ご挨拶
数日後、セレンはハンナを連れ皇帝夫妻に謁見を申し込みいまはその謁見の間の扉の前で椅子に座り待っていた。
「セレン、皇帝陛下はお怒りじゃないかしら?本当に大丈夫?」
上目遣いで不安げに尋ねる新妻を可愛らしいとしか思えず場もわきまえず抱き締めたかったが我慢しながら答えた。
「大丈夫だよ、お二人共寛容な方だから。」
やがて中に呼ばれハンナは俯いたままセレンの後を着いて入った。
「よく来てくれたハンナベルタ・ヴァン・ファンテル子爵夫人、それにセレンもな。この度は長年保留になっていた婚儀が行われたと聞き、セレンをそこまで慌てさせる令嬢とはどのような者か会ってみたく呼び出してしまったが快く応じてくれてすまぬな、新婚なのに。」
「陛下のお呼びだしならばいつ何時でも。こちらに控えておりますのが先日、妻に娶りましたハンナベルタでございます。」
ハンナは深々と例をした。
「お初にお目にかかります。ファンテル子爵家をこの度継承しましたハンナベルタ・ヴァン・ファンテルでございます。」
「うむ、顔を上げて楽にするが良い。」
二人は顔を上げると目の前に置かれた椅子に座った。その際に初めて見たハンナの素朴ながらも凛とした可憐な美しさに皇帝がセレンをからかう。
「成る程な、せれんが大事にするのもわかる気がするしアルメリアが気に入るのもわかるな。なかなか利発そうな奥方だ。さて、私はこれから公務があるがファンテル夫人?セレンの仕事が終わるまでアルメリアの相手を頼めるかな。」
「はい。皇妃様のお相手が十分務まるかわかりませをんが、私で宜しければ喜んで。」
ずっと黙って座っていたアルメリアの顔が華が咲いたように明るくなった。
「では、サーラ。ファンテル夫人を部屋へ。」
「畏まりました。では、ハンナベルタ様ご案内いたします。」
セレンを残し先に部屋を出ることになってしまったハンナは一瞬不安気な瞳をセレンに向けたが、彼は黙って大丈夫だと言うように微笑みながら頷いた。では、腹を括って行くしかないですか・・・。心細さをなんとか奮い立たせてサーラの後ろを着いて行った。
皇妃様のお部屋は皇帝陛下との続き間になっているらしいが、今日は後宮の一番奥にある部屋に通された。中にはすでに皇妃様がいらっしゃっている。後宮は一階部分にありそれぞれの庭が用意されている、この部屋は代々寵愛を受けた者の為の部屋で鈴蘭の間だそうだ。
「ここなら男共は入って来れないからねっ!ハンナベルタ、ハンナとお呼びしてもいいかしら?」
お店に来た時の様に気さくに話しかけられ驚く。
「あ、はっはい皇妃様。どうぞハンナとお呼びくださいませ。」
深々〜っと腰を折り礼を取る。
「いやあね、堅苦しいわ。私のこともメリアと呼んで。」
「そ、そんな恐れ多いです!」
「ハンナ様、この方はご存知の通り表と裏の顔がございます。どうぞメリア様と呼んで差し上げてくださいませ。」
サーラに言われて恐る恐る呼んでみる。
「で、ではメリア様。本日はお招きありがとうございます。」
次の瞬間柔らかい感触に包まれた。
「かーわーいーい〜!ね、私に何か見せたいものがあるんじゃないの?」
手を引いてそのままソファに隣同士に腰掛ける。ハンナがサーラから荷物を受け取りアルメリアに渡す。
「あの、遅くなりましたがあの日皇・・・メ、メリア様が御所望になられていたお品です。気に入っていただければよろしいのですが。」
受け取ったアルメリアは荷を解き瞳を輝かせて二つのクマを見入っている。それから散々撫で回し、そのあとハンナに向かって少女のような無邪気な笑顔を見せた、ハンナがうっかり見惚れてしまう程の笑顔を。
「ありがとう!ハンナ‼︎ずーっとコレが欲しかったの。」
「では、お気に召していただけましたか?」
ブンブンと頭を上下に振りもう一度にっこり笑う。
「あのね、お願いがあるの。」




