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第2話 VS蔵内先生①カードを愛する者たち

「俺の先攻、カードドロー!」


 デッキから1枚引き、6枚となった手札を視界に入れながら、勝示は相手レイザーへと目を向ける。

 蔵内先生がかつて全国大会に出場したほどの強豪レイザーだったことは初耳だが、それならば是非ともその実力を確かめたい。

 相手の実力を見極め、その上での勝利を示すため、初手は決まった。


「出てこい!『刀・カウス』!」


 手札からファイターカードがフィールドに召喚された、次の瞬間。


「うおっ!?」


 勝示の背後に立っていた生徒が驚きの声を上げたのは、突然フィールドに出されたファイターカードに描かれている絵と同じ姿の刀を持った戦士が現れたからである。

 これはレイブレバトルにおいては日常風景。

 レイザーの持つビートによって、ファイターはその場で実体となって現れるのだ。

 触れることこそできないが、強いビートの持ち主ほど、より鮮明に、より大きく実体化させられる。

 尤も、テーブルの上に収まるサイズでなく、周囲のギャラリーにもお構いなしに人間大以上のサイズで実体化させるのは、少々非常識な行いではあるのだが。


「おぉっと、悪い悪い」


 視線は動かさないまま勝示がそう言うと、ファイターの姿はたちまち小さくなり、フィールドに置かれた自身のカードの上で、それと変わらぬサイズになった。


「『コアマン』も忘れずに、っと」


 コアフィールドに置かれているコアファイター『コアマン』の絵から飛び出すように、無機質な赤単色の人型ファイターが出現した。

 蔵内先生のコアフィールドでも、既に彼の『コアマン』が同サイズで実体化している。


「普段からさっきくらいのサイズでバトルしているのか?最初から最後まで?」


 一連の動きを見ていた蔵内先生が口を開いた。

 先程までの怒りは既に欠片もなく、将来有望なレイザーへの純粋な興味がそこにはあった。


「え、はい。だってデカい方が楽しいでしょ?」


「……それができる1年生は俺の代にはいなかったな」


 その声が勝示の耳に届くことなく、プレイは再開された。


「『スペル』カードを伏せて俺のターンは終了!」


 裏向きにスペルカードが置かれ、ターン終了が宣言されたことで次は蔵内先生の番というところで、勝示の背を親友が小突いた。


「おい、大丈夫なのかよ勝示」


 勝示のメインフィールドにはコアファイターを守るパワー1400の『刀・カウス』、そして伏せられたスペルカード。

 初手としては平凡なもので、特筆すべき点は何もない。

 負ければ連帯責任でデッキを没収されてしまう咲也が心配から声をかけたのも無理はない。


 そして、


「こんなものか……」


と、授業を忘れるほど熱心に調整に取り組んでいた相手の初手がこれでは、蔵内先生がため息混じりに呟いたのも無理はない。


「じゃあ今度は先生のターンだ」


 ターン開始を宣言しつつ、デッキの上からカードを1枚加えて手札を見る。

 生意気な教え子を徹底的に打ち負かすため、教師の初手は既に決まっていた。


「盤上の授業、久方ぶりにいくぞ!『恐教(サディスティック)鞭勉(・スタディー)コク』!」


 蔵内先生が場に出し、実体化させたのは、鞭を構え、妖艶な笑みを浮かべた、グラマラスな女教師型のファイターカード。

 その絵柄から一部に熱狂的なファンがいる『恐教鞭勉』シリーズ、『サディスタ』や『キョーベン』とも呼ばれる中の1枚だ。


「『恐教鞭勉コク』のカード効果を発動する。『コク』以外の『恐教鞭勉』カード1枚を、デッキから手札に加える」


「ファイター1枚じゃなくて、名前に『恐教鞭勉』が付くなら『好きなカード1枚』ってのが強いよなあ。どうぞ」


 蔵内先生は手際良くデッキからカードを1枚抜き、提示する。


「俺が手札に加えるのは、『恐教鞭勉スゥ』」


「ファイターをフィールドに召喚できるのは普通だったら1ターンに1枚まで。でも今手札に加えた『恐教鞭勉スゥ』は……」


「そう。フィールドに『スゥ』以外の『恐教鞭勉』がいる時、手札からエフェクト召喚ができる!『恐教鞭勉スゥ』、エフェクト召喚!」


『恐教鞭勉コク』の隣に、これまた妖艶なファイター『恐教鞭勉スゥ』が実体化する。

 これにより、蔵内先生のバトルフィールドには2体のファイターが並んだが、『刀・カウス』のパワー1400に対し、『恐教鞭勉コク』『恐教鞭勉スゥ』のパワーは共に1000。

