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決戦直前!~二人の少女の思い~


『両陣営準備を!間もなくヴァッサー国VSブリッツ王国の代理戦争を開始します!』


 ヴァッサー国とブリッツ王国、各代表選手全員の頭に直接アナウンスが響き渡る。

 念話魔法――マイク等の音声機器がない異世界・ヴィルドにおいて、代理戦争の審判を行うためには必須の能力である。

 そして、今回は戦勝国への景品扱いになっているブリッツ王国女王・リネア=ブリッツは責任を感じながらも祈るような思いでこのアナウンスを聞いていた。


(私が不注意だったばっかりに…。私はどうなっても構いません。どうかヒジリさんやダン、それから家来の皆さんや国民の方々が無事でいられますように!)


 ヴァッサーで捕えられた後に着せられた純白のドレスを握る手に自然と力が入る。


「おやおや、リネアちゃん、そんなに緊張しなくてもいいんだよ?」


 リネアの隣に座る、小太りの中年男が下卑たいやらしい笑いを湛えながらリネアに声をかける。


「べ、別に緊張しているわけではありません。」


 それに対し、リネアは必死に毅然とした態度を保とうと試みる。


「またまた、そんなに必死になっちゃって。かわいいな~。そんなに見栄張ったところで君の国が敗北することは決まってるんだから。」


 小太りの男――ヴァッサー国国王・ボトム=ヴァッサーは下品な笑みを浮かべ、リネアの頬をさする。


「や、やめてください…」


 リネアは怯えながらも顔を背け、身をよじって距離を取ろうと試みる。

しかし…


ガチッ


 手足を手錠で椅子に拘束されているため、上手く距離をとれない。


「ははっ、逃げようとしたって無駄だよ。この代理戦争が終わったら君は正式にこの僕の下へ嫁ぐこととなるんだからね。今のうちに慣れておかないと。」


 ボトムは脂ぎった顔を近づけ楽しそうにからかう。


「――せん。」


 俯いて顔を背けながら、リネアが小さく呟く。


「ん?なんか言ったかい?」

「ブリッツ王国はこんな卑怯な戦い方しかできない国には負けません!」


 顔を上げ、まっすぐボトムの目を見据えて言い放つ。

 一瞬驚いた様子を見せたボトムであったが、すぐに余裕の表情に戻る。


「ははっ、面白いことを言うね。――もちろn、君の国の霧崎だっけ?うちの国と拮抗した実力のハーメルンを実質一人で倒す程強いってことは知ってるよ。でも、それを差し引いても僕達の勝利は微塵も揺るがないね。」

「そんなこと――」

「あるよ。」


 見下したような言い方で語るボトムに反論しようとするも、さらにボトムの言葉に遮られる。


「前回の対ハーメルン戦と違うところがいくつもある。――それに、今回うちには秘密兵器もあることだしね。」


 ハーメルン王国相手の軍相手に圧倒的な力を見せつけたヒジリを相手に、既に勝ち誇った顔を見せるボトム。

 ボトムの言葉通り、今回の代理戦争ではヒジリが圧倒的に不利であるということを知っているリネアは再び心配そうな表情に変わる。


「…ヒジリさん…」


 自らが召喚した救世主の名を呟き、心からヒジリの無事を祈るリネア。

 このヴィルドの世界において、誰よりも霧崎ヒジリという男の強さを知っているリネアでさえ少し不安になってしまう程、今回の代理戦争はヒジリにとっては厳しい戦いになることが予想されるのだ。


『それではこれより、ヴァッサーVSブリッツの代理戦争を開始する!』


ゴーン、ゴーン…


(ヒジリさん…申し訳ありません…でも…どうかブリッツ王国を御救いください…。)


 自らの不甲斐なさ故、ヒジリ一人に負担をかけることへの自責の念。愛する人が危険だというのに何も彼の力になれないもどかさ。

 それでも、自分でも都合が良いことを願っていると自覚しながらも、国民を、ブリッツ王国を救ってほしいと願ってしまう…

 そんな複雑な感情を抱きながら、リネアは代理戦争開始のアナウンスと開始を知らせる鐘の音を聞いていた。



****

『さぁ、はじまりました!水の国・ヴァッサーVS雷の国・ブリッツの代理戦争!!上位魔導士数十人を擁するヴァッサー王国!さらに、この強力な水魔導士軍団に加え、今回はA級の傭兵も雇っており戦力は盤石と言えるでしょう!対して、ブリッツ王国はというと近年代理戦争で連戦連勝だったハーメルン王国をほぼ一人で倒した霧崎ヒジリを擁しています。』


