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第4話 虹色のカエルとお話

 

 しばらく待って、虹色のカエルが目を覚ました。

 ぱっと見、カエルが仰向けにひっくり返っていると、死んでしまっているように見えてちょっと心配だった。良かった。


「大丈夫?えーと、僕は怪しいものではありません……あの、見た目はちょっと怖いかもしれないけど……」

「……っきゃあああぁぁぁぁぶふ!」

 僕の身体を勝手に使って、セイ様が手でカエルの口を塞いだ。

「叫ぶな!アイツに気づかれたらどうする!」


 もごもご、もご……

 口を塞がれたカエルが動いている。


「わかったか、手を離すが、叫ぶなよ」

「……っぷはぁ!な、なにをなさるのですか!いえ、それより、貴方様、その気配は、まさかセイ様ではあられませんか?それに……ミト様の気配もします……!」


 ミト様?

「……わかるのか。じゃあやっぱりお前はミトに従ってたカエルか」

「!やはり、セイ様なのですか!そ、そのお姿は一体……?!」

「ぁぁ、その辺の説明はこいつがするから。代われ、俺がずっと出てると魔力を無駄に消費する」

「ええっ?!」


 僕が説明するの?!っていうか知り合いなのこのカエルさん?!


「こいつ……とは?」

「ごめんなさい、僕です、えーと、セイ様の生まれ変わり……?だってセイ様は主張している、イブキと言います」

「イブキ様……?セイ様の生まれ変わり、ですか?」

「僕はそれが本当かどうかわからないんですけど、セイ様の声が突然聞こえるようになって、セイ様が僕の前世の魂だって主張するので、そうなのかなって……」

「まぁ!そうなのですね、でも確かに、貴方様からはセイ様と同じ魔力を感じます、それに、ミト様のお力も感じます!」

「あの、そのミト様ってどなたですか?僕は知らないんですけど……」

「ミト様は、清らかな水の女神であり、セイ様の妻ともなられた、わたくしの主ですわ!」

「えっ、女神様?で、妻?!セイ様の?」

「そうでございます!ミト様はとても深くセイ様を愛しておられましたから、女神であられながら、その存在の持つ輝きを落としても、人としてセイ様の奥方となられました。その時はわたくし達水の精霊は嘆き悲しみましたが、ミト様のお幸せそうなお姿を見て、お幸せであればとお見守り致しておりました!」

「そ、そうですか……」


 ねえちょっと、セイ様、奥様って言ってるよ!

 本当に女神様と結婚してたの?!


「あれ、あの、僕、セイ様の子孫でもあるんですけど……それって、女神様との間にできた子供の子孫ってことですか?」

「もちろんそうでございます!セイ様がミト様以外とお子を成されるなんてこと、ありえませんから!」

「そ、そうなんですね!」


 セイ様は王家の始祖と言われていて、その血を引いていると言われてはいたけれど、もう伝説のような存在だったから不思議だ。


「神様って、結婚したり、人間と子供作ったり出来るんですね……」

「ええ、そんなに多くはありませんが、格の高い神であっても、愛ゆえにその格を自ら落とし、人の身体を持って過ごすことは、昔はありました」

「へえー……昔は?最近はないんですか?」

「……神々の多くは、もうこの世界を旅立ってしまわれましたから」

「旅立つ……?」

「昔は神々も、魔物も人も精霊も、同じ地に過ごしておりましたの。ですが、この世界に隣接する新しい世界層が見つかりました。神々やそれに従う精霊は、一つ上の、過ごしやすい明るい世界層へと移動していってしまわれましたの。あちらは過ごしやすいですし、なかなか戻っては来られませんわね」

「そうなんですか……貴方は行かなかったんですか?」


 世界層とかよくわからないけれど、精霊も行ったと言うのなら、この精霊カエルさんも行けたんじゃないだろうか?


「わたくしは……ミト様とのお約束がありましたから。この泉などの、いくつかの大切な水場を、清らかに保つお役目をいただきましたの。いつかミト様が戻られる時まで……それを放っては行けませんわ」

「その、ミト様は今は……?」

「そうですわ!それですわ、ミト様の行方は、セイ様がお亡くなりになられた後わからなくなっておりましたの。たまに、清らな雨が降るとその気配を感じることはありましたけれど、それもすぐ消えてしまうもので……ですが、貴方から、ミト様の気配を感じます!どういうことですの?ミト様、一緒におられるのですか?ミト様ぁー!」


 話しているうちに感極まったのか、カエルさんがバタバタ暴れはじめた。え、ええー?


 セイ様、どういうこと?ミト様の気配って何のこと?


「……わかった、説明するよ、暴れんな」


 僕の口を使って、セイ様が話し出す。

 カエルさんもピタリと止まってじっとこちらを見た。


「俺が死んだ後、ミトがどうなったのかは知らない。俺自身、前世の記憶は曖昧なんだ、覚えていないことの方が多いし……ただ、なんとなく、おかしいなと思ってたことはある。この身体をつなぐ水だ」


 水?

 確か、あれは、あの時降ってきた雨がたまたま魔力を含んだ水で、それを接着剤みたいに使ってるって言ってたよね?