 このまま攻撃しても自滅するだけ。

 無論、それは蔵内先生も承知の上である。


「さらにスペルカード『恐教鞭勉・午後授業前のお色直し』を発動する。フィールドに存在する全ての『恐教鞭勉』はパワーが700アップだ」


「げっ!」


 これにより『コク』『スゥ』共にパワーが1700まで上昇。

 攻撃態勢が整った。


「バトルだ。『恐教鞭勉コク』でコアファイターを攻撃!」


 蔵内先生の攻撃宣言に反応して、実体化された『コク』がコアファイターめがけ鞭を振るう。

 コアファイターへの攻撃は、コアが受けるか、別のファイターが代わりに受けるかを選択できる。

 今回勝示が選んだのは前者。

 敵ファイターが2体以上いて、それらに対抗し得るファイターが自身の場にいないのなら、選択する意味そのものが大してありはしないのだ。


「くっ!」


『コク』の鞭が『コアマン』に命中したことで、3枚ある『ライフカード』が1枚破壊された。

 破壊されたライフは、裏向きのまま確認せずに手札として補充するか、コアファイターに上乗せすることでパワーアップに使用できる。

 今回勝示が選んだのは後者。

 コアをパワーアップさせて追撃から守るのは、ごく初歩的な戦術と言える。


「破壊されたライフを『コアマン』に上乗せ!最初の1枚だからパワーは1000アップだ!」


 これでパワー2000となった『コアマン』は追撃される心配はなくなったが、無論それも蔵内先生には想定内。

 まだ攻撃権を残している『スゥ』でコアのライフを削れないのならば、標的を改めるだけのこと。


「『恐教鞭勉スゥ』で『刀・カウス』を攻撃!」


 攻撃宣言に従い、『スゥ』の鞭が『刀・カウス』を襲った。


『ムゥゥ!』


 叫びも虚しく『刀・カウス』は破壊され、勝示のフィールドにコアを守るカードはなくなってしまった。


 唯一伏せられたスペルカードを除いて。

 それが使われるタイミングは、まさにここだった。


「スペルカード、『地獄への糸垂らし』発動!このターン墓地に送られた自分のファイター1体を復活させる!」


 このターン墓地送りとなった、そもそも墓地に存在しているファイターは、『刀・カウス』1枚のみ。


「蘇れ『刀・カウス』!」


 墓地からのエフェクト召喚によって再び姿を現したファイターに、蔵内先生は余裕の微笑を浮かべつつ、スペルカードを1枚裏向きに置いた。


「今のままでは復活させたところで俺の『恐教鞭勉』には勝てないぞ、どうする?ターン終了」


「そっか、『お色直し』は墓地行ってターン跨いでも効果は残るんだった。持続性スペルでもないのに厄介だなぁ」


 口ではそう言いつつ、勝示の口元にも笑みが浮かんでいる。

 蔵内先生の内心に学生時代のような純粋にカードを楽しむ気持ちが甦りかけた時、両者の耳に生徒たちの声が入ってきた。


「蔵内先生って萌えテーマ使いだったんだ……なんかショック」


「自分の手札見ながらニヤつくような奴ばっかりが使うんだよな『キョーベン』って」


「私、持ってた『恐教鞭勉』カード全部弟に押し付けちゃったもん。弟もイヤそうな顔してたけど」


「だいたい強くもねえだろ『キョーベン』。プロでも使ってるの見たことねえし」


「…………ふん」


 眉を顰めて鼻を鳴らしたが、蔵内先生はそれ以上反応しようとはしなかった。

 長年使ってきたデッキが、使い始めた頃と何ら変わらない偏見を、今回も向けられただけのことと割り切っていた。

 使う度に散々浴びせられた心無い声。

 今更生徒からどう言われようとも構うことはない。

 意義を唱えるつもりもなかったが、思いもよらない人物からそれは発せられた。


「んなことねえよ」


 そう呟いた勝示の表情には、明らかな不快感と憤りが滲み出ていた。

 蔵内先生は驚いて口を開きかけたが、何か言葉を挟む余地も与えること無く、勝示は続ける。


「お前ら『恐教鞭勉』使ったり戦ったりしたことあんのか?今先生が見せてくれたみたいに、展開が早いのがウリのテーマデッキだってことも知らねえんだろ?低いパワーも呪文カードで補えるし、使いやすさって意味じゃトップクラスなんだぜ」


