リネア、恋の悩み。
「一体恋とは何なのでしょうか…?」
小旅行に出かけるというヒジリさんとセシルさんを見送った後、自分の仕事に戻ろうと王室にある自分の机に向かったものの、仕事が全く手につきません。
最近の私は自分でも少しおかしいと思います。
些細なことでイライラしたり、人前であっても露骨に不機嫌になったりと今までの私では考えられない態度を知らず知らずのうちにとっていることが多くなっているのです。
そして、そのような態度を取ってしまう時は…大抵ヒジリさん絡みです。
ヒジリさんがセシルさんに迫られてデレデレしていたり、仕事をサボって敵国の女性を口説きに行っていたり(これは私の誤解でしたが…)とにかく全てヒジリさんが他の女性と仲良くしている時ばかりです。
これは客観的に見て…どう考えても私がヒジリさんに焼きもちを焼いているとしか考えられません……
幸い恥ずかしながら今まで恋愛経験のない私にもこれくらいの判断はつきました。
しかし、それにしても…
「あんな小さな子相手に嫉妬するなんて…」
相手はまだ12、3歳の子供。一国の王女としてこんな小さな子供に嫉妬するなんて…自分の器の小ささに少しうんざりします。
「しかし、一体いつから好きになったのでしょうか…?」
元々は自分の気持ちを理解してくれる人としてしか見ていませんでした。
当時、一大大国だったブリッツ王国の王女として、良い家来や国民に恵まれて順風満帆に生活していました。
しかし、そんなある日、一つの裏切りによってブリッツ王国は代理戦争で大敗を喫しました。
その敗戦によって失った土地や財産はそれほど大きなダメージではなかったため、私もそれほど深刻には考えていませんでした、
しかし、それが失敗でした。
その後、私の周りの人間はどんどん裏切っていき、代理戦争でも敗戦を繰り返し気付けば国土はわずかしか残っておらず、ブリッツ女王の権威も一気に失墜しました。
しかし、それ以上に、家族、親友、信頼していた家来…予想だにしていなかった人物からの次々の裏切りに私の心は耐えられず、遂に人間不信に陥ってしまいました。
周りで信じられるのはずっと自分の護衛をしてくれているダンだけ…
そんな唯一信じられるダンでも、家族や親友だと思っていた人から裏切られ、命を狙われ続ける私とは本当の意味で共感し合い、理解し合うことはできませんでした。
『千里眼』でヒジリさんを初めて見つけたのは丁度その頃でした。
初めて見たヒジリさんは大勢の人に追われているところでした。
その緊迫した展開に気付けば私は夢中になっていました。
そして、それを機に彼を『千里眼』で追い続けるうちにヒジリさんが自分と同じような境遇だということが判明しました。
かつて最強の超能力者と呼ばれ、国の英雄として数々の戦争を勝利に導いていたにも関わらず、戦争終了とともに危険物扱いされて指名手配に……
そして、家族、親友、部下、自らが助けた人々から次々と裏切られて命を狙われて追われる日々を送り、世界に絶望していく…
さらに観察し続けるうちに、自分とよく似た境遇を生きるヒジリさんに対していろいろな感情が湧きあがってきました。
『彼となら理解し合えるのではないか…』
『彼の助けになれるのは私しかいない…』
そんな気持ちは彼の様子を見続けるにつれて次第に強くなっていき、そして…
『彼に会いたい!!』
遂に私は彼をこの世界・ヴィルドに召喚することを決意しました。
「でも、実際は完全に逆になってるんですよね…」
そう一人で呟き、苦笑いをこぼす。
実際にお会いしたヒジリさんは私が想像していたよりも精神的に強く(多少ひねくれてはいますが…)気付けば私の方が助けられています。
今思えば、彼を最初に見つけた時から私は彼の存在に支えられていました。
自分と同じ絶望を味わっている人を見つけて、自分は一人じゃないと勝手に励まされていたように感じます。
そう考えると一つの結論に至りました。
「きっと、最初から私はヒジリさんのことが好きだったんですね。」
そして同時にこうも思う
『少しでもヒジリさんにお返しがしたい。』
たとえヒジリさんにその気がなかったとしても、私はヒジリさんの存在に支えられました。
だから今度こそは私がヒジリさんの支えになりたい、と思っています。
しかし、そんな立派なことを考えつつも…
「どうしたらヒジリさんに好かれることができるのでしょうか…?」
やはりこの悩みが一番にきてしまうことに気付き、恥ずかしさで顔が熱くなっているのを感じます。
一つの問題が解ける度に新たな問題に直面する無限ループ…
もしかしたらこれが恋というものなのかもしれない、とか考えていると
コンコン
不意にドアをノックする音が聞こえ、ビクッと反応してしまいました。
(い、今は仕事に集中しないと!)
「ど、どうぞ。」
「失礼します!」
ギーというドアの開く音とともに見知った二人が入ってきました。
「ダン、ジョシュアさん、どうされました?」
二人に笑顔で応対しながら、ヒジリさんのことはこれからゆっくり考えていこう。
そう思い、私は再び頭を仕事モードに切り替えました。