「身体がバラバラにされた時、降ってきた雨が、ものすごく俺に適応する魔力を含んだ水だった。偶然にしては良く出来過ぎだった。だが、たぶん、あれはミトの仕業だったんだろう」


 ミト様の?


「ミトは、水の女神だと言ったな。確かに、朧げな記憶だが、あいつは水……特に、川とか、泉とか、雨とか、そういう人の近くにある清らかな水の女神だった……気がする。あいつの作り出した水を飲むと、どんな病気でも治るとか、そんな感じの力があったような……それから、あいつは、水になることもできた」


 水になる?


「清らかな水であれば、自分の存在を水に同化させることが出来たはずだ。だから……たぶん……俺たちの身体をつないでるこの水には、ミトが少し入ってる」


 ……えええええ?!

 なにそれ?!女神様入りの水?ええ?


「これは……予想だが。たぶん、俺が死んで、しばらくは俺の亡骸とともにいたんだろうが、俺の魂が転生の準備に入ったとわかり、あいつは……俺を探してたんだろう」


 え、探す?


「俺の魂の生まれ変わり……つまり、お前を探してたんだろ」


 え、えええ?


「前から見つけていたのかどうかは知らんが、少なくともお前がバラバラにされたのに気づいて、自分を溶かした雨を降らせて、なんとか癒そうとしたんじゃないか、多分……」


 えええー、な、なにそれ、そんな事あるの?

 自分を溶かした水とか、ええ……?

 それに、すごい自信だね、死んでも、前世の妻が自分の魂を探してるって当たり前のように考えられるって……


「……あいつは、そういう奴なんだ」

「確かに、ミト様であれば、死んでもセイ様を離さないだろうとは思います」


 カエルさんもこっくりと深くうなづいている。

 え、ええ……


「予想でしかないが、転生した魂を探すために、自分の存在を水に溶かして、世界中に雨として降って探してたんじゃないか……」

「きっとそうですわ」

「だから……俺を、というかお前を見つけた今、多分本人的にはものすごく急いで、世界中に散らばってる自分を集めてる所なんじゃねえかな……」

「そうですわね、ミト様がセイ様を見つけて、ただその存在を遠くから感じているだけで良しとされるとは思えません。今は本当に姿を現せないだけなのでしょうね」

「よっぽど世界中に散らばってたんじゃないか……?」

「ええ、ええ。きっと世界中くまなく探しておられたのですわ。その割にこれまで見つけられなかったのが不思議ではございますが……」

「うーん……」


 なんか……凄い人を奥さんにしてたんだね……

 話を聞くだけでも、ものすごい執着を感じるんだけど……


(なにを他人事みたいに言ってるんだ、執着されてるのは俺の生まれ変わり、つまりお前だぞ)


 えっーー?!

 そ、そんな、セイ様のことを探してるんでしょ?!僕じゃないよね?


(何度言ったらわかるんだ……俺はお前の前世で、同じ魂なんだ)


 え、ええええ……?

 どうしたらいいの、突然その女神様が現れるかもしれないってこと?


(どうしようもないな、まあ、味方ではある)


 ええええ、と戸惑う僕を置いて、セイ様は僕に体のコントロールを戻した。


(こいつの魔王との関係と、魔王の情報聞いとけ。魔神のことも。あとここの場所と、お前の祖国のことも)


 そ、そうだった!


「あの、カエルさん!あれ、あの、お名前は?」

「あら、そうですわね、失礼いたしました。流津と申します。よろしくお願いいたしますね、イブキ様」

「あ、よろしくお願いします!えっと、さっきここに天馬の魔王が来ていましたよね?あの、流津さんとはどんな関係なんですか?」

「ああ……黒雷様のことですわね。あのかたは、このあたり一帯を統べる魔王なのですわ。私はこの泉を主な住処とする精霊ですから、あの方の支配下にあると言えますわね。忠誠を誓ったりしているわけではございません、私の主はミト様だけですから。ただ、ここに住む以上、ある程度言うことは聞いていますの。ただ……」


 ふう、とカエルさんはため息をつくと、あっという間にその姿を人の形に変えた。


 人の姿のカエルさんは、美しい衣装を着た髪の長い少女だ。かわいい、というか少女なのに美人な感じだ。


「あの馬、私に懸想しているのですわ。滅多に人の姿にはならないのですけれど、この姿を見て一目惚れしたようで……」

「へええ!え、馬なのに人の姿に一目惚れするんだ?」

「黒雷様は、天馬の他に一角獣の血もひいているようですの。一角獣は穢れなき乙女に魅力を感じる生き物なのです」

「なるほど……」

「そのせいかどうか知りませんけれど、私と親しかった以前のこの地の魔王を倒して、自分が魔王の地位を得たのですわ。実の兄であったというのに……」

「え、本当はお兄さんがこの地の魔王だったの?」

「ええ、そうです。それをあの馬鹿……失礼、黒雷様が、魔神の手下になることで魔神の力添えを得て簒奪したのですわ」

「それまでは魔神の手下じゃなかったの?」

「ええ、この地は魔神とは関わりがありませんでしたのに……」

「そっか……あの、あの天馬の魔王は強い?」

「魔神の手下になってから力を増したようですわね、突風の如き速さで飛び、雷を使いこなすとか……」

「そ、そう……」


 そんな速さで空を飛んで雷を打ってくるとか、倒せる気がしないな……


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