「つうか、仮にもプロ目指してるレイザーが他人の使うデッキにケチつけるなんて、有り得ねえよな?」


 咲也による便乗、もとい痛烈な批判を最後に誰も口を開かなくなったため、途端に教室は静まり返ってしまった。

 ターンが回ってきたので勝示がデッキからカードを引こうと手を伸ばした時、先に沈黙を破ったのはターンプレイヤーによる宣言ではなく、教室の扉を開く音だった。


「っ!」


 一瞬、蔵内先生を含めた教室中の全員に焦りの色が浮かんだ。

 授業中にレイブレバトルをしていることが他の教師や生徒にバレでもすれば、当然ながら全員ただではすまない。

 特に教師という立場にありながら事態の中心にいる蔵内先生は気が気でなかったが、それはすぐ杞憂に終わった。


「すいません遅れまし……あれ?」


 入ってきたのが、同じ6組の生徒である桃原(ももはら)遊泉(ユミ)だったからだ。

 彼女がいなかったことに気付かなかったのは蔵内先生の落ち度だが、問題児の相手をしていて冷静ではなかったからという言い訳は立つだろう。


 濡れた手をハンカチで拭く所作から、彼女が今までどこにいたのかは察せられた。

 遊泉自身も、教室内に立ち込めるビートから状況を把握した様子で近づく。


「なに、勝示と蔵内先生でレイブレバトルしてんの?授業中に?いいなあ、あたしも……」


「わざとらしいぜ、遊泉」


「へっ?」


 デッキからカードを引きながら勝示は幼馴染へ視線を向ける。

 その口元は意地悪い笑みで歪んでいた。


「多少遅れたからって、教室まで手を濡らしたままになんて、おまえは絶対やらない。トイレに籠ってたのは確かなんだろうけど、用を足してたからじゃないよな?」


「おい!女子に……」


 蔵内先生が口を挟もうとしたが、構わず続ける。


「教室での俺と同じだ。おまえはさっきの授業終わり……いや、ひょっとしたらもうちょっと前かもな?に、いい感じのデッキ構築を思いついたんだ」


 遊泉の手を拭く動作が止まった。


「ところが、ちゃんと構築まで終わらせようと思ったら、休み時間だけじゃとても足りないし、なんだったら持ってないカードもあるから、机で実物を広げながらやることもできない。だからトイレに籠って、一人静かにスマホでリストを見ながら構築してたら遅くなった。素直に言ったら怒られるからトイレが長引いたことにしようと、そんなところだろ?」


「アンタジャアルマイシソンナコトスルワケナイデショガ」


 余りの棒読み加減と顔中流れる汗に、一同は図星だと確信した。

 事実、遊泉のポケットに仕舞われているスマホのメモ欄には、つい2分ほど前に完成したばかりのデッキレシピ、及びそれに必要なカードと購入予算がびっしりと記されている。

 だが、彼女がシラを切り通せばそれまでなので、誰も追及しようとはせず、再び皆の視線は盤面へと移った。

 遊泉も平静を取り戻しつつ、勝示と蔵内先生、双方の盤面を覗き込んだ。


「あ、先生『サディスタ』使いなんだ。展開しやすいし絵柄も可愛くて良いですよね」


「……ありがとう」


 述べられた礼が、遊泉一人に向けられたものではないことを、誰も知らない。


 ともかく、勝負は再開された。


「じゃ、ここらでいかせてもらうぜ!」


 威勢の良い言葉と共に放たれた勝示のビートに共鳴し、興奮した遊泉や咲也からも僅かにビートが漏れ出る。

 昨年のレイブレ中学生大会、都内ベスト4に輝いた三人のレイザーが発する高レベルなビートに、蔵内先生の額を汗が伝った。


今回登場したカード紹介


①刀・カウス

タイプ:戦士

レイズ:0

パワー:1400

効果:自分の場に『刀・ボタン』がいる時、自分と『刀・ボタン』のパワーは500アップする。


②恐教鞭勉コク

タイプ:天使

レイズ:0

パワー:1000

効果:このカードの召喚に成功した時、デッキから『恐教鞭勉コク』以外の『恐教鞭勉』カード1枚を手札に加える。


③恐教鞭勉スゥ

タイプ:天使

レイズ:0

パワー:1000

効果:自分のメインフィールドに『恐教鞭勉』ファイターが存在する時、手札のこのカードをエフェクト召喚できる。


④ 恐教鞭勉・午後授業前のお色直し

スペルカード

効果:自分の場に存在する『恐教鞭勉』ファイター全てのパワーを700アップする。


⑤地獄への糸垂らし

スペルカード

効果:このターン自分の墓地に送られたファイター1体を選択し、エフェクト召喚する。



⑥コアマン

コアファイターカード

タイプ:戦士

パワー:1000

効果:なし


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