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それぞれの休暇

「はい、ヒジリ様!ア~ン。」


「いや、自分で食えるから…」


 リネアが自室で悶々と悩んでいるのと同じころ、二人で旅行中のヒジリとセシルは昼食のランチを楽しんでいた。


「もう、ヒジリ様ったら。そんなに照れなくてもいいのに。」


 自分のパスタをヒジリに食べさせようとするも、ヒジリに素っ気なくあしらわれたセシルはしゅんとなって大人しくなる…はずもなく、ニヤニヤしながらポジティブシンキングに勤しんでいた。


 このセシル、今ではヒジリにべったり状態だが、ついこの間までヒジリを騙し、ブリッツ王国を乗っ取ろうと画策していた張本人である。

 ヒジリは警戒してか、二人きりの旅行中、セシルには普段より一層素っ気ない態度を取り続けている。

 しかし、素っ気なくしている理由はそれだけではない。


「あの二人、兄妹かしら…?仲良いわね」

「そうね。…でも何か歳が離れすぎてない?」

「っていうか自分のこと様付けさせてるわよ?…まさか!?」


 そんな会話が周辺の人々から聞こえてくる。

 セシルは言動こそしっかりしているものの、実年齢はまだ12歳で、小柄な見た目が影響してか、周りからは10歳程度に見られている。

普段から少し年上に見られがちだが20歳のヒジリとは実年齢で8つ、見た目は、10~12歳程違って見られている。


「完全に俺がロリコンの変態扱いされてんじゃねぇかよ…」


 周囲からの悲しい疑惑を懸けられながら深いため息交じりに呟く。

そして、向かい合わせの二人席なのに、なぜか満面の笑みを浮かべ隣同士で座っている少女の方にジト目を向ける。


「ん?どうしたんですか?―もしかして『ヒジリお兄ちゃん』って呼んだ方が良かったですか?」


 ヒジリの視線に気付き、セシルがニヤリと悪戯っぽい笑顔を浮かべながら小声で尋ねる。


「…お前、絶対わざとやってるだろ…?」

「え?何のことですか?」


 うんざりした表情で尋ねるヒジリに、わざとらしく聞き返し、年齢と不釣り合いな小悪魔的な笑みを湛えるセシル。

 旅行へ出発してから半日、ヒジリとセシルはずっとこんな調子で(傍から見ると)イチャイチャして過ごしていた。


(リネアの奴は大丈夫なのか?なんか嫌な予感がするんだよな……)


ふと空を見上げながら、ヒジリはリネアのことを思い出していた。




 一方その頃、ブリッツ城のリネアはというと…


「き、休暇ですか…?」


 王室で仕事の傍ら、女の子らしく恋愛について悩んでいたリネアが、つい先ほど不意打ちで現れた来訪者、ダンとジョシュアの提案を再度確認していた。


「はい、恐れながら陛下は最近少しお疲れのご様子。少しだけでもお休みになられてはいかがかと思いまして…」

「そうそう。ヒジリ君が旅行に行っちゃって仕事も手に付いてないみたいだからさ♪たまにはゆっくりしておいでよ。」

「!?べ、別に、わ、私はヒジリさんのことなんて…!」


 せっかく恥ずかしがり屋のリネアのため、ダンがオブラートに包んで進言したのに、ジョシュアが即座にストレートを放り込んだため台無しになった。

 案の定バンっと立ち上がり、あからさまなくらいに顔を赤らめてオロオロするリネア。

 せっかくの苦労が台無しになり、軽く頭を抱えるダン。

そして、リネアのオロオロした姿を見て満足そうな表情を浮かべるジョシュア。


「も、もしかして、さっきの私の独り言聞いてました?」


 リネアが少し涙目になりながら、上目遣いで二人に確認する。

 …無言で目を反らすダン…

 そして…


「ああ、それって『どうしたらヒジリさんに好かれる女性になれるのでしょうか?』ってやつ?」


 事も無げに言い放たれたジョシュアの言葉が決定打となり、リネアは再び椅子に座ると机に突っ伏したまま動かなくなった。‐ただの屍のようだ…


「へ、陛下!わ、私は何も聞いておりませんので!!大体―」


 その後ダンの必死のアフターケアにより、数分後なんとかリネアがしゃべれるまでに回復した。


「ま、まぁ、要はさっき言った通りなんだけど、ちょっとお疲れ気味のリネアちゃんにリフレッシュしてもらおうってことだよ。」


 さすがに少しやり過ぎたと反省したジョシュアは、引きつり気味の表情で再度リネアに進言する。


「そうです。ただでさえ陛下はずっと休みなしで働いていらっしゃるのですから。―少しはお休みになってください」

「そうそう。自分の体調管理も立派な仕事だよ。」

「お気づかいありがとうございます。――しかし…ヒジリさんもいない状況で私も休むのはさすがに…」


 リネアを心配するダンとジョシュアは休暇を進めるものの、なかなか首を縦に振れないリネア。

 リネア自身、せっかく部下が提案してくれたのだし休みたいのは山々なのだが、やはりヒジリとセシルが不在の状況では人手が足りないのである。

 リネアも女王の身であるため、外出するとなるとそれなりに護衛も付ける必要がある。

 いくら戦争が迫っていない状況でも、ただでさえ数が少ないブリッツ国軍でヒジリも不在という状況で女王の外出に人手を割ける程の余裕はない。


「それなら、少し散歩でもして気分転換でもしてきたらどうだい?それなら僕かダン君のどちらかが護衛に付いていけば事足りるだろ?」


 申し訳なさそうにするリネアに、ジョシュアが代案を出す。


「確かに!数時間程度であれば私一人の護衛でも問題ないでしょう!!――陛下、いかがでしょうか?」


 ダンもジョシュアの案に乗っかりリネアに意見を求める。


「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて…」


 リネアが手をもじもじさせながら申し訳なさそうに二人を窺う。


「じゃあ、決まりだね!――護衛は…今回はダン君に任せるよ。」

「当たり前だ。ワシは貴様をまだ信用してないからな!陛下の護衛等任せられるか!!」

「ま、まあまあ。」


 ジョシュアに噛みつくダンを苦笑いで制するリネア。


「それでは、私も準備しますので…。ダン、準備が終わったらお呼びします。」

「かしこまりました。」


 一礼をするとダンはすっと部屋から退出する。


「それじゃあ、こっちのことは任せてゆっくりしてきてね♪」


 そう言ってジョシュアも続いて退出しようとドアの方へ歩いていく。


「あ、あの!」

「ん?」


 リネアが引きとめるとジョシュアは歩みを止め首だけ振り返る。


「あ、ありがとうございます!そ、その休暇なんて考えたのジョシュアさんですよね?」


 まだジョシュアとはしゃべり慣れていないからだろうか、少しぎこちない言い方でお礼を言う。


「そんなお礼を言われるようなこと何もしてないよ。――ヒジリ君がセシルと出かけちゃったのも僕が原因みたいなところあるし。――そのお詫びみたいなもんだよ。」

「ではそういうことにしておきます。」


 そう言って軽く笑って再びドアの方へ歩き出すジョシュアをリネアも柔らかい笑みで見送る。


「私も準備しないとですね。」


 再び一人になった部屋で笑顔を浮かべて小さく呟くリネア。



 ――しかし、この時彼女はまだ気付いていなかった。

 リネア自身に危機が迫っていることに……




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