 大きな居間にあるテレビでは、先程開始された代理戦争の中継を放送している。


「ヒジリ様…」


 ソファに座り、小さな身体を丸くして心配そうな表情を浮かべながら、セシル=フリークはこの放送を眺めている。

 ヒジリと共に代理戦争に参戦したい、と志願したセシルであったが、この代理戦争におけるヴァッサー王国との取り決めによって阻まれてしまった。

 ほんの少し前に自らの国を一人で倒し、さらに自分を含めハーメルン最強の3人をいとも簡単に退けてしまう程の実力者であるヒジリ。

 しかし、その事実を知りつつも今回の代理戦争は心配せずにはいられない理由がある。


『しかしながら、そんな実力者である霧崎選手にとっても今回の代理戦争は苦戦必至です。なぜなら――』


 テレビの解説者がその理由について説明している。

 ヒジリが苦戦するであろう理由は主に二点。

 一つ目は敵である。

 ブリッツ王国の前回の敵、ハーメルン王国はヒジリの力を知らず、油断しきっていた。

 しかし、ハーメルン戦は中継放送されており、その実力は最早近隣諸国の間では有名である。

 したがって、今回の対戦相手であるヴァッサー王国もヒジリの実力を最大限考慮した作戦を実行するに違いない。


 二つ目は味方である。

 一見、今回のヴァッサー陣営は上位魔導士数十人含む総勢100人。一見前回のハーメルン戦とさほど大差なく見える。

 だが、前回数人とはいえ、敵の上位魔導士を引きつけていたダンは重傷で一人で歩くのもやっとという状態である。その上、リネア不在のため、代理戦争において大将の役割を担っている。


『今回の見どころは重傷で身動きを取るのもままならないアルフォード卿を守りながら霧崎氏がどこまで対抗できるかが見ものですね。』


 テレビの中の解説者が代理戦争の展望を述べる。

 この解説者の言うとおり、客観的に見た今回の代理戦争の見どころは『どちらが勝つか』ではなく、ヒジリがダンを守りながら『どこまで抵抗できるか』という点なのである。

 もちろん、ヒジリの尋常ではない強さは誰もが認めつつある。

 しかし、敵の標的はあくまで大将であり、ヒジリではない。

 つまり、敵のヴァッサーは前回のハーメルンを参考にして、『ヒジリを最大限警戒しながら、全員で一斉に身動きの取れない大将・ダンを攻撃する』という作戦に出ることは容易に予測できる。

 いくらヒジリが強いとはいえ、100人の猛者相手に身動きの取れない男を守りながら敵の大将を探し、討ち取ることはほぼ不可能だ、という見解が大勢なのである。


「ヒジリ様にもしものことがあったら……ワタシが共に闘うことさえできれば……」


 セシルはただ、画面越しに無事を祈ることしかできない自分に歯噛みする。

 彼女の思うように、もしセシルやある程度の上位魔導士が一人だけでも一緒に戦うことができれば、戦況は大きく変わるだろう。

 しかし、それを防ぐために、敵はリネア誘拐、ダンの襲撃、そして代理戦争における戦前交渉での『ブリッツ王国の戦力は大将を覗いて霧崎ヒジリのみ』という無茶苦茶なルールの強要など様々な策を講じている。


「ヒジリ様……」


 いくら一緒に代理戦争を戦えないとはいえ、いつものセシルであれば代理戦争以外での介入するため策を練っているところである。

 しかし今回は……


『セシル、お前の申し出はうれしいが、その必要はない。そんなことしなくても俺の勝ちは変わらん。――だから、待ってろ。化け物を怒らせるとどうなるかあいつらに思い知らせてきてやるよ。』


 セシルは代理戦争前、心配し、協力を申し出た時のヒジリの言葉を思い出す。


「夫が待ってろと言うんだから、信じて待つのが妻の仕事ですよね。」


 そう困ったような笑みを浮かべて呟き、服の裾を握る手に一層力を入れながら、食い入るように放送画面を見る。


(まぁ、怒っている理由については後から追及が必要なようですが…)


 そんな小さな焼きもちを焼きながらも、彼の無事と勝利を祈りヒジリが戦戦う姿を画面越しに見守るのであった。



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