事後報告
セレンより一足先に城に帰ったサーラは皇妃アルメリアの待つ部屋に真っ直ぐに向かった。
「は?え、なにそれどういうこと?」
一通りの報告を聞いたアルメリアの反応は少し間が抜けていた。無理もないまさか侍女にと望んだ娘がその日のうちに結婚をしてしまうとは流石に予想外の展開だ。
「はい、私が着いた時にはもう挙式を挙げられていたご様子でしばらくするとお二人がお帰りになられましたので、この話しは一旦引き上げて追って連絡を入れますと申し上げております。あと、ハンナベルタ様はなかなかの切れ者のご様子で先日の私共にも気付いていた上であえて普通に接客されたそうでございます。そのことで皇妃様にご無礼をいたしましたとお詫びを言伝りました、更に後日お渡ししたいものがあるご様子です。」
「ええっ‼︎あ、あれバレてたの⁉︎うーんなかなかやるわね彼女、ますます気に入ったけれどお嫁に行ったばかりの新婚さんじゃ雇いにくいなぁ・・・」
「恐れながら、セレン隊長はファンテル子爵家に入り婿されるそうでつまりお二人は貴族の地位にあります。更に隊長の身分ならば十分子爵家を復興させられますし、少し落ち着かれましたらハンナベルタ様をこちらにお客様としてお呼びになってはいかがでしょうか?」
成る程、貴族の身分ならば茶会などを名目に呼び出せる。そっかそっか、そーしよっかっと考えていると他の侍女がセレンが謁見を申し出ていると言う。よし、どう懲らしめようかと鼻歌交じりに許可を出す。
目前で騎士の礼を取り皇妃からの声掛けを待つセレンは何処かいつもと違って見えた。何というか、男っぷりが上がった気がする。
「セレン、顔を上げて頂戴な。粗方サーラから聞いてはいるけれど、報告してくれる?」
「はい。午前中休暇を頂きまして兼ねてより婚約中のファンテル子爵令嬢ハンナベルタと婚儀を挙げてまいりました。事後報告になりまして、皇妃様には大変失礼いたしました。」
「えらく慌てたものねぇ。急ぐ理由でも?」
「この度、皇室よりハンナベルタ及び子爵に呼び出しがかかったと聞き及び、爵位剥奪か領地没収かとにかく心配で帰りました所ハンナベルタの話しからどうも皇妃様の侍女に召し上げていただく話しではないかと推測しまして・・・そうなれば、またなかなか結婚の時期を逃してしまいますので先ずは取り急ぎ式のみ挙げてまいりました。」
「そう。あなたにしては珍しく大胆に動きましたね、話しを聞いて私も驚きました。それにしても長いこと待たせた婚約者とめでたく式を挙げられたことお祝いします、おめでとうセレン。さ、てと。その奥様の事なんだけど、どうかしら新婚だし侍女には無理よね?」
「申し訳ございません。今すぐには・・・」
「なんでも彼女、私の変装も見抜いていたとか?やっぱり興味があるの、私はあまり気を許せる相手がいないでしょう?侍女とは言わないわ、お友達として一度結婚の挨拶も兼ねて皇帝陛下と私に合わせてくれないかしら?」
「いえ!友人などと勿体無いお言葉です。しかし、皇帝陛下にもこの度の報告を兼ね落ち着きましたら一度連れて参ります。」
「ホント⁈約束よセレン。そうだわ、奥様にこれをお祝いに。サーラ渡してあげて。」
それはアルメリアの紋章の入ったブローチだった。元々アルメリアとは彼女が発見された湖の辺りに生息する花の名前だ。その花を象った清楚なブローチを受け取ると深く頭を下げセレンは部屋を下がった。
さあ、次は騎士団の連中に今朝の話しをしなければならない。