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悪役令嬢 恋愛システムが破綻しました  作者: 南蛇井
第一章「設計された恋」

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第12話:封印区域への導き

夜。


王城の地下へ続く回廊は、昼の華やかさとは別世界だった。


白い石壁は湿り気を帯び、

灯火は最小限。


足音が響く。


レディアナの隣を歩くのは、ティアナ。


観測塔所属、数値解析官。


本来なら彼女がここにいること自体、規律違反だった。


「本当に行くの?」


ティアナは小声で問う。


「封印区域は王家直轄。閲覧許可は……」


「ありません」


レディアナは即答する。


静かに、しかし迷いなく。


「だからこそ、です」


地下への階段は、古い。


制度成立以前から存在する石造り。


恋愛機構の設計図には載っていない区画。


安定値急落。


聖女の揺らぎ。


王命干渉。


すべてが示している。


表層の制度は、すでに歪み始めている。


「ねえ」


ティアナが立ち止まる。


「あなた、本当に怖くないの?」


「怖いですよ」


レディアナは振り向かない。


「でも、知らないまま従うほうが怖い」


一瞬の沈黙。


ティアナは小さく息を吐き、再び歩き出す。


奥へ。


さらに奥へ。


やがて、巨大な鉄扉が現れる。


封印紋章。


王家の古印。


そして、その下に刻まれた文字。


《原典保管区》。


ティアナが震える声で言う。


「……ここ、調和婚姻法の原資料が眠ってる場所」


「ええ」


レディアナは扉に触れる。


冷たい。


だが。


彼女の指先に、かすかな反応。


封印紋章が、一瞬だけ淡く光る。


ティアナが息を呑む。


「今、反応した……?」


「干渉波ではありません」


レディアナは目を細める。


「もっと古い……何か」


重い音を立て、扉がわずかに開く。


中は書庫。


高い天井まで積まれた古文書。


埃の匂い。


時間の層。


ここは、制度の“起点”。


ティアナが水晶端末を起動する。


だが画面は不安定。


「ここ、観測網が届いてない……」


「だから封印されている」


レディアナは中央の台座へ進む。


そこに置かれた、一冊。


黒革装丁。


金の文字。


《調和婚姻法 原典》。


空気が変わる。


恋愛が、国家安定装置として再定義された瞬間の記録。


ページを開く。


“共鳴適合体の選定”


“象徴存在の必要性”


“感情誘導による安定維持”


ティアナの顔色が変わる。


「これ……最初から“設計”だったの?」


レディアナは静かに読み進める。


そこに記されていた一節。


《適合しない個体は、排除対象とする》


ページをめくる。


さらに古い文書が挟まれている。


手書き。


制度成立以前の記録。


《干渉無効血統について》


ティアナの声が震える。


「アルセリア家……」


そこに記されていたのは。


“共鳴干渉に反応しない血統が存在する”


“制度設計以前より確認”


“再出現時は観測対象”


レディアナは目を閉じる。


胸が静かに波打つ。


恐怖ではない。


確信。


「私は偶然ではない」


ティアナが彼女を見る。


「あなた……制度の誤差じゃない」


「ええ」


レディアナは本を閉じる。


「制度以前の存在です」


その瞬間。


遠くで鐘が鳴る。


観測塔が異常を検知。


「地下区画、封印破損!」


「未登録波形検出!」


だが、ここは観測網外。


完全な把握はできない。


ティアナは小さく笑う。


「恋愛劇どころじゃないわね」


かつての物語はこうだった。


王子と聖女。


完璧な共鳴。


そこに割って入る令嬢。


揺らぎ。


嫉妬。


選択。


だが今。


それは崩れた。


恋愛は舞台装置だった。


制度の歯車。


レディアナは書庫を見渡す。


「崩れ始めています」


「何が?」


「“管理された幸福”が」


上階。


王太子は報告を受ける。


「封印区域に侵入?」


名が告げられる。


レディアナ。


彼は立ち上がる。


胸が高鳴る。


怒りか。


焦燥か。


それとも。


止めなければならない。


だが同時に。


知りたい。


彼女が見たものを。


地下書庫。


レディアナは静かに言う。


「第二幕が始まります」


ティアナが苦笑する。


「第一章、これで終わりね」


恋愛劇は崩れ始めた。


王子 vs レディアナ。


その構図は、もう古い。


これからの対立は。


制度 vs 自由意志。


そして。


“管理された幸福” vs “選ぶ幸福”。


地下で灯った小さな光が、


やがて王城全体を揺らすことになる。


第一章――終。

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