが整理できておらず、いろいろと混ざっている。
ヒジリはしばらく胸を貸し、しばらくしてリネアも落ち着いた。
そして、リネアは顔を上げると、まだ目に涙を溜めた目でヒジリを見上げ、
「――それと、助けていただいてありがとうございます!また、ヒジリさんに助けられてしまいましたね。」
申し訳なさそうな笑顔を向けた。
「別に。これくらいどうってことねぇよ。俺にとっちゃ朝飯前だ。だから――この程度だったらいつでも俺を頼れよ。」
「え?それって――」
そんなリネアにヒジリは相変わらず素直とは程遠い言い回しで答える。
「い、いや、やっぱりさすがに毎日はきついな。たまにだ、たまに!!」
自分の言ったことに照れて、ごまかすヒジリ。
その様子を見たリネアはふっと小さく笑うと、
「はい!ではたまに頼らせていただきますね!」
少し悪戯っぽい笑顔で答える。
そして、そんな微笑ましい光景が終わるのを待っていたかのように、試合結果の宣言が行なわれる。
『只今を持って、ブリッツ王国VSヴァッサー王国の代理戦争は、ブリッツ王国の勝利とする!尚――』
「ヒジリさん!」
勝利の宣言を受け、ヒジリの手を取るリネア。
しかし…
「!!!ひ、ヒジリさん!?」
リネアに倒れこむように勢いよく抱きつくヒジリ。
そして、いきなり抱きつかれたことに頬を真っ赤に染めて慌てふためくリネア。
「…すまん…。ちょっとエネルギー切れだ…。悪いけどしばらく身体支えてくれ。」
耳元でそう呟かれたリネアは少し顔を上げ、ヒジリの表情を窺って見ると、
「ちょ、ちょっと、ヒジリさん!?」
「あんまり騒ぐな。他の国に気付かれたくない。ちょっと疲れただけだ。一日寝ればすぐに治る…」
額にびっしょりと汗を掻き、顔色はすっかり青ざめている。
見るからに立っているのがやっとという状態だ。
「わ、分かりました!」
リネアは心配そうにしながらもヒジリの指示に従い、中継が終わりダンが目覚めるのを待ってからヒジリをこっそり城まで運んだ。
(ヒジリさん…これ以上ヒジリさんに負担をかけるわけには…やはり私自身がしっかりしないと…!!)
城に戻り、ヒジリの看病をしながら、リネアは一人決意を新たにしていた。
しかし彼女は知らない。
この小さな決意が今後の彼女に更なる試練を与えることを…
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一方、ヒジリが運ばれていく様子を見ていた人物がもう一人。
ハーメルン城にある自室のベランダに出て、独り言を呟いている。
「やれやれ。一応今回の目的は達成かな。まぁ、大変なのはこれからか。」
そう、いつものような軽い口調で呟く。
「ヒジリ君のあの能力にはやっぱりデメリットもあったみたいだしね。まぁ、あんな能力副作用なしで使えたらホントにただの化け物だけどね。」
金髪の青年は楽しそうにニヤついている。
「とりあえずはあの能力について調べないとな。さて、これから忙しくなるぞ」
今回の代理戦争の仕掛け人でもあるこの男――ジョシュア=フリークは意気揚々と自室へと戻っていった